調査結果
空からの探知で反応があった地点に向かう私たち。
「もうちょっと先だったよね」
「そうだよ。ここから2分ぐらいじゃないかな?」
私とリュートが先頭を行き、みんなを案内する形だ。後ろにはジャネットさんもいるし、心強い陣形を取っている。
「さて、何が出るやらねぇ」
「何も出ない方がいいんですけどね」
「でも、この周辺の魔物を倒さないと、みんな困っちゃうよ」
「アスカは野菜が欲しいからでしょ。まあ、でも治安が良くなるのは良いけど」
「でしょ?頑張ろう」
やる気を出したところで目的地についた。
「着いたけど動く気配はないね」
「そうだね。魔物ならまず匂いで気が付くと思うんだけど」
リュートと2人で不思議だねと話し合う。
「どうかしたのかい?」
「ジャネットさん!目的地には着いたんですけどどうも変なんです。全く動く気配がなくて…」
「ふむ。それならあたしとリュートが見て来るよ。アスカじゃ前は危険だからね」
「お願いできますか?」
私は2人に先行してもらうように頼んで一つ後ろに下がる。
「ん?フロート、どうした?」
「目的地には着いたんですけど、どうも様子が変なので入れ替わりました」
「様子が?」
「はい。気配っぽいものは感じるんですけど、こっちに来る気配がないんですよね。実は動いてる気配もないんです」
「そうか。おい!周囲の警戒をさらに厳しくしろ」
「はっ!」
ピリッとした空気の中、私も進んでいく。
「だ、大丈夫ですか、ジャネットさん」
「アスカ、ちょっと団長呼んできてくれ」
「は、はい…」
真剣な面持ちでジャネットさんが言うのでそれに気おされるように私はフェネクスさんを呼びに行った。
「すみません!ジャネットさんが呼んでます」
「俺をか?代わりにこっちを頼む」
「分かりました」
団長さんの代わりに私は調査団の兵隊さんたちと周囲を警戒する。しばらくすると、団長さんが戻って来た。
「どうでした?」
「…ああ、調査は続行だがこの先は我々で行うから。君たちはそのまま警戒を続けてくれ。それとワーレン、君だけはちょっと来てくれ」
「私ですか?」
「ああ」
それだけ言うと団長さんは再び奥へと行ってしまった。
「何なんでしょうね?」
「何かあったのかしら?取りあえず私たちは指示通りに待ちましょう」
ミリーさんと話しながらみんなが帰ってくるのを待つ。
「それにしても長いですよね」
「何か調査団の気になるものがあったのかしらね」
「ジャネットさんたちも帰ってこないし、見張りでしょうか?」
「そうかしらね。とりあえず待ってましょう」
調査は思いのほか長く、1時間ほどはそうして時間が過ぎていった。
「あ~、つまんないな~。見張りといっても魔法で探知できるし、リュートもいないしな~」
「おや、お姫様は退屈だったのかい。そいつは済まなかったね」
「ジャネットさん!もういいんですか?」
「…ああ。こっちは終わりだ。この奥には特に何もないから調査は北に向かうんだってさ」
「じゃあその後は町の西から戻るだけですね」
「そうだね」
調査も終わったみたいで再び進み始めた私たち。でも、思ったより調査団の人の表情が硬い。どうしたんだろ?
「ねぇ、リュート。調査中に何かあった?」
「何にもないよ。どうかしたの?」
「何だかみんなピリッとしてるなって思って」
「そう?気のせいじゃない?」
「そうかなぁ~、何だかリュートもよそよそしい感じだし」
「そ、そんなことないと思うけどな~」
「ねぇ、アルナもそう思うよね?」
ピ、ピィ…
あれれ?アルナも困ったような返事だ。キシャルはというと…寝てる。まあ、そうだよね。
「そういえばワーレンさんは?」
「領主軍の人と一緒だよ。さっきの調査で気になったことがあったんだって」
「そっか~、みんな忙しそうだね」
それから北に進んでいく時に何度かオークとオーガの襲撃を受けた。でも、今までよりも街に近いところで現れたみたい。調査員の人が言うにはさっきのギガントウルフに追い詰められて住処を変えているのではということだ。
「頑張って倒してかないとね!」
町の方にも危険があるって思わせればまた街道には寄り付かなくなるはずだ。私はぶんぶんと杖を振り回しながら警戒をする。
「しっかし妙だよな~」
「どうしたの、バルトス?」
「いや、さっきから嬢ちゃんとこのパーティーばっかり魔物を見つけてるだろ?マーカス、お前手を抜いてないか?」
「そんなことないぜ。こっちも一生懸命やってるぞ。ただ、俺は音感知だからな。森とか音が結構響くところは苦手なんだ。魔法で探知されてるんじゃ難しいぞ」
「まあ、バルトス。護衛の任務としては俺たちが領主軍についている訳だし、安全を守るという点においては問題ないだろう。魔物だってあれぐらいの奴じゃ危険もないしそのまま倒してくれた方がいい」
「そうよね。一応オーガも出てるし、私たちじゃ怪我する可能性もゼロじゃないわ」
「けっ!みんな腑抜けてるぜ!」
そんなディティーの会話を尻目に私たちは討伐を繰り返す。
「あっちかな?次はあっちだね」
「アスカ、もうかなり倒したけどまだやるの?」
「だって、西側は魔物も多いよ。南側とは比べ物にならないよ。ちょっとでも倒しておかなきゃ」
「それは良いんだけどね。さっきから、すごい勢いで魔物に出会ってるよねぇ。何かした?」
「あっ、いや~、ちょっとここに期限切れの粉がですね…」
「げっ!集魔系の粉末かい。どこでそんな…」
魔物は動物と同じく天敵のにおいなどを嫌がったりする。それで遠ざけることができるんだけど、それを利用して引き寄せることもできる。自分より弱い魔物を使った薬品で強い魔物に、ここにエサがいるぞと知らせることで集めるのだ。
「でもこんなに強力な効果でしたっけ?僕も使ったことありますけど、精々周囲1kmも効きませんでしたよ」
「あ~、えっと、それはね~。探知魔法に乗せてるんだ」
「探知魔法に?」
「うん。ちょっとだけ強めに出して、粉末も一緒に運んでるんだよ。だから、遠くにいる魔物にもわかるってわけ。すごいでしょ!」
「す、ごいのかな?取りあえず、危険なことは止めてね」
「リュートが言うなら今日はこれぐらいにしとくね。もうちょっとでいなくなるはずだから」
「まあ、いいけど。絶対に他の連中には言うなよ」
「便利だからですか?」
「いいから黙ってな。全く、さっきから解体する身にもなって欲しいね」
「そういえばオークの解体任せてばっかりでしたね。すみません」
「代わりに今日はごちそうでも貰うとするよ。リュート頼んだよ」
「僕ですか?」
「お前以外に料理が得意なのがいないんだからしょうがないよ。アスカにやらせるかい?」
「僕がやりますよ」
「えっ!?私だって簡単な料理とかできますよ」
「アスカの簡単な料理って何さ」
「う~ん。焼肉とか?」
「それって焼いてたれつけるだけでしょ?そもそも個別に焼いて出せないから、宿で出すなら炒め物だよ」
「むむ~」
「それよりほら、魔物だよ」
「分かりました。サクッと倒して安全確保ですね」
「なぁ、いつもは消極的なのにやけに今回は積極的に魔物を倒しに行くよね。なんかあったのかい?」
「サラダですよ」
「は?」
「野菜の搬入が魔物のせいで止まって何とかしたいらしいです」
「そりゃまた現金なことで。ま、たまにはわがままに応えてやるかね」
その後さらに2組の魔物を倒して帰路についたのだった。
「よしっ!ほぼ2日間の調査協力ご苦労だった。この調査結果を元に討伐隊を組み上げ、さらなる安全に勤めることを約束する。それとワーレン」
「はい」
「今日は負担を強いたな。ギルドを通して礼金を出しておく」
「いえ…ありがとうございます」
「冒険者の方もこっちで報告書が完成次第、ギルドに張り出すだろうからご苦労だった。報酬についてはギルドを通して受け取ってくれ。その他の素材の換金については仲良くな」
「了解。しかし、思ったよりはスムーズだったな」
「まあ、優秀な冒険者たちのお陰だ。ゆっくり休んでくれ」
「アスカさんもゆっくり休んでね」
「はい、ディシアさんも根をつめすぎないようにですよ」
「そうね。気を付けるわ」
「そんじゃ、俺たちもギルドに向かうとするか」
「そうね。行きましょうか」
こうして2日間に渡る調査依頼を終えて、報告のため私たちはギルドに入っていった。




