合同野営
魔物を順調に倒し、ようやくの夕飯になった。
「アスカ、薪をお願い。火は最初は…その辺の木を僕が切って作るよ」
「それなら乾燥は私がやっておくから、先にやって」
「分かったよ」
リュートに木を切ってもらって、先に乾燥だけして薪をストックする。周囲にはもう少し木があるけど、平地を作っちゃうとまた魔物に襲われかねないからね。ごく一部だけど、空を飛ぶ魔物もいるし。
「それじゃあ、薪置いてるからね~」
薪を一旦作ったので私は拾う方に回る。今日は結構魔物を倒したので、魔力も少ないからたくさん集めないと。
「アスカちゃん、一緒に行こう!」
「あっ、サティーさん!」
「サティーでいいよ。薪拾いだろ?あたいも得意なんだ。下積み時代はよくやってたからね」
「へ~、そういうのってやっぱりみんなあるんですね」
「あたいなんかは、特に目立った技能も最初はなかったからね。みんなは一芸っていうのがあるけど、ステータスが上がるまでは魔力もそこそこ、罠は金がかかるからそんなに使えないしね~」
「持ち運ぶタイプなんですか?」
「土魔法で作れるものもあるけど、基本のセットはそうだね。あれもさ~、大銅貨1枚ぐらいで買えるんだけど、毎回って訳にもいかないしね」
「ランクが低い時は特にそうですよね」
「そうそう~。だからさ、お前らが思ってるよりあたいは強いんだぞ!っていっつも思いながら戦ってた。だから、カティアたちに誘ってもらった時はうれしかったね」
「最初から同じパーティーじゃなかったんですね」
「ああ。カティアたちがあまりにも後衛に寄ってたから、ちょっとでも出来る奴ってね。あたいもそこまで得意じゃないけど、罠でごまかすことはできるからね」
「罠ですか~、私はあんまりですね。相手の動きを見てどうこうはするんですけど…」
「いいよな~、アスカって。魔力も高そうだし、あんな弓の腕もあるしな。どっかでいい師匠に教わったのか?」
「う~ん、あえて言うなら友達ですね。いつもその子の射を見てましたから」
「射?何それ」
「えっと、こういうのです」
私はサティーさんの質問に答えるため、弓道の構えを行う。この構えももう確認でしか使わなくなっちゃったな。
「ふ~ん、変わってるねぇ~。最初の足を前後に動かすところなんて意味なく見えるけど…」
「元々は室内競技なんです。矢を射るというよりは精神修行みたいな感じで」
「なるほどね~。でも、こんなの聞いたことないなぁ」
「そ、そうですか?地方だったので有名じゃないんじゃないですかね~」
「そういえばこの大陸出身じゃないんだったね。でも、この射ち方でも当たらないんだけど…」
「ああ、それは弓が違うからですね。このやり方は大きめの弓で決められた距離から射るんです」
「だとしたらあたいには無理かなぁ」
「そんなことないですよ。これだと命中が良くなりますから、そこからどんどん工程を省いていけば早く、確実に当たるようになりますよ。距離が一緒なら構えも一緒になりますから、距離感もつかみやすくなりますし」
「よしっ!それじゃあ、今日と明日あたいに教えてくれよな!」
「えっ!?でも、私人に教えられるような立場じゃ…」
「気にすんなって!あたいからしたらアスカの方が上手いんだから。上手いやつが師匠でいいんだよ!」
そんなサティーさんに押されて、薪拾いの後は食事の時間まで2人で射の練習をしたのだった。
「2人でなにを一生懸命してたの?」
「あたいが師匠に弓を教えてもらってただけだよ」
「師匠?アスカちゃんが?」
「昼間、弓の腕は見ただろ?あれだけの腕は中々いないよ。背格好が似ているのもプラスだしな」
「それはそうね。私はナイフ主体だし、ああいうの苦手なのよね」
「ん?カティアは自己紹介で弓って言ってただろ?」
「ジャネットさん、あれはカティアの見栄だ。言うほど上手くはない。けん制に使っているだけで、サティーの方が上手い。それより、回避術と探知能力が優れているんだ。ちなみに宝箱は蹴って開けるほど豪快だ」
「ちょ…それはサティーが来る前の話しでしょ!今はやってないわよ」
「正しくは、サティーがいるからやる必要がなくなっただろう」
「えっ!でも、それってありなんですか?」
「まあ、宝箱のトラップは箱の周囲のみのものが多いからな。最悪、私がいれば治療できるから悪手ではないんだ」
トラップにはMPダウンというものがあって、あまり魔法使い系は開けない方がいいんだとか。
「あたいは魔力は高くないけど、土魔法で鍵を作ったりできるからね。それに、攻撃魔法ならメイがいるし、保険も聞くってわけ」
「場所にもよるわよ。私は火魔法だから」
「皆さん、話もいいですけど、食事出来ましたよ」
「おっ、悪いねリュート君。今日はスープかぁ、どんな味かな?」
「そんなに変わらないわよ。いくつも合同パーティーでやって来たでしょ?」
「皆さんは合同パーティーで依頼を受けることが多いんですか?」
リュートから器を受け取りながら話しかける。
「まあ、帝都周辺の都市からファーガンドまでとか、結構依頼があるのよね。こっちからはポーション。向こうからは雑多に色々って感じで」
「サティーは相変わらず説明が大雑把ね」
「メイはそういうけど、物流が違いすぎるんだからしょうがないじゃん。こっちしかないものの方が少ないんだし」
「それはそうだけど、他国の方にはわかりにくいでしょ?多くは魔道具や武具ね。一番は隣のダンジョン都市に運ぶためだけど、あっちはあっちで発掘品もあるから手前のこの町で取り扱いもあるのよ」
「発掘品でふか~、んぐっ!すごそうですね~」
「すごいのもあるけど、ほとんどゴミよ。鑑定待ちだったり、おかしな効果だったり、呪い付きだったりと扱うのも難しいのが多いわ」
「当たりは本当に少ないんだ。私たちも何度も潜っているが、身に付けているのはサティーのアースリングぐらいだ」
「アースリング?」
「これさ。身に付けるだけで土魔法の効果や扱いが上手くなる指輪なんだぜ!Bランクとかでも持ってないレア品だ」
どうだ見てみろ~とサティーさんが指輪を目の前に持ってきてくれる。指輪には魔石か鉱石かは分からないけど、薄茶色の1cmぐらいの玉がはまっている。このサイズで効果があるんだから優れた魔道具だろう。
「にしてもこのスープうめぇなぁ~。別に合同だからって頑張らなくてもいいんだぜ?」
「あっ、いや、これは…」
「今日はまだ野菜が少ないから仕方ないんだよね、リュート。いつもはもっと豪華だもん!」
「あっ、アスカ…」
ゴンッ
「いったぁ~、何するんですかジャネットさん!」
「折角、リュートが穏便に済ませようって気遣いを見せてるのにあんたって子は…」
「穏便?何か言いましたっけ?」
「目立ちたくないんじゃないのかい…全く。すぐ忘れるんだから」
「しょ、食事ぐらい普通ですって!」
「これが、最低限の食事なの…普段はどうなってるんだろう。食費、大丈夫なの?」
「そこそこ稼ぎはあるからね。それに、食事ひとつでリーダーのやる気が変わるんだから、それぐらい安いもんさ」
「でも、野営よ?そんなに豪華な食事何て用意するの大変じゃないの?」
「アスカが普通のやつは食べないんだよ。ほら、冒険者ショップで売ってる保存食あるだろ?あれ食べたら目から光を失うんだよ」
「そこまで…。確かに美味しいものじゃないけど、所詮出先の食事何てそんなものでしょう?」
「だ、ダメですよ!おいしい食事が栄養になるんです!絶対、譲れませんよ」
「すごい剣幕ね。今までで一番真剣かも」
「まあ、うちのお姫様はこういう子なんで大目に見てやってくれ」
その後もちょくちょくいじられながら、休む時間になった。
「今回も見張りやってもらってすみません」
「いいよ。こっちからも向こうからも2人ずつなんだから。それじゃ、おやすみアスカ」
「ジャネットさん、おやすみなさい」
消耗したMP回復のために今日は早めに寝る。明日も頑張らないといけないからね。
「アスカは寝たか…」
「ジャネット、ちょっといい?」
「どうしたんだい、ミリー」
「ギルドに張り出されてた壊滅した商隊の件だけど、あれって私たちが調査に行った時よね?」
「ん?ああ、そうだね」
「いいの、アスカちゃんには説明しなくて」
「あ~、アスカはね。ああ見えて激情家なんだよ。自分の理解できる範囲でだけど、振れ幅が大きくてね。旅に出る前から商人には世話になってるから、きっとあの時に現場に居合わせたらとんでもないことになってたよ」
「そうは見えないけど…」
「まあ普段が普段だからね。大人しそうだけど、そうじゃないんだよ。もし、連れて行ってたら襲った魔物をいぶり出すために周辺の森を焼きかねないよ」
「そこまでするの!?」
「するね。昔、1度似たようなことがあったんだけど、その時も限界を超えて魔法を使って戦ったからね。細工と一緒さ、決めてやろうと思ったら後は突き進むだけ。後先考えないんだあいつは…」
「その割にはちょっと嬉しそうね」
「…まあ、素直でかわいい妹だからね」
「さて、気になってたことも聞けたし、私も寝るわ。見張り頑張ってね!」
「任せときな。ティタがいるからな」
「がんばる」
「さて、リュートに朝は任せるとしてあたしも頑張るかね」
今日は最初の見張りで時間もいつもより短い。だからこそきっちりやらないとな、と気合を入れたジャネットだった。




