調査団出発!
「ん~、良く寝た~」
「本当ね。今日は頑張らないと」
「それで、アルナたちも連れて行くんだろ?飯をもらって来ないとね」
アルナたち従魔はこの宿では歓迎されているけど、今は魔物が多くなっているので町ではあまり歓迎されていない。なので、出かける時も細心の注意を払っている。これも、ギルドで聞いたことだ。今日の依頼が無事に済めばこういうのも収まるといいな。
「待ち合わせ場所は南門すぐですね。食べて向かいましょう」
「今日も依頼かい?気を付けるんだよ」
「はい!ありがとうございます」
食事を簡単に済ませると、宿のおばさんとあいさつをして待ち合わせ場所に着く。
「ここでいいんですよね」
「まだ8時まで時間もあるし、流石に誰も来てないみたいね」
「ん?何だあんたら?」
「あっ、私たちは…」
「ひょっとして今回同行するパーティーってやつか?」
「は、はいそうです」
目の前に現れたのは重戦士と剣士と治癒師とレンジャーの4人組だった。
「なんだ、凄腕の奴らに頼んでるってマスターが言ってたのにこんな小さいガキかよ」
「こら、バルトス。いつも言ってるでしょ、見かけばかり見ない様にって」
「そうは言うけどよ。俺たちは地道にポイントを稼いできたんだぜ。経験は時間が大きいんだ」
「そういうのは現場で見てから言うんだね。そっちはほとんど前衛みたいだけど、後衛はそこのレンジャーさんだけかい?」
「そっちは多そうだな。移動中は後ろを任せてもいいか?」
「いいけど、前の探知は任せるよ。あと、こっちが案内役なんだけどそれは大丈夫かい?」
「案内は領主軍だと聞いたが?」
「目的地の一つはね。だけど、もう1か所はこっちが案内することになってるんだけど」
「それならそっちに頼んだ方がいいわね」
「テレサ、いいのか?」
「いいも悪いもマスターの紹介してくれたパーティーよ?文句を言うならこの子たちじゃないわ」
「…それもそうか。よろしくな、俺たちはディティー。最近Bランクに上がったばかりのパーティーだ。おれがリーダーのバルトスだ。クラスは重戦士だ」
「私はサブリーダーのテレサよ。治癒師なの。怪我をしたら言ってね」
「私は剣士のコートだ」
「俺はレンジャーのマーカスだ。正直、後衛がいて助かるよ。こっちは前ばかりでな」
「私はフロートのリーダーのアスカです。こっちは従魔のアルナとキシャルとティタです」
「あたしはジャネット。見ての通りさ。こっちはリュートで槍使いだそんで…」
「お久しぶりです。ミリーです」
「あら、大鷲のミリーじゃない。鞍替えでもしたの?」
「それが、今日行くことになってる場所にみんなが居るんです…」
「…そう。ギガントウルフに襲われたパーティーってあなたたちだったのね」
「テレサ、知り合いか?」
「たまに他のパーティーに混ざってお金稼いでた時の知り合いよ。当時はまだDランクだったけど」
「はい。おかげで私たちも助かりました」
「それじゃあ、あんたらがギガントウルフを?」
「聞いてるんなら話は早い」
「前を行ってもらってよかったかもな。俺らじゃ、相手するのが大変だ」
「あなたの鎧も役に立たないって噂よ。バルトス、よかったわね」
「そこまで言うか。俺たちはBランクなんだぞ?」
「そういうが、ランクポイントを貯めればBランクには何とか上がれるからな。私もウルフは苦手だ。1対多数は苦手でな」
「あんたら本当に1パーティーで大丈夫だったのかい?」
「そこにいるのは今日の調査団の一員か?」
そんな話をしていると、門の方から声をかけられた。町に入る時に対応してもらった隊長さんだ。
「ベストが言ってたのはお前らか…ってお嬢ちゃんたちはこの前の」
「はい!ギルドマスターさんから同行を頼まれたんです」
「そいつはよかったな。おい!そっちのパーティー。こいつらは強いから安心していいぞ。それじゃあ、揃ったようだしこっちにこい」
今回の調査団の隊長さんに案内されて私たちは詰所に入る。詰所には領主軍の兵士とみられる人が5人と商人さんがいた。
「おや、アスカさんたちも呼ばれたんですか?」
「あんたに顔見知りがいた方がいいだろってことでね。その後、ギルドで何か言われなかったかい?」
「いえいえ、ギルドでも商会でもよくしてもらいましたよ。御者には悪いことをしてしまいましたが、保険もおりましたし、これで家族にも見舞金を出すことが出来ます」
「さあ、その話はここまでだ。ここからは仕事の話だ。まず、今回の調査の目的だが街の周辺の魔物発生率が上がっているのは周知の通りだ。そんな中、行方不明になる商人も増えてきた。当然、魔物に襲われたものと思われるが、今回は護衛は強くないものの4人パーティーを連れていた立派な商隊だった」
「こちらがその資料です」
調査団の隊長もとい、領主軍の責任者のファルケンさんの説明の後、副官を務めるディシアさんが資料を配ってくれた。
「こいつらはCランクも混ざっているが、ろくなうわさは聞かんぞ」
「私もだ。護衛対象より魔物に気を取られすぎるきらいがあると」
「それでも、攻撃に関してはまあCランクという触れ込みのパーティーだった。こいつらも含め行方が分からなくなったということで、商人ギルドから本格的に調査依頼が領主様に届いてな。こうして今回の運びとなった訳だ」
「想定されていたルートは通常の街道ルート。予定日より2日経っても町に着かないことから今回の話が出ました。また、積み荷は魔道具が数点と家財類の運搬でした。流石に商会の一員で持ち逃げということはないと思われます」
「まあ、順当に行けば途中で魔物にやられたってところだね」
「それと、今回同行する商人はそちらのフロートによって救出されましたが、ギガントウルフの群れに襲われています。こちらは確認済みの情報ですので、調査団員は心するように」
「それは俺らも聞いているんだが、本当に7匹ものギガントウルフが出たのかよ?」
「最初は9匹いました」
「9匹?だが、この報告書には…」
「バルトス、よく読みなさい。7匹はフロートが対応した分、残り2匹は大鷲が倒しているわ」
「商人たちを逃がして戦うなんざ中々できないぜ。こっちの商人についてる護衛どもなら真っ先に自分が逃げただろうよ」
「それでは困るのだがな。まあその話は置いておいてだ、警戒を怠らないようにな。我々領主軍は君たち冒険者の間に入る。前方は…」
「あたしらフロートの担当さ」
「では、フロートが先頭で私たちがその後ろ。最後にディティーの皆さんが後方をお願いします」
「商人のおっさんは?」
「出来ればフロートの皆さんのところに入れて頂ければと」
「それは助かる。どの道案内も必要だし、行方不明の商人の足取りを追うためにも前にいてくれた方がいい」
「では、行きましょう」
ディシアさんの声によってみんな席を立って門へと向かう。
「ワーレンさん!よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。私は前と同じ位置で?」
「そうですね。真ん中にいてください」
「今回は人も多いし前はあたしとリュートで。ミリーがワーレンのおっさんと中央、アスカはその後ろで頼む」
「分かりました。頑張ります!安心してくださいね、ワーレンさん。ばったばったと魔物を倒しますから!」
「は、はぁ。心強いです」
こうして、私たちは調査団として出発したのだった。そして、しばらく進んで…。
「魔物は…その先です!」
「警戒態勢!フロートが相手をする。その間、非戦闘員を領主軍へ」
「ファルケン様、退避完了です」
「よしっ!フロート、頼む」
「了解です!行きます、ウィンドカッター」
私の魔法を皮切りにみんなが攻撃を行う。相手は先日も戦ったオーガだ。ただし、報告した通りオーガバトラーが3体と多めの編成だ。
「そもそもオーガってそこまで群れない種族のはずなのに…」
「つべこべ言ってないで、前のやつを相手するよ!」
「槍よ!」
各々、オーガバトラーを相手に戦う。その間、他のオーガに関してはアルナやキシャルが相手をしている。キシャルの爪はあまり刺さらないみたいだけど、オーガの動きを止めるには十分だ。そこにアルナが魔法で攻撃している。ティタは2人の動きを見て危ない時にはフォローに入っている。
「いけっ!」
私は矢をつがえると、魔力をまとわせ放つ。
ウガァ
魔力の矢はオーガの皮膚を破って心臓に達する。
「うん、いい調子。残りは…」
私が周りを見渡すとすでに戦闘は終了していた。
「私が最後でしたね」
「いや、変わりないさ。終わったよ」
ジャネットさんが後方で待機していた調査団に声をかける。
「本当に腕のいいパーティーだな。俺たちがあのぐらいの頃とはまるで違う」
「今の私たちと比べないと駄目よ。ここは戦場なんだから」
「それにしてもだ。Bランクのパーティーと言われても違和感がない。オーガ系は私たちのパーティーでは手間取る相手だからな」
「ファルケン様、報告書以上の能力ですね」
「ああ、来てもらってよかった。ここ数か月の状態を見ると安心はできないからな」
「あの~、団長さん。この素材ってどうしたらいいんでしょう?」
「素材?ああ、倒したパーティーで処理してもらって構わないのだが…君たちもそれでいいか?」
「もちろんだ。BランクがCランクにたかるなんて出来ないからな。楽をして儲けるのは体に悪い」
「というわけだ。ただ、ゆっくりしている訳にもいかないから、そこは頼む」
「分かりました!リュート、お願い」
「了解。ジャネットさん、流石に見張りは良いでしょうから2人でやりましょう」
「そうだね。ちゃっちゃと済ますよ」
調査はまだ始まったばかりだ。この先も気を抜かないようにしなくちゃね。




