こぼれ話 カティアの恋人!?
「依頼もこなしたし、観念してもらうわよ!」
「何をどうするのか知らないが、紹介ならするぞ?」
アスカちゃんたちフロートとの依頼を大成功に納め、帰って来た翌日。早速私は結婚相手探しにエラを訪ねた。というのもエラは治癒師の功績が大きいから町で一軒家を持っているのだ。以前に帝国兵を懸命に癒した報酬だとか。場所も治安が良くて正直、うらやましいわ。
「言ったわね!案内してもらうわよ」
皆の裏切りは許せない、きっと私も追いついてみせるんだから!そう思って、町で服も買って可愛らしいバッグも持って来たのだ。
「えっ!?ここ?」
「ああ。私もここで出会ったんだぞ」
意気込んでエラに連れてこられたのは孤児院だった。
「あっ、ねーちゃんだ!エラねーちゃん」
「うむ。カラン、元気だったか?」
「当たり前だよ、あれ?今日は誰かいるの」
「ああ、私のパーティーメンバーだ」
「すげー、貴族様みたいだ」
「なになに~誰か来た~?あっ、エラだ」
「エラお姉さんだろう」
「みんな~、エラが来てくれたよ~」
「エラ姉?」
「エラ来たの?」
1人が孤児院の中に戻るとわらわらと少年少女たちが出てきた。
「あの、エラ。まさか、この中から選ぶの?」
「そんなわけあるか!孤児院にだって世話役がいるだろう。そっちだそっち」
「そ、そうよね。いくらなんでもそれはないわよね」
そう言いながら、孤児院にいる子たちをもう一度見る。
「おい!カティアお前まさか…」
「ち、違う違う。念のため確認しただけだって!」
「頼むからおかしなことはしないでくれ。みんな純粋なんだ」
「私だって純真な乙女です!」
「姉ちゃんたちなに話してんだ?行こうぜ!」
「ああ」
少年たちに案内されて孤児院の中に入る。入って見ると外観より質素だ。
「僕らは向こうに行ってるから早く来てくれよ~」
「ああ分かった」
少年たちとは一旦分かれて奥の部屋に入る。
「なんていうか、想像していたより…」
「ああ。外観は外からも目立つ。ある程度、町からも補助が出るが中はな。これでも、少しずつ改善しているんだぞ」
「おや、エラ。にぎやかだと思ったらあなたでしたか」
「院長、久しぶりだな。こちらは友人のカティアだ。よろしく頼む」
「カティアです。今日はお世話になります」
「院長のゼストです。丁寧にありがとうございます。どこかのお嬢様ですか?」
「いや、同じパーティーのメンバーだ」
「それはよい友人で。冒険者家業は危なくないですか?」
「順調と言ったらいいか。この前は良いことを教えてもらったぞ」
「それはまたバティスが怒りそうな話ですね」
「あいつは心配性なんだ」
「ですが、当然ですよ。おっと、お嬢さん。バティスというのは彼女の恋人ですよ。以前は院長をしていて、今は教会にいます。この建物の改修ができたのも彼のお陰なんですよ」
「そ、そうなんですね。院長先生も大変ですね」
「私はそんなことはありませんよ。しがない身分ですし。こうやって、エラに支援してもらっているわけですしね」
「いや、お前がここにいてくれるから私たちも外に行けるんだ。感謝している」
「他に出来ることがないだけですよ。さて、長話もなんですし行きましょうか」
一旦話は終わり、子どもたちのもとに向かう。
「ねえお姉ちゃん、なに話してたの?」
「えっと、自己紹介?」
「え~、そんなんであんなにかかるのかよ~。大人ってめんどうだよな~」
「あなたも大きくなったらわかるわ。ねぇ、エラ」
「どうだかな。私はそう思ったことはないぞ」
「やっぱえら姉ちゃんはすげぇよな~。姉ちゃんも見習えよ」
「私はパーティーのリーダーだから苦労してるの!あなたも似た立場になったらわかるわよ」
「ふ~ん。ま、いいや遊ぼうぜ!」
「あっ、待って。いきなり走れないから!」
「お姉ちゃん、冒険者なんでしょ?いこうよ~」
「わ、分かったから準備だけ待って」
「しょうがないなぁ~、エラお姉ちゃん行こう!」
「ああ、いいぞ」
子どもたちと楽しく遊んだ私たちは夕食をごちそうになり帰ることになった。
「エラ姉ちゃん!カティア姉つれてきてくれてありがとな!」
「ああ。いいやつだから今後も来てくれるだろう」
「ほんとう?今度、お裁縫の続きやろうね!」
「え、ええ。そうね、ただし、練習サボっちゃだめよ?」
「は~い」
「今日はありがとうございました、カティアさん。エラもな」
「ふん。いつものことだ」
「いいえ。私も久しぶりにリラックス出来ました」
「では、また来ていただけますか?」
「はい。子どもたちとも約束しましたから」
ゼストさんとあいさつを交わしてエラと一緒に家に帰る。
「あれ?私って目的を果たしてなくない?」
「なぜだ?もうちゃんと会ってるだろう」
「ええっ!?ゼストさんなの」
「今日は他に職員はいなかっただろう?」
「あの人、ちなみにいくつなの?」
「確か私の3つ程上だから28だな」
「ふむ、それほど上じゃないのね…ってやけに勧めるわね」
「あのままでは自分のことを気にしないからな。あいつも自分のことを考えないと」
「何でそんなに気にしてるの?」
「私はあの孤児院の出身なんだが、あいつはこの町の生まれでな。小さい頃は色々やってたんだが、大きくなると保証が必要になる。町出身のあいつが孤児院の責任者になってくれたおかげで、多くの子どもたちが職に就きやすくなったんだ。そんなあいつがあの子たちのためにいつまでも独り身というのがな…」
「それで手ごろな私を紹介したってわけ?」
「手頃ではないぞ。カティアもゼストもどっちもいいやつだ。相性もいいんじゃないかと思ってな」
「そ、そう?でも、先は長そうよ」
「どうしてだ?」
「今日も子どもたちにずっと構われて、ほとんど話せなかったじゃない!」
「ははは、カティアは気に入られたみたいだからな。町ならいつでも会えるし、これからだな」
「もう…他人事みたいに」
結局、パーティー解散まで3年。さらに2年間を交際に費やし、結婚するころには30歳になろうかという時だった。
「もう~、あなたたちばっかり先先結婚して!私なんてようやくよ!」
「久しぶりに会ったと思ったら、カティアは変わりませんわね~」
「メイ!あなた、相手は普通の騎士爵って言ってたわよね?どこの貴婦人って格好なのよ」
「それが旦那様が活躍しまして。仕えるのは男爵家ですけど騎士団長にまでなってしまって…」
「よかったじゃ~ん、メイ」
「あなたはあなたでそんな派手な衣装でどうしたのよ?」
「付き合ってた彼が引退に合わせて、ダンジョンの戦利品を扱う商会を始めたの。元冒険者だから顔も広くってね~。うちは店の護衛もしばらくはいらないし、将来安泰・商売順調なの。今日も娘は商会で見てもらってるよ~」
「はぁ~、変わらないのは私たちだけみたいね、エラ」
「そうだな。だが、2人とも幸せそうでいいじゃないか」
「まあそうね」
「2人はずっとこの町にいるんでしょ?たまにはどこかに行かないの?」
「行くって言われてもね。ゼストは孤児院の院長だし、エラの方は夫が教会を任されてるのよ。流石に簡単に離れられないわよ」
「それならこの前、面白い話聞いたよ~。シェルレーネ教でお休みが欲しい人のために期間限定の派遣司祭が始まったんだって。希望すれば中央神殿から一定期間代役をしてくれるって!」
「そんなものが出来たのか。思い切ったことをするな」
「うん。前の巫女様のムルムル様が中心になってやってるんだって!すごいよね~、あの人も結婚したばっかりでしょ?」
「前々から世界各地を回られてますし、各地の教会の実態を知っているからでしょうね」
「そうか…一度、あいつに話してみるかな」
「そうしなよ~」
「そうですよ。私も貴族の端くれ、孤児院の方は人を手配しますわ」
「ええっ!?悪いわよそんな…」
「それならうちもいけるよ~。たまには人のためにお金を使わないとね」
「2人ともありがとう!私もゼストに話してみる」
「うんうん。でもさ~、ちょっと違和感だよね」
「分かりますわ」
「何が?」
「あのカティアが男の人の名前を呼んでるんだもん」
「なっ!?まだそんなこと思ってたの」
「え~、だって最初は子どものおまけだってずっと言ってたじゃ~ん。それがさ~」
「ええ。だんだんと休日のお付き合いが多くなって寂しかったですわ」
「あっ、あの頃は付き合い初めだったし…」
「そうだな。みんなカティアが来ないと言いながら、ずっとお前の話をしていたぞ」
「何よそれ。変な話してなかったでしょうね?」
「さてな。それより時間はいいのか?」
「あっ!?もうこんな時間!呼んでおいてなんだけど行くわね」
「ああ。全く、2人とも済まないな。忙しいだろうに」
「いいよ~、カティアが幸せそうで」
「そうですわ。せかせかパーティーのために動いていた彼女が、自分のために生きているんですもの。あの人を紹介したエラには感謝しています。あなたこそ大丈夫ですか?まだ、治癒師は続けているのでしょう?」
「問題ない。私もできることをやるだけだ」
「何か困ったことがあったら言ってくださいまし」
「うむ。頼りにしている」
「それじゃ~、行こっか」
「どこにだ?」
「我らがリーダーの初々しい姿を見に!」
「やれやれ、程々にだぞ?」
こうしてパーティーが解散した今も私たちは会っている。あの頃のようにずっととはいかないが、この関係を今後も続けていきたいものだ。




