調査と戦闘
調査開始後、初めての戦闘を終え再び目的地を目指す調査団。
「この先がワーレンがギガントウルフに遭った場所か?」
「はい…」
「ですが、討伐場所はここよりやや南となっていますね。どうして町の方ではなく南へ?」
「私は大鷲の判断の通りに動きましたのでその…」
心配そうにワーレンさんがミリーさんの方を見る。
「何か理由があったのか?」
「以前に格上の相手に襲われた時に話していたんです。元来た道で何度も遭っていたなら先へ、そうでないなら戻ればまだ助かるんじゃないかって」
「ふむ。判断としては正しいな。実際、町の方へ逃げても都合良く南下する冒険者に会えるかは運だ。しかも、報告書ではフロートを追い抜いたとあるから、他のパーティーが来る可能性も考えていたわけか」
「とっさのことですけど…」
「しかし、町から離れているとはいえ、こんな街道沿いとは…。一度大掛かりな討伐を行わないといけません」
「そうだな。領主軍が大々的に出るか、一部を冒険者ギルドに任せるかは置いておくとして、早期にやる必要があるだろう。では、次は実際にフロートがギガントウルフを相手した場所に連れて行ってくれ」
「はい」
私たちが戦った場所にはまだ馬車が残されていた。
「街道から少し離れた場所だな。ワーレン、なぜこちらに?」
「か、街道を行きたかったのですが馬が興奮してしまい、道をそれてしまったのです」
「それは災難だったな。それでこの後は?」
「馬車が倒れた後は運よく街道側に食料が散らばりまして、最初はその食料を食べていたのです。しかし、御者や馬が逃げようと動いたので、そっちに注意が向きました」
「お前は逃げなかったのかよ?」
「恐怖で固まってしまいそれどころではありませんでした」
「んで、フロートが来たと。でも、これだとお前ら囲まれないか?」
「いや、こっちにはあたしだけだよ。人の気配がしたもんで先に来たんだよ」
「1人で7匹をか?」
「いや、向こうもこっちには気づいたみたいでね。商人のおっさんの方には2匹だけだったね。ギガントウルフって言っても2匹だけなら倒してすぐに戻れるんでね」
ぶんぶんと剣を振ってジャネットさんがアピールする。
「なるほどな。さっきの戦闘を見る限り、手数は多そうだし、お前さんが倒していけば何とかなるか」
「まあそういうこった」
ジャネットさんが打ち合わせ通り、状況を話す。面倒ごとに巻き込まれない程度に報告をとどめて置きたい時は、真実を織り交ぜるのがコツらしい。
「だが、5匹って言ってもそこからはBランクの領域だ。本当に腕がいいんだなアンタ」
「それ以外取り柄がないもんでね。あたしらの報告はこれぐらいだ。次はどうするんだい?」
「ああ、行方不明の商人の捜索だが、この辺りから始めようと思っている。やはり、ここで見慣れないギガントウルフに襲われたというのは大きい。オーガぐらいならパーティーが全滅するなんてことはまれだ。誰かが逃げおおせるはずだからな。ウルフ種ぐらいの速さがあれば全員が消息を絶ったのもうなづける」
「では、北と南どちらから捜索しますか?」
「南だな。本当は東西に別れて捜したいところだが相手の戦力が不明だ。街道を東に行き戻ってきたら休憩して、今度は西へ行くとしよう」
「分かりました。皆さんもそれでよろしいですね?」
「ああ」
「分かりました」
今度は今までと違って街道を外れて東に行く。こちらは森というよりは林で、その先には草原もあるみたいだ。
「この辺から先頭を代わるか?」
「いいんですか?それじゃあお願いします」
ディティーの人と先頭を代わる。まあ、ここは商人さんの案内も不要な場所なので構わないだろう。
「ワーレン。商人はこういうところに寄ったりはするのか?」
「以前なら多少は。特に馬はこの辺の草を気に入ってたので私も何度か立ち寄ったことはあります。ただ、今の状況でこちらに行く商人は流石にいないかと」
「だろうな。だが、お前の馬がこっち側に走ってきたのもこの草原があるからかもしれん。ウルフ種は狩りを諦めやすいからな。こっちなら逃げきれるかもと思った可能性もある」
「それについては考えつきませんでした。ただ、行方不明の商人の馬がどうだったかまでは…」
「もちろんだ。だが、可能性としては捨てきれん」
「はぇ~、色々考えてるんですね~。流石は団長さんです」
「アスカも感心ばっかりしてないで自分に出来ることでも探したらどうだい?」
「私に出来ることですか?う~ん、ありますかねぇ~」
そう思いながら草原を歩く。ふと下に目をやると、薬草が生えていた。
「ん~リラ草かぁ。普段だと特に採らないけど、今は不足してるっていうし採ろうかな?」
私は団長さんに許可をもらってリラ草の採取を行う。ついでにミリーさんにも採り方を教えてあげた。
「こう?」
「ん~、もうちょっと勢い良く採るか、いっそのことナイフですね。ムーン草とかなら断然ナイフです!力を入れるとランクが落ちちゃいますから」
「へぇ~、薬草って言っても種類によって採り方も異なるのね」
「当然ですよ!シュウ草とかみたいにそのまま使えない薬草とかは気にしなくてもいいですけどね」
「どうして?そういうのも結局は元のランクじゃないの?」
「大きさとかはあると思いますけど、シュウ草はそもそも乾燥させた後に砕いて粉末にすることがほとんどなんです。だから、元の形とかは意味がないんですよ。乾燥させたものを欲しいって人以外は」
「そういう人もいるの?」
「まあ、手間がかかる分だけ粉末は高いですからね。後は管理とか客に勧める時に分かり易いですから。粉末だとこれが薬ですって言っても見分け付かないじゃないですか」
「言われてみればそうね。アスカちゃんって物知りね」
「ま、まあ、これでも薬師の娘ですから!」
そんな話をしているとピクッと反応があった。見晴らしのいい草原で相手が見えない…。
「この大きさひょっとして…」
「アスカ、急に立ち上がってどうした?」
「ジャネットさん、たぶんブリンクベアーです」
「うへぇ、草原だからってあいつもいるのかよ」
ブリンクベアーは光の屈折を利用して姿を隠して接近してくる魔物だ。ただ、音は隠せないし、魔物は匂いに敏感なのでもっぱら人の天敵だ。
「キシャル、場所分かる?」
んにゃ
キシャルが敵の位置を示す。
「皆さん!敵です!あっちから来ますから注意して下さい」
「あっちって何も居ないぞ?」
「バカ、いちいち見るなよ!あ~あ、気づかれた」
「本当にいるの?」
「ブリンクベアーだよ。あんたら戦ったことないのかい?」
「草原に近づく奴はいないからな。それにこの辺りはまず襲われないんだ。水場からも遠いし、他の魔物の縄張りだからな」
「後は草原には領主軍が入るから、冒険者はまず入らんな」
「なら、ここは任せてもらうかね。キシャル、今はどこだ?」
んにゃ
再びキシャルに場所を尋ねる。位置は…そこだね!私は探知魔法を使って正確な位置を割り出す。見えないといっても、視覚を誤魔化しているだけなので、探知は有効だ。
「いけっ!」
連続で矢を放ち傷を負わせる。これで姿を隠しても血の跡が付いて分かりやすくなる。
「逃がすか!」
すかさずジャネットさんがブリンクベアーを追撃して止めをさす。
「ん~、お前ら本当にCランクか?うちの軍に欲しいぐらいだ」
「そいつは遠慮しとくよ。規律ってもんが苦手でね」
「残念です。右へ左へ活躍できますよ?」
何気にディシアさんの言うことがひどかった。でも、それぐらい評価してくれるのは嬉しいかも。
「ブリンクベアーの素材は…いらないね。ところでこいつはこんな街道沿いに来るような奴なのかい?」
「いえ、分布をみるともっと東に生息していますね。こちら側には強い魔物は来ないはずなのですが…」
「たまたま、エサを見つけてきたのかもしれんな。こちら側も討伐ルートに組み込もう。討伐隊には臭いに敏感な従魔を持つものか、音に敏感な兵士を中心に組むとしよう」
「そうですね。書類では見ましたがまさかこれほど見えないものとは…」
「どうしても視覚に頼って行動してしまうからな。俺たち冒険者としては苦手だ」
「そうね。唯一、助かることと言えば大きいから木に登ることがないということね。上から来られたらどうしようもないもの」
テレサさんたちもどうやら聞いたことがあるようで、口々にその強さを語っている。
「こちら側の捜索はもう少し進んだところまでだな。これ以上進んでも無駄足だろう」
それからしばらく進んだ後、ファルケンさんの一声によって東側の捜索は打ち切りになった。このまま南西に進んで東側の捜索を終え、明日は西側の捜索だ。




