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調査団、西へ

野営の最中、穴を掘ってそこに石を詰めて焼く方法で匂いを抑えて肉を焼いた私たち。早速、匂いを空に逃がしつつ葉にくるまれた肉を取り出す。


「ん~、いい香り。葉っぱの匂いがいいよね~。ちょっとついてる調味料の匂いも食が進みそう!」


「はいはい。器を置くから切り分けるよ」


そう言いながら切り分けてくれるジャネットさん。料理にはノータッチなジャネットさんだけど、こういう食前食後の用意は積極的に手伝ってくれる。実家では兄妹が多かったらしいので自然に身に付けたらしい。


「わ、わわわっ!」


「驚くことないだろ?いつも食べてる料理よりは質素だよ」


「これで質素なの?とんでもないわねあなた達」


「まあ、ミリーの思ってる常識とはうちは違うね」


「でもでも、これぞ野外料理って感じじゃないですか!何で今まで見せてくれなかったんですか?」


「別にこうすりゃ旨いって訳でもないし、手間も時間もかかるから普段は絶対しないしねぇ」


確かにジャネットさんの言うことも分かる。焼き上がるまで2時間もかかったし、こうやって作ってもメリットはないって。でも、こういう雰囲気が大事なんだよ。そんなことを思いながら切り分けてもらった肉を器に入れてもらう。


「いただきま~す!はむっ、ん~!おいしい。おいしいのもそうだけど、この雰囲気がまたいい。味付は薄味だけど、葉っぱの匂いと相まっておいしいよ~」


「そうなんだ。僕も食べてみよう」


私の真似をしてリュートもぱくっと食べる。


「!おいしい。時間はかかるけどあんなに単純な工程で…」


「まあ、今回は選んだ葉っぱが良かったのかもねぇ。巻いたやつによっちゃ微妙なこともあるし」


「ということは地域性があるんですね!それに季節も!今から楽しみです」


それを聞いて上機嫌な私の横ではなぜかぶつぶつ言いながら食べるジャネットさんの姿がありました。なんでだろ?


「おいしかったです」


「確かにそうね。私も今度やろうかしら?」


「どこでやるんだい?」


「そりゃあ…宿の裏とか?」


「不審火で突き出されるよ」


「じゃあ、どこでやれば?」


「諦めなよ。大体、もっとうまい料理があるだろう?」


「そう言われればそうね。どうしてそう思ったのかしら?」


「まあ、相手があの顔じゃあな」


「アスカ、もう葉っぱにもついてないよ」


「もうちょっと食べたかったなぁ~」


「大丈夫ですか、アスカちゃん。誰かに騙されたり…」


「まあ、あたしもついてるし、リュートもつけてるし大丈夫だろ。多分」


「言い切れないのね」


「あんな調子じゃね。見てるだけなら微笑ましいんだが」


その後、片付けも済ませていよいよ寝る時間だ。


「そういえば、他のパーティーは近づいてきませんでしたね」


「そりゃあ、あんなもん見せられたら近づけないだろ。自分たちが食べたものと比べちまうさ」


「悪いことしちゃいましたかね?」


「気にしなくていいさ。それより今日は細工は無しだよ。あんまり目立たないように」


「分かってますよ~」


「やれやれ、ミリー頼んだよ」


「分かってるわ」


「ティタ。それじゃあ、ジャネットさんについててあげてね」


「わかった」


いつものようにティタに見張りを頼んで私はミリーさんと一緒にテントに入る。中ではすでにキシャルが寝ていて、アルナもうつらうつらとしている。


「ふふ、頑張って起きてくれたんだね。おやすみ、アルナ」


ピィ…


アルナが寝るのを見届けて私も眠る。おやすみ~。



「朝だよ」


「ん」


私は目を開ける。


「ジャネットさん?」


「ほら、今日は調査団としての行動だから待ってやらないよ」


「は~い…」


いつも通りいそいそと着替えて外に出る。外はまだ薄暗い。


「アスカ。はい、ご飯だよ」


「ありがと…ってスープは?」


「昨日は作ってないでしょ。我慢して」


だからと言って干し肉と飲み物だけなんて。


「食べるけど、食べるけどさぁ」


私ははぐはぐと干し肉を口に入れて噛む。ううん、これはこれで味がしみだしておいしいんだよね。


「そろそろ食べ終わりそうかい?」


「もうちょっと待ってください」


食事を終えると、今日の目的地である西側に進んでいく。


「よし!今日の案内人は領主軍だからディティーが前だ!気を付けろよ」


「はっ!」


まるで軍隊のようにディティーのみんなが反応すると、街道を跨ぎ西へと入っていく。私たちは後方を守ることになった。ワーレンさんは私たちの前、兵士さんたちに守られるようにいる。


「今日は私たち、楽できますかね?」


「さてね。終わってみないと分からないね」


「でも、Bランクのディティーが前を守ってくれるのよ?」


「そうは言うけど、こっちは森もあるし視界が悪い。前後に分断される可能性も考えれば油断は禁物だよ」


「…そうね。甘かったわ」


「というわけで、アスカ。今日も頼んだよ」


「それとなくですよ。リュートも協力お願いね」


「分かってるよ。もし、敵を発見しても僕が言うからね」


「お願いね」


そう言いながら探知の魔法を周囲に放つ。今のところ魔物はいないみたいだ。まあ、こんな街道沿いになんて早々出られても困るけど。やがて、しばらくすると魔物の気配が現れた。


ガサガサ


「ん?魔物か。皆下がってくれ!俺たちの実力も見せんとな」


今回の魔物は正面だけなので、私たちはディティーを見守る。


「ふんっ!」


「はぁ!」


流石にオーク相手ではテレサさんの治癒も不要ですんなりと終わった。


「まあ、こんなもんだな。相手が弱すぎるが」


「そうだな。さて、さっさと解体するか」


今日の調査は始まったばかりなので、処理もそこそこに再び調査団は進み出す。


「この辺はどうだ?」


「人は通ってるみたいですが何とも。ワーレンさん、商人がこんな道を使いますか?」


「い、いえ、こんな道では馬車も通れませんし、緊急時も人に見つけてもらえる場所を進むように言われています」


「では、この辺りの狩人か?団長!確認しますか?」


「…そうだな。魔物の調査も含まれるから寄るとしよう。森も深くなってきた。前後ともに気を抜くなよ」


「はいっ!」


団員が返事をしてこのままゆっくりと進んでいく。特に木に目印がついていないかチェックだ。狩人などがよく付けるマークがあるらしい。


「ここも、ここもか」


「西側はどこもバツ印が付いてますね。何も得られないのか果たして…」


今回は調査団の戦力があるということで、バツ印の方へと向かってみる。


「この辺は足場も悪いわね」


「木も大きいものが並んでるな。これだと視界が悪いぞ」


そうみんなが口々に言うのも当然で、時間帯や季節によっては霧が立ち込めそうな場所だ。


「ん?あれはルーン草だ。でも、この気配は…」


私の視界にはルーン草の群生地が目に入った。しかし、ちょっとおかしい。なんだか不自然に目立っているような…。


「おおっ!こりゃあ、ルーン草だ。俺たちで取らせてもらうぜ」


「構わないが、注意してくれ」


「分かってるって」


「アスカ、どうしたの?アスカも気付いたよね」


「うん。なんか変だなって」


「変?どこが」


「あの群生地だよ。狩人なんかの人だと絶対に隠すと思うんだ。でも、あの採り方を見てもディティーのみんなはそこまで薬草を普段採ってないみたいなのに、簡単に見つけられたでしょ?」


「まあそうだね」


「誰かが意図的に見えやすくしてるんじゃないかと思うんです」


「誰かって誰さ?」


「それは何とも。でも、人がそんなことするかなぁって」


「魔物の仕業ってことなの?」


「そうじゃないかって思うんです。人が採るのを見ていて、わざわざ見つけやすくして誘ってるんじゃないかと…」


「でも、ここに来るまでにバツ印があったよね。あれはどうしてなの?」


「そこなんだよね。印があること自体、興味本位でこうやって人が来ちゃうからつけた人は何を考えたんだろう?」


「後で付けたのかもね」


「後で?」


「ああ、あたしもあの印を見てみたけど、そんなに古いものじゃなかった。ここに薬草を採りに来てたやつが、命からがら逃げて付けたのかもね。これ以上は危険だって」


「なるほど、それならまあ納得できるわね。でも、それじゃあ…」


「アスカ、念のため僕らで探知をしてみよう」


「そうだね。私も全力でやってみるよ」


後方はリュートに、前方は私が探知を行う。


「どう?」


「僕の方は大丈夫だったよ。まあ、さっきまで警戒しながら進んでいたから当然だけどね。そっちは?」


「…まだ、離れてるけどこの先に8体ぐらいの群れがいるみたい。ゆっくり近づいて来てる」


「やれやれ、どうしたもんかね。とりあえず、ミリーはワーレンについといてやりな」


「分かったわ」


「団長さん、魔物だってさ」


「魔物?そんな気配はないが…」


「ちょっと優秀な奴がいてね。数も多いし、対応した方がいいよ」


「分かった。おい!一旦採取は中断だ。魔物に備えろ」


「魔物…マークス反応は?」


「俺の方は何にも。だけど、昨日のブリンクベアーの件もある。従う方がいいだろう」


ディティーのみんなも分かってくれたようで迎撃の準備を始めた。


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― 新着の感想 ―
魔物が薬草の群生地をエサに人間を狩るのか… かなり知能が高そうで厄介な魔物が居るんだね
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