討伐隊、南へ
「そんじゃ、出発するけど前はどうする?昨日と一緒であたしとリュートが先頭でいいかい?」
「わ、私が先頭でもいい?稼がないと…」
「いいけど無茶して、治療院の世話にならないでくれよ。こっちも変な噂が立つんだからね」
合同パーティーで格下の魔物にケガをした場合は該当のパーティーだけではなく、同行していたパーティーにも噂が立つことがある。ジャネットさんはそれを警戒している様だ。
「まあ、その場合は私がやる。これでも治癒師だからな」
「そういえばエラさんは治癒師なんですよね。数か月無償奉仕の期間があるってほんとですか?」
「うむ。今だと大体2か月か?一般的には教会や治療院で働くんだが、この国じゃ兵士の見回りも多いからそっちに直接派遣されることもある」
「それって大変そうですね」
「まあな。しかし、隊長によりけりだな。外部の人間をどう扱うかの話だからな。軍も治療院との関係があるから苦情を言えばすぐに通るしな」
「それはよさそうですね。でも、危なくないんですか?」
「確かに危険ではある。冒険者ならこうやって力も近い人間が集まることが多いが、兵士は一定以上の実力者が集まるだけで、割合差があるからな。上に上がれば最適化するんだろうが、下はそうでもない。こういうのは失礼だが、当たりはずれは確実にあるな」
「私は難しそうですね。すぐに前に行っちゃいそうです」
「私たちは後衛職だからな。まあ、私もフレイルを持って前に行く時もあるが」
「エラは無茶しすぎだよ。真ん中で待機してればいいのに…」
「他には攻撃手段がないからな。聖魔法は特に防御・回復に寄っているんだ。せめて、何かサブでも使えればいいんだがな」
「光魔法とかどうですか?サブにはぴったりですよ!」
「光か…一応使えるらしいんだが魔導書も持っていないんだ」
「それは損してますよ!ライトの魔法とか火の魔法より簡単に長時間照らせますし、熱もほとんど感じませんよ。フラッシュは相手の視覚を奪えますし」
「あれなぁ、味方も巻き込むだろう?それはどうかと思ってな」
「カティアさんたちのパーティーなら連携も取れてますし大丈夫ですよ。消費MPも低いから治癒魔法の邪魔にもなりませんし!聖魔法と違って、夜行性の魔物にはそれだけで動きを鈍らせる効果もあるんですよ。お勧めです!」
「そ、そうなのか?魔導書も安いし、今度買ってみるか…」
「アスカ、営業は良いけどよくそんな効果知ってたね。どこで読んだんだい?」
「えっと、どこでしょう?でも、知ってるんだからどこかで読んだんですよ」
「そうかい。まあ、アスカも使えることだし、見せてやったらどうだい?」
「ふむ。アスカも光属性があるのか?」
「あるというか魔石ですね。この杖についているんですよ」
「なるほどな。では魔物が出たら頼む」
「任せてください!ジャンジャン見せますよ」
「あっ!アスカ程々に…って聞いてないねありゃ。エラ、覚悟しなよ?まあ、しんどいのは前衛とかか…」
「それはどういう…」
「いけっ!集魔の粉」
これはエラさんのために魔物を相手に実践しなければと思った私は、迷わず集魔の粉を使って周辺の魔物を集める。この近辺に強い魔物がいないといっても、減らすことは重要だしね。粉に混ぜられた魔物や動物の香りに誘われて早速魔物がやって来た。
「むむっ、オーガかぁ。ちょうどいいかも。ジャネットさん行きますよ~」
「はいよ。リュートは後ろに被害がいかないように連絡係な」
「分かりました」
8人の中から2人だけ突出した陣形を組んで魔物を捜す。
「左後方はまだ遠い…今一番近いのは右前方ですね。行きますよ~」
ささっと、自分にはホバー。ジャネットさんにはフォローをかけて一気に間合いを詰める。
「このまま間合いを詰めて、フラッシュ!」
一瞬で閃光がオーガたちを包む。突然の光に視界を奪われたオーガたちはたちまちジャネットさんによって斬り捨てられた。
「どうですか?使える魔法でしょう!あれ?」
「あたし達は魔法で移動してるからね。ついて来れるわけないよ」
「しまった!次こそは。時計回りに戦えば、行けそうですからみんなの動きに合わせましょう」
「へいへい」
「もっとやる気を出してください!チャンスなんですよ」
「へ~い」
後方にみんなが確認できたら次の相手に向かっていく。今度は側面だ。
「皆さん、下を見てください」
「ライト!そして、フラッシュ!」
まずはライトで空に向けて光を放ち、注意を集めてからフラッシュで目くらましだ。後は混乱しているところに魔法を…。
「ウィンドカッター」
オークの群れを一気に倒す。どの道、血抜きで一部を切るからそこまで照準を合わせなくていいので、こちらも楽だ。
「次に向かいましょう!」
「待って、まだ血抜きとかが…」
「どうせ周辺には他の魔物はいないので大丈夫です!」
「なんでわかるのかしら?」
「さてな。だが、そういうことは詮索無用だ。ついて行こう」
「だね~、あたいも置いてかれないようにしないと、流石に魔法で動きが早くなってるから大変だよ」
こうしてぐるりと円を描くように私たちは倒し回った。
「最後は最初に見えてたオーガだ。後はまたフラッシュで…えっ!?頭に魔法が浮かんできた」
「アスカどうした?」
「い、いえっ。行きます!ライトアロー!」
杖を媒介にして光の矢がオーガに向かって放たれる。その光は体を貫いた後、霧散した。
「何だろう、今の魔法…」
「アスカ!ぼさっとしてないで倒すよ」
「は、はい!」
私は陣形を立て直される前に、フラッシュの魔法でオーガを攻撃してその間にジャネットさんや、これまでの戦いで戦法を見ていたカティアさんたちがとどめを刺した。
「ふむ。自分で言う通り、確かに使い易そうだったな。強い光といっても、直接浴びなければ良さそうだ」
「夜はまた光が強く影響しますから、どこかで練習してくださいね」
「ああ。しかし、本当にすごいのだな。光の攻撃魔法まで使えるとは、かなり修行を積んだんだろう?」
「ま、まあそうですね!エラさんも頑張ってください」
「うむ。これでフレイルを振る回数も少なくなりそうだ」
「振るのは止めないんですか?」
「これでも中々使いこなしているんだ。邪魔にはならんさ」
「もう、またそんなこと言ってエラは。後ろでいいのに…」
「それより、素材を回収しないと!そこら中に散らばってるわよ」
「そうだな。行くぞアスカ!」
「はい」
皆で1か所ずつ倒した場所を回って回収していく。
「これだけあれば追加予算も…」
「あたいたち何もしてないけどね」
「うっ!」
「い、良いですよ。私が先走って倒し回っただけですし」
「まぁそうだね。今回は山分けか6:4ってところだね。ちゃんと後ろは見てもらってるし、アスカの行動は合同パーティーで褒められた動きじゃないしね」
「すみません」
「まあ、この辺りの治安はよくなるだろうから別にいいさ。でも、思ったより低級の魔物ばっかりだったね。昨日はそこそこの相手もいたのに」
「元々、この辺りは平和だったから。南の草原地帯もそこまでじゃないの。たまに強い魔物がいるから巡回されてるだけで」
「冒険者的には外れって訳かい」
「どうかしらね?安全に収入が入るのがいいかは人それぞれだし。私たちも遠征で隣の迷宮都市まで行くけど頻度は高くないしね」
「それがいいよ。命は一つだからね」
「ジャネットさんみたいに腕利きの冒険者でもそうなの?」
「当たり前だよ。あたしも治療院に世話になった時があるからね。あんときゃ手持ちの金がほぼ消えていったからねぇ」
「意外ですね。これだけパーティーで連携が取れてたらケガもほとんどしなさそうですけど…」
「ま、パーティーなんて変わるもんさ。気が合うだけでずっとやっていけたらそれが一番だけどね」
「ずっとか…私たちも色々考えないとね」
「何か心配事ですか?」
解体をそれぞれの場所で済ませながら、私は質問した。
「心配というか私たちは一番下のメイでも19歳。一番上のエラはもう25歳なのよ。いまだに男の影が誰もないのよね。Cランクでそこそこの実績があるのにひどいと思わない?」
「えっと…」
私より年下のエレンちゃんも彼氏を捕まえてたし、そう言えばこの世界って16歳前後で大体結婚してるんだよね。村はもっと早いって言うからエラさんだと10歳近く適齢期を過ぎていることになる。
「おい、子どもに絡むな。自分に相手がいないからってひがむのはよくないぞ」
「何よ!あなただってそうじゃないの?」
「あ~、そういやカティアはああいうとこいかないのか。エラはいるぞ~」
「何が?」
「恋人。教会関係者だから色々冒険者やってると都合悪くてさ~。辞めたらいつでも結婚できるぞ」
「サティー、冗談よね?」
「まぁ、あたいもいるしな~。ちょっと離れてるけど」
「ん?サティーもいるのか」
「おう!迷宮都市で会ったかっちぃ兄ちゃんだよ。普段は手紙でやり取りしてんだ~」
「かっこいい青年か…以前、潜った時に会った剣士か?」
「そうそう、良い腕してたからさ~。あの後でこっそりつけてみたんだ。そんで、普段泊まってる宿を見つけて突撃したってわけ」
「ええっ!?そういうのっていいんですか?」
「だって、良い腕してたんだから!聞いたらさBランクだったし、男性ばっかりのパーティーで思ったより純情でさ~。「最初はお手紙から」なんて可笑しなやつだったよ」
「えっ、えっ!?ひょっとしてこれってパーティー解散の危機?」
「気にしないでいいわよ、カティア。私は恋人なんていないもの」
「メイ!そうよね。そりゃあ、みんなしているわけないものね!」
「私は一応、貴族の出だから婚約者がいるもの。恋愛なんて出来ないの」
「嘘…で、でも、結婚はどうしたの?その歳でまだなんて…」
「最初は冒険者をしていると言えば断られると思っていたら、飽きるまで待つ!って言ってくれて…。だから、いつでも構わないの。相手も騎士だから、跡継ぎも絶対って訳ではないみたいだし」
「それってもう恋愛…」
「言うな。本人は気付いていないんだぞ」
「皆さんいいですね~、幸せそうで」
「ア、アスカちゃんは流石にいないわよね?」
「いませんよ~、まだ15歳ですし」
「うんうん。まだまだ若いんだから焦っちゃだめよ」
「焦らなくてもアスカはこの歳でこの実力だから、選ぶ方だろう。二十歳になるころにはBランク…いや、Aランクでもおかしくないからな」
「そうそう。早くカティアも見つけなよ~」
「いないのよ!も~」
ズバッ
「あっ!」
解体しながら話していたので、カティアさんが振り下ろしたナイフはオークに深い傷をつけた。
「あ~あ。買い取り下がっちゃうな。カティア、責任もって引き取りね~」
「はわ~」
「そういうところに惹かれる男もいると思うぞ」
「本当!?」
「多分な…」
「断言してくれないの?」
「そこは本人の努力だ。今度紹介してやろうか?」
「是非に!」
「それより、昼にしよう。そろそろいい時間だ」
話も弾んでいたけれど、今は安全な場所なのでここでお昼となった。




