討伐2日目の合同パーティー
ぱちっ
「ん?あさひ?」
「おはようアスカ。もうちょっとで朝飯だよ」
「ジャネットさん、おはようです~」
「あらあら、アスカちゃんも朝は弱いのね」
「寝るのが好きみたいでね。寝起きは大体こんなもんさ」
「アスカ、もうすぐご飯できるから着替えて来なよ」
「は~い…」
朝食の準備に追われているリュートを尻目に、ゆっくり用意する。手伝うこともあるんだけど、今回はそこそこ人数もいるのでお手伝いは不要なのだ。
「いただきま~す。はぐっ」
うんうん。昨日と違ってちょっと具の味は薄いけど、代わりにスープがおいしい。
「ここにパンでもあればな~」
「パン?ああまあそうね。これだけおいしいスープですものね」
「カティア、アスカの言ってんのはもっと上等なパンだよ。手で簡単に千切れるやつさ」
「ええっ!?そんなのがあるの?まあ、貴族とかなら食べてるのかもしれないけど…」
「アルバに行ったら食べられますよ。後はフェゼル王国の王都とか!」
「あたい気になる!今度、長旅をする時はそこ行こうよ!」
「サティー、船旅大丈夫なの?あっちの大陸に行くには2週間は海の上よ?」
「う~ん、まあ何とかなるでしょ。でも、海魔が出るんだっけ?アスカたちはどうだったの?」
「そこそこの数に出会いましたよ。とってもおいしかったです!新鮮でしたし」
「お、美味しかった?食べたの?」
「はい。でも、皆さんも魔物の肉を食べますよね?一緒ですって」
「まあ、そう言われてみればそうだな。しかし、引き上げが難しそうだ」
「エラさん、引き上げは風魔法です。それに、カティアさんのパーティーはサティーさんがいますよね?沈む前に土魔法でバーッと海の上に土台を作れば行けますよ。それか沈む前に誰かに引き上げてもらうんです」
私の言葉でみんながサティーさんの方を向く。
「むっ、無理無理無理!あたいのは補助と簡単な攻撃だけだって。海魔って見たことないけどでかいんだろ?」
「大きいですけど、全部を一気に引き上げなければ大丈夫ですって!一部分だけ切り取って上げるを繰り返すんですよ~」
「アスカって、結構残念なやつなんだな…」
うんうんとジャネットさんたちが頷く。よく見るとアルナたちまで…。
「みんなひどいです」
「しかし、未知の食材か…。確かに気にはなるな。私も野営していてここまでの食事は初めてだし、そのアスカが勧めるんだ」
「そこはそうですね。ただ、海魔の魔石ってほとんどが海に沈むので実入りが少ないのが…」
「あ~、確かに取るの難しかったですね。いくつかは回収できませんでしたし」
「えっ!?海魔の魔石持ってるの?」
「はい。テンタクラーとハンドラーって言う2種類の魔物の魔石です。前者が斬撃特化の魔法、後者は刺突特化の魔法を込められます」
「かなり限定的ね…使い道ってあるのかしら?」
「使い方にもよりますけど、魔法剣って言うんですか?剣に炎をまとわせたり、槍から衝撃が飛び出るように出来たりしますよ」
「何だかそう聞くとすごそうね。でも、売ってるのは見たことないわね」
「魔石自体が珍しいからだろう。使い道が浮かばないのであれば取引価格もそこそこだろうし、研究するよりはコレクターや土産にする方が売れるのかもしれん」
「エラさんの言う通り、コレクター人気があるって船員さんも言ってました」
「でも、剣を強化ね…それって短剣とかでも大丈夫なの?」
「いけると思いますよ。ただ、斬撃のみの効果なので普段突きをよく使うならあんまり意味ないと思いますけど…」
「なるほどね。剣でもナイフでも突きは重要だものね。槍なら斬撃はほぼ関係ないからハンドラーだけでいいけど、どっちも使うとなったら、高くなるわね」
「それと、魔石を配置するのが難しくなると思います。斬撃も突きもどっちも刀身に一直線でないと上手く力が伝わりませんから両面に魔石となると厚みが…」
「ナイフには致命的だね~。カティアの戦力アップも夢かぁ~」
「なっ!?そこまで言わなくてもいいでしょ!もうちょっと、ナイフが長ければなぁ」
「斬るだけなら刀なんですけどね。あったらですけど。カティアさんの場合は小太刀かな?」
「何それ?また、アスカの謎知識なの?」
「リュートってば謎知識って何?」
「いや、前も僕の使ってる薙刀のこと知ってたよね。武器屋のおじさんも珍しい武器だって言ってたし」
「あれは…たまたま、そう!たまたまだよ」
「たまたまが続くんだねアスカは…」
「それで、小太刀ってどんなナイフなの?」
「ナイフといっていいかは分かりませんけど、斬るのに特化しているとは思います。ただ、横からの攻撃に弱かったりするので、基本は打ち合ったりできないと思いますけど」
「それは大丈夫よ。こう見えてもレンジャーだし、回避は得意だから!それに…じゃじゃーん!お小遣いを貯めて買ったこの魔道具があるからね」
「ん?市場に出回ってる攻撃を防ぐ魔道具だな。あれは盾の形ではなかったか?」
「エラってば相変わらず武器のことには疎いわね。今は多くの工房から色々出てるのよ。これは小手としても使えるから便利なのよ」
「アスカ、ちょっと…」
そんな話をしているとジャネットさんに小声で話しかけられた。
「あれってアスカが作ったやつかい?」
「違いますよ。あれって魔石むき出しじゃないですか。確かに小手として使えそうですけど、弱点むき出しの装備なんて作りませんよ」
そう、カティアさんの小手は小手部分もしっかりした作りだったけど、そこに魔石をはめ込んだだけのタイプで盾を展開するために、魔石がむき出しだ。付与しやすいし、MPの消費も低くて済むけどそこを中心としてバリアが広がる関係で、一番弱い部分になってしまう。一方、私のものは魔石にガードがついている。魔石の上に銀を配置することでその銀部分までバリアが展開した後、そこから放射状に広がるため、魔石周辺部が最もバリアの出力が高くなる仕様だ。
「ははは。そうだったな。しかし、あれが店主が言ってた偽者ねぇ…」
「に、偽物は言いすぎですよ!それぞれが工夫を凝らした…」
「本音は?」
「あんな魔道具作るぐらいなら、ウィンドウルフの魔石欲しいなぁって…って何言わせるんですか!」
「アスカ、声が大きい!あ~あ」
「あ、あんな魔道具…アスカちゃん、これって駄目なやつなの?」
「だ、ダメとかじゃないですよ?当たらなければいいだけですし!」
「それはこの魔道具自体いらないってことだろう。で、何がダメなんだ?」
「ま、魔石むき出しですよねそれ」
「むき出しって魔道具ってそういうものでしょ?」
「外側に銀とかかぶせられますよ。リュートの小手とかもそういう作りになってますよ」
「小手?盾なら見たことあるけど…」
「あれ?そういえばはめてないよね。メンテ中?」
「違うよ。はぁ…これです」
リュートがマジックバッグから小手を取り出して身に付ける。左手だけだけどいいのかな?
「僕のはこうやって風のバリアを発生させるんですけど、見ての通りバリアはこの銀の部分から出てます。魔石はその下にあるので、この部分も強固なバリアに守られているので、まず壊れません」
「へ、へ~。いい魔道具ね。それでいかほどなの?」
「武器屋で設計してもらった装備に付けたのでいくらかは…付与料自体、魔道具師によって異なりますし。どうなのアスカ?」
「えっ!?どうって言われても、なんとなくこれぐらいならみんな買いやすいかなって感覚だから…」
「まあ、アスカのことだから、値付けは商人がしっかりやってくれるよ。あんたの魔道具がいくらかは知らないけど、本当にいいもんは奪い合いになるさ」
「こ、これだって金貨10枚だもん」
「金貨10枚ですって!カティア、あなた一体どこから…」
「こ、コツコツ貯めたの。みんながおいしい食事をしてる時も私は我慢して」
「そういえば、ここ数か月やけにたかられたな。それか?」
「ひどい言い方しないで、節約術よ!」
「でも、使えなくはないが値段分の価値はないんだろう?」
「エラ、もうちょっとだけ気遣ってあげなよ。カティアの装備じゃ一番高いんじゃないの?」
「そう!そうなのよ、サティー。高かったのにぃ。ねぇアスカちゃん、これって何とかならない?」
「な、何とかって言われても。もう、付与されちゃってますし…」
一度付与を済ませてしまえば、解除できるなんて聞いたことがない。カティアさんには悪いけど、バリアが魔石の場所から放射状に出るのは変えようがないよ。
「せめて、バリアが放射状に出なければなぁ。多分、フレームを付けて守ろうとしてもバリアを張る時に毎回そこを傷つけるんですよね」
「それだと、戦闘中にいきなり壊れるのだな。その方が危険だな」
「そこを何とか!その魔力に耐えられる金属とかないの?」
「銀でもさすがにそんな便利じゃ…ん?でも魔力の親和性なら」
「何かあるの?」
「た、多分ですけどミスリルなら出来るんじゃないかと…」
「ミ、ミスリル、終わったわ…」
「そうしょげんなよ。ミスリルったってそんなに量使わないんだろ?フレームだけなんだし」
「サティー、あれは加工費も高いの。魔力が無いと加工も出来ないのよ…」
「えっ!?そうだったんですか、知らなかったです。普通に加工してたので」
「アスカちゃん、この後時間ある?」
「こら、カティア。自分の失敗を人に押し付けないの!」
「だって、高かったのよ?昨日は結構魔物にも遭ったし、このもうけを使えば…」
「それなら、もういっそのこと売って新しいの買えば?」
「売ってないのよ…これも取っておいてもらったんだから!」
「それより、そろそろ出発しなきゃ今日中に野営地に着かないよ」
「えっ!?もうそんな時間?急いで片付けましょう」
朝食の会話が弾んでしまったけれど、時間が押しているのでいったん中断になった。




