街道近くでの野営
結局、あれから南西に進むも特に得るものはなかった。あるとすればムーン草ぐらいなものだ。それと、魔物かな?こっちは安全のため、倒しておかないとね。
「さて、野営だが我々は支給されたテントだが、お前たちはどうするんだ?」
「あたしらはテント2つだね。別にワーレンのおっさんも一緒でいいよ」
「俺たちも2つだな。見張りはどうするんだ?」
「3班に分かれてやってもらおうと思う。各パーティー2人は出して欲しい」
「じゃあ、うちはあたしとリュートだね」
「俺たちのところはコートとマーカス…頼めるか?」
「分かった」
「はいよ」
「決まりだな。うちからも2人出すからその6人で順番は決めてくれ」
「気配察知が苦手な奴は?」
「出来れば得意な奴と組んでくれ」
「なら、別にパーティー毎でもいいんじゃないかい?」
「何かあったら責任が1ヵ所に集まるから却下だ」
「へいへい」
その後の話し合いで、ジャネットさんはマーカスさんと、リュートは兵士の人と組むことになった。
「見張りも決まったし、飯だな。リュート、さっき倒したオークを出してくれ」
「いいんですか?焼いちゃって」
「多分だけどね。いい方法があるんだよ」
そう言われるがまま私たちはジャネットさんの指示通りに穴を掘っていく。その間にジャネットさんは近くの木から大きい葉っぱを見つけてきていた。
「アスカ、その辺の石を円形に並べて中央に薪を、リュートはこの葉に肉をくるんでくれ。ちょっと下味もつけてくれよ」
「分かりました」
「そうそう。折角、火魔法が使えるんだから先に石だけ熱しといてくれ」
「は~い!」
「なにやってるんだあいつら?」
「さあ?それより、肉が水で戻るまで待っていましょう」
「もう十分だと思います」
「なら、次は薪に火をいれてくれ。リュート、そっちは?」
「終わりましたよ」
「なら、火が十分に付いたら上に乗せてくれよ」
葉っぱに火が当たりもくもくと煙が上がる。ただし、あくまで葉っぱについているだけなので、肉が焼ける匂いはしない。
「後はまた上から石と葉を置いたら待つだけだよ」
「へぇ~、すごいです!ジャネットさんってこういう料理も知ってたんですね!」
「まあね」
「楽しみだな~、どれぐらいで焼けるんですか?」
「2時間」
「えっ!?冗談ですよね?」
「いや、それぐらいかかるよ。余熱で焼くわけだし、こうして肉の匂いを出さないようにしてるわけだしね。まあ、見張りの時間だって長くないんだからのんびり待ちゃいいのさ」
「リュート、干し肉…」
「だ~め、そんなことしてたらご飯時に食べられないよ」
「けち」
「そう言って前にも『どうして止めてくれなかったの!』って言ってきたでしょ」
「そうだったかな?」
「そうだよ。分かったらテントの設営しよう」
「は~い」
今日のところは大人しくリュートの言うことを聞いてテントの設営をする。でも、今度は絶対に先に何か口にするんだから!
ピィ
んにゃ
従魔たちもそうだと言っている…気がする。
「ティタ~そっち掴んでてね」
「わかった」
カンカン
テント用の杭を打って固定する。いつもはジャネットさんと一緒なんだけど、今回は最初の見張りらしく、今は打ち合わせ中だ。ミリーさんもその間は見張りをしていて、手が空かないのでこうやってるんだけど…。
「アスカちゃんだったわよね?設営手伝うわよ」
「ありがとうございます、テレサさん。でも、従魔のみんながいるから大丈夫ですよ」
「あら、本当ね。でも、随分小さい従魔ばかりなのね」
「そうですね。あっ、でもキシャルは実は大きいんですよ。ね~」
んにゃ!
キシャルもそうだと元気に鳴く。食事前だからか十分に寝たせいか今は元気だ。まあ、この後でこの子はまた寝るんだけどね。
「そうなの?魔物使いの知り合いってほとんどいなくて魔物のスキルも知らないのよね。野生のものとは違う場合も多いし、ゆっくり観察する機会もないから」
「そうですよね。私も、従魔になってから知って驚いたこととかいっぱいありますから」
特にサンダーバードの件とかね。あれは本当に外に出せない情報だよ。アスカはその情報がのちにサンダーバードを祭る理由になるなど思いもよらないのだった。
「やっぱりそうなのね。でも、従魔っていいわよね」
「テレサさんもそう思いますか?」
「ええ、旅先で動物を飼いたいと思っても、家が必要でしょう?冒険者何てやってると何日も空けるから飼えないのよ。もっとランクが高くて、手伝いの人でも雇えればよかったんだけどね」
「Bランクの人でもそんなに大変な暮らしぶりなんですね」
「私たちはBランクといっても長年貯めてきたポイントを集めて昇格したから、余計に苦労してるのよ。ほら、うちって前衛職ばかりでしょう?マークスもレンジャーで罠や矢を使うし、それは必要なことだと割り切っているけど、みんなお金のかかる装備ばっかりなの。それでいて消耗品だから、儲かるたびに装備に消えていくのよ」
「テレサさんもですか?」
「私はこのローブと杖ぐらいね。治癒を高めてくれるこの杖と、魔法に強いこのローブは結構したけど、それ以外はあんまり買ってないわ。アスカちゃんのところはどうなの?」
「うちは大体各自でですね。でも、必要な時はパーティー用の口座から出してもらえますよ。装備は大事ですからね」
「いいパーティーなのね。ジャネットみたいにひとりだけ強いメンバーがいると揉めること多いのよ」
「話には聞いたことがあります。でも、周りにはそういうパーティーがいなかったので。それに今のパーティーが初めてのパーティーなんです」
「それはよかったわね。他のパーティーなら使い潰されてたかもしれないわよ」
「それ、ジャネットさんにも言われたことあります」
「あら、彼女も心配するタイプだったのね」
「はい!とっても優しいお姉ちゃんみたいな感じです」
「これからも頑張ってね」
「ありがとうございます。そうそう、私は細工もしてるんですけど、良かったらこれどうぞ」
私はマジックバッグからグリディア様の像を出してテレサさんに渡す。
「これはグリディア様の像ね。どこで仕入れたの?」
「自分で作ったんです。私、細工が趣味なんですよ」
「…趣味。ちなみにもうちょっとあったりするのかしら?」
「ん~、あるというか街に滞在中とかに作ることはできますよ」
「出来ればあと5体ほどお願いしたいの。このところ頭角を現したパーティーのリーダーと親族が帝国軍にいるの。でも、最近は良い像があまりなくてね。出回ってる出来の悪い像は贈れないから困ってたのよ」
「そういうことなら数日待ってもらえれば作りますよ」
「あら、もうすでに依頼があるの?」
「あっ、いえ。ワーレンさんに色々渡す予定なので」
「あの商人に?」
「はい。馬車が襲われて店も大変みたいなんです。私は別に卸す店はどこでもいいですからどうせならって」
「そうなの。じゃあ、出来たら悪いんだけど昇貫亭までよろしくね」
「分かりました」
「テレサ、テントは張れたしもういいだろ?うちの飯は今からだぞ!」
「はいはい。バルトスが呼んでるから行くわね。それじゃあ」
「また今度!」
「なんだいアスカ。また、何か厄介ごとかい?」
「ジャネットさん!打ち合わせはもういいんですか?」
「ああ、それでなに話してたんだい?」
「グリディア様の像をちょっと欲しいって言われただけですよ」
「いつの間に営業上手になったんだい」
「えへへ、それほどでも…」
「それで、1体当たりはいくらだ?流石に、安請け合いはしてないよね」
「そういえば、値段の相談はしてませんでした」
「やれやれ、まだまだ営業は無理そうだね」
「ま、まあ、その時はジャネットさんやリュートに任せますよ!」
「全くもうこの子は…」
その後、食事の時間まで私とジャネットさんと見張りを終えたミリーさんで仲良くお話をした。ちなみに私の見張りの時間はリュートがやってくれた。出るって言ったんだけど、ジャネットさんもミリーさんも任せとけばいいってさらっと流していた。
「ごめんねリュート、見張りさせちゃって」
「もういいよ、アスカ。別に長い時間じゃないし、見張りも慣れてるんだから」
「でも、言いにもいかなかったし…」
「大丈夫だよ。他の人も分かってたし。それより、肉だよね。焼けたか確認しよう」
火は消えたとはいえ、熱々の石などをどけるのに慎重に作業をする。いつもなら風魔法を使うところだけど、今日はこの下に肉があるので手を使わないといけない。
「こういう時のためにガンドンの手袋を買っておいてよかったよ」
ガンドンは草原に住む大型の草食の魔物で硬い皮に覆われている。皮は断熱効果もありテントなどに用いると、中の温度が一定になり快適に過ごすことができる。反面、重量があり普通に持ち運ぶには不向きで、マジックバッグでの運用前提だ。リュートの言っているのはいわゆるミトンなのだろう。ほいほいと熱いはずの石をどけていくリュート。
「さあ、取り出したよ。匂いがしないように調整してね。アスカ?調整頼むよ」
「はっ!?じゅるり。わ、分かってるよ!切り分けるんだよね」
「違うよ。匂いがこもらないようにしてって」
「そうだよねっ!わかってるよ。冗談だって!さ~、気を取り直してごはんごはん~」
私はうまくごまかしながら、匂い調整したのだった。




