大規模討伐隊
「ほら、準備はいいかい?」
「バッチリです」
「リュートは?」
「僕の方も問題ありません」
「ミリー」
「私も頑張るわ」
いよいよ今日は討伐隊が出発する日だ。冒険者は街道を挟んで東、領主軍が西側だ。
「でも、部隊はどう分けるんでしょうね~」
「さあね。ミリーは参加したことは?」
「まだないわね。発生自体がまれだもの」
「そりゃそうか。変に他所のパーティーがいると動きづらいんだけどね」
「あなたたちはね…私はせめてもう1パーティーと合同の方が心強いわ」
「ま、ここであれこれ言っても仕方ない。現地に向かうとしようじゃないか。なあ、キシャル」
んにゃ
今回もアルナたちは一緒だ。一応この討伐依頼には各パーティーの全戦力を投入ってなってるからね。
「おはようございます皆さん。いくつかのパーティーはすでに奥にいますのでそのまま入ってください」
スティアさんに案内され奥の間に入る。当然だけど見慣れないパーティーが2つ程先に入っていた。
「ん?見かけないパーティーだな。今回は他所のやつもいるのか?」
「まあ、このご時世ですし。それよりリーダー、ディティーも来るらしいけどどうなるんです?うちらと一緒のBランクで別れるんですかね?」
「そりゃそうだろう。何のためのランク分けだ。そこはあいつらも承知の上さ」
そこから少しずつ人が入ってきて、全部で8パーティが集まった。
「よし揃ったな。みんな話は聞いていると思うが、今回は領主様からの依頼だ。費用は存分にと言いたいところだが、無駄なけがはするんじゃないぞ。ここ最近の報告はみんなも知っての通り、ギガントウルフが周辺で確認されている。我々が街道の東を、領主軍が街道の西の魔物を一斉に討伐する。目的は治安の回復と魔物の生息域の調査だ。普段出ない魔物の報告は欠かさないように」
「では、各パーティーには探索範囲と持ち場の説明をいたします。こちらを各リーダー受け取ってください」
スティアさんから資料をもらう。フロートの担当地域はと…北側かぁ。
「各担当地域が載っていると思いますが、それは目安です。必ずそれ以上に探索して他のパーティーとエリアが被るようにしてください。捜しもれがないように。できるのなら他のパーティーと一緒に行動をお願いします。ギガントウルフは最大で9体の群れが確認されています。Bランク相当の戦力ですので万が一にならないように。この討伐作戦の一番の目標は討伐自体ではなく、皆さんが全員無事に…できるだけ怪我無く帰ってくることです。それが、町の住民を安心させることに繋がりますので」
「それにしてはちらほらCランクの連中もいるようだが…」
「ディティーのように全員Bランクであれば大丈夫でしょうが、一部Bランクのパーティー、特に重戦士主体のパーティーは外してあります。相性が悪い相手ですから。他にも一部の連携がとりづらいパーティーもギルドマスター権限により除いています」
「連携がとりにくいっていやぁ、そっちの見慣れないパーティーは?」
「彼女たちはすでにギガントウルフの討伐実績がありますので。連携についても問題ないことをギルドの方で確認しています」
「そいつは心強いな。俺たちが組んでも?」
「レストアの皆さんは草原の奥ですよ。彼女たちの担当地域とは離れすぎています。戦力の分散も考えると認められません」
「ちっ、なんだよ。こっちが決めたっていいじゃないか」
「今回はただの討伐隊じゃない。正式に領主様から依頼が出ているんだ。大人しくしといてくれよ」
「はいよ」
「後は合同になるからどっちから回るかを隣り合うパーティーと確認し合ってください。いざという時の救援を求める目安になります。北はディティーが南はレストアの皆さんがまとめ役です」
「他じゃダメなのかよ」
「ディティーとレストア以外は全員Bランク以上のパーティーではありません。諦めてください」
「はいはい。そんじゃ、打ち合わせだ!別れようぜ」
私たちを含む4パーティーと、それ以外に別れてお互いの担当区域をどうするか話し合う。
「また会ったわね。今回もよろしくねアスカちゃん」
「はい。こちらこそ、テレサさん!」
「テレサさん、知り合いなんですか?」
「ええ、さっきスティアさんが言ってた連携に問題がないっていうのは前に私たちと行動したからなの。頼りにしていいと思うわ」
「そうですか。今回はよろしく」
「こちらこそお願いしますね」
「私たちは見ての通り、女性ばかりのパーティーなの。名前は私がカティアでその右からメイ、サティー、エラよ。あなたたちとは構成が似ているわね」
「私たちはフロートです。私がアスカでリーダーをやっています。こっちがジャネットさん、こっちはリュートです。横にいるのはミリーさんです」
「肩に乗っているのは従魔ね。小さくてかわいいわね」
「でも、見かけによらず強いんですよ」
「そうなのね。頼りにさせてもらうわね」
「なんだ?カティアたちのところはフロートがいいのか。なら、それでいいぞ」
「そんな簡単でいいんですか?」
「とはいっても俺たちゃ冒険者だし。一々打ち合わせに時間を取っても仕方ないしな。ただ、ルートが決まったら教えてくれ。俺たちの方はそれに合わせるから」
「分かりました。それじゃあ、アスカちゃんだったわね。どうする?」
「ん~、私たちは地理に明るくないからお任せします!」
「なら範囲の北にあるこの山沿いをなぞるルートにしましょう。一日目は東端で終わって二日目は中央の南まで。三日目で中央を通って町に戻る。どう?」
「いいんじゃないかしら?女性ばかりだし、無理が無くて」
この辺にも詳しいミリーさんの同意も得られたことだし、私たちはこの計画をディティーのみんなに伝えて了承された。
「なら、うちはうちで2パーティー合同で行くからな。怪我すんなよ!」
「はい!行ってきます!」
こうして町を出た私たち。今回は8人パーティーだから結構楽できそうかも。
「それじゃあ、軽く歩きながら自己紹介しましょう。とはいっても冒険者だし、簡単でいいわよ。私はカティア。このパーティーのリーダーよ。剣士って言いたいところだけど、レンジャーなの」
「立派な剣持ってるのにですか?」
「ほら、女性ばかりのパーティーだと絡まれたりするから。ちゃんと前衛も居るんですよってね。外に出たら、短剣と弓が主かな?」
「私はメイ。魔法使いよ。基本は火だから払うことはできるけど、森の中では対応しにくいわ。そこはよろしく」
「あたいはサティー。魔法も使えるけど、罠とか外すのも得意なんだ。みんなのサブに回ることが多いね。魔法は…土だからグサッとならないようにね」
「サティー、初対面の人に失礼だろう。私はエラ、治癒師だ。怪我をしたら遠慮なく行ってくれ。普段の武器はフレイルだから攻撃魔法は期待しないで欲しい」
「というわけでこれがうちのパーティーよ」
「それじゃあ、次はこっちですね。私はアスカです。弓と魔法が使えて、魔法は火と風が使えます」
「リュートです。槍と少しだけ風魔法が使えます」
「ジャネットだ。見ての通り剣士さ。よろしくね」
「知ってる人もいると思うけど、ミリーよ。今は臨時でフロートにお世話になってるの。水魔法が得意よ」
「そしてこっちの従魔はアルナとキシャルとティタです。みんな賢いので安心してくださいね!」
ピィ
しかし、私の紹介に返事をしたのはアルナだけで、キシャルは眠いんだよと無視。ティタはまあ喋られないから仕方ないけど愛想もない。
「それじゃあ、陣形を決めましょうか」
「う~ん。あたしとリュートが前で、ミリーとエラが中央。アスカが後ろでいいと思うよ」
「あたいたちは?」
「適当に左右でいいんじゃないかい?どこまで探知できるとかお互いわからないわけだし、その辺は後でもいいさ」
「フロートの前衛がみんな前だけどいいの?」
「ああ、リュートやアスカは探知がうまいから、何かあれば場所は代われるし、従魔もいるからね」
「そっちがそういうならいいけど…」
「そんなに心配しなさんなって。ぎちぎちに固めてても動きにくいよ」
「それはそうね。連携の確認とかもしてないわけだし、取りあえずそれで行きましょうか」
話がまとまったので、私たちは陣形を組んで歩きだす。
「リュート、前はお願いね」
「分かってる。アスカも気を付けてね」
「は~い」
街の北東は森林地帯。気を抜かないようにしなくちゃ!




