リラ草採取とギルドの依頼
「んで、街の西に出てきた訳だけど、群生地は近いのかい?」
「そうですね。ここからちょっと行ったところに森の入り口があってその近辺みたいです。多分、この情報提供者の人はEランク位じゃないかと」
「まあ、魔物には襲われそうだけど付近の魔物はウルフかゴブリンぐらいとあるからそうみたいだねぇ」
「アスカちゃんて少ない情報からでも色々わかるのね。すごいわ!」
「えへへ、そうですか?」
「あんまり褒めるなよミリー。アスカは直ぐに調子に乗るからね」
「そんなことありませんよ。ね、アルナ」
ピィ~
アルナにまで、否定されてしまった。うう~ん、どうしてだろ?
「それより群生地はもうすぐですよ」
「本当に近いね。これぐらい近いのに場所を教えるなんてやっぱり魔物が多くなってるのかな?」
「ま、行って見りゃわかるさ」
現地に着くと情報通りリラ草が生えていた。
「本当にあったね」
「ああやってギルドの方で依頼を管理してるから、他の人は取れないんじゃないでしょうか?でも、ちょっと元気がないのが多いですね。もうちょっと奥に行きましょう」
ささっと採って7割は残す。どうやら、前に採った後から天候が良くなかったらしく、生育状態が悪かったのだ。
「奥にあるって分かるの?」
「分かるって程でもないんですけど、多分この生え方だとメインは奥なんですよね。ちょっと森に入りますからEランクの人だと遠慮がちになるかもしれませんけど…」
10分ほど進むと、リラ草の好む光が良く当たる場所に出た。
「うん!この薬草なら状態もいいですね。摘んでいきましょう」
「オーガと戦ってる時も思ったけど、アスカちゃんって多才よね。他の大陸のCランクってこういうものなの?」
「こんなCランクが溢れてたら、商売あがったりだよ」
「そうよね」
みんなに見張りを任せてリラ草を採り終えると森を進む。
「この季節なら何とかシュウ草も手に入るでしょうし、頑張らないと!あれ?」
「アスカどうした?」
「お出迎えです。多分ウルフかと」
「やれやれ、面倒な相手だね。ミリー、アスカとリュートが左右の後ろに着くから、町に入る前の陣形だ」
「はいっ!」
ミリーさんを三角形の中心に置いてウルフを待ち構える。向こうも鼻のいい種類なのでこちらをとらえているようだ。
「正面、2匹。右から3匹、左上の1匹は私が!」
「はいよ!」
「了解!」
弓を構えると木の枝に飛び乗ってこっちに飛びかかろうとするウルフに先手を打って矢を射る。
ギャン
「次!ミリーさんちょっとだけ下がって下さい」
「分かったわ」
ミリーさんが下がった先にいるウルフに狙いをつけてこれも頭に当てる。その間にもジャネットさんとリュートがそれぞれ相手をしてウルフの襲撃は止んだ。
「相手がウルフとはいえすごいわね…」
「矢が刺さって、剣で斬れて、槍で突けるんだよ。当たり前だよ」
「でも、大鷲と同じCランクのパーティーとは思えないわ」
「そりゃあ得意な相手も違うだろうしね。多少早いぐらいじゃ、うちらにとっては無意味だし」
「でも、僕もたまに他のパーティーと一緒に依頼を受けると驚かれますよ」
「そうよね。ジャネットの感覚がおかしいんじゃないの?」
「これでもベイリスさんよりは弱いんだけどなぁ」
「誰なの?」
「フェゼル王国でも有名なAランクの剣士の人ですよ。マディーナさんって人とパーティー組んでるんです」
「それってフェネクスの2人組?」
「ああ、そういやそんなパーティーだったかな?」
「あの2人はSランクに近いって有名よ。この大陸にも来たことあるって…あなた達が強いのもうなづけるわ」
「私も魔法教えてもらったんですよ!実戦でですけど…」
「へえ~、どんな魔法なのかしら?見せてもらってもいい?」
「はい!行きますよ~、ツインブラスト」
私は風と火の属性を混ぜ合わせた魔法を放つ。放った魔法は近くにあった木の中心をくり抜いて霧散した。
「こんな感じのやつです」
「こ、これを実戦で!?どのぐらい習得にかかったの?」
「えっ!?その場でですよ。マディーナさんが2属性を目の前で掛け合わせて見せてくれたから真似したんです。いや~、あの威力だと失敗したら大けがしそうだったんで夢中でやりましたよ!それも計算されてたんですけどね」
ちらりとジャネットの方を見る。当然首をぶんぶんと横に振っている。さっきの魔法はかなり威力が絞られてた。それでも木を貫通するだけの破壊力だ。あの、Aランク魔法使いの彼女がいくら手加減してもそれなりの威力だろう。そんな魔法を初見で真似できる訳がない。一番びっくりしたのはマディーナさんではないだろうか。
「わ、私には難しいかな~。水は得意だけど風は苦手だから掛け合わせるのが大変そう」
「そうですか~、確かに私はどっちも得意ですからね~」
そう言いながらこともなげに火と風をくるくると掛け合わせては霧散させるアスカちゃん。才能って怖いわね。
「な、ミリー。あたしは苦労してるよな?」
「そうね。間違いないと思うわ」
「みんな、ウルフの素材取り終わりましたよ」
「おっと、任せちまって済まないねリュート」
「いえ、簡単なんでいいですよ」
「それじゃあ、もうちょっと進むね」
「いいけど、この先に何かあるの?」
「この感じだとルーン草が生えてそうなんだ」
私は注意しながら進み、無事にルーン草の群生地を見つけた。
「この辺は枯れ枝とか倒木も多いし人も来てないみたい。しばらくは見つからなさそうだね」
「それじゃ、採取は任せるよ」
「は~い」
ピィ
「アルナもちょっとだけ食べる?美味しいと思うよ」
「ええ!?あれルーン草…」
「ミリー、あんなんで驚いてたら本当に苦労するよ」
後ろの声は聞こえないふりをして採取にいそしむ。この辺りは明るいからムーン草はないけど、シュウ草とかサナイト草ならあるはずだ。
「この辺に入り込まないってことは手前で十分なものが採れるってことだよね」
私はそう考えてちょっと空を飛んで、目的の場所を探す。
「あった!あの辺なら…」
「アスカどうしたの?急に飛んだりして」
「えっとね、この辺は倒木が多いっていっても普通は採りに来るはずなの。でも、人が入ってないってことは近くにここが面倒だと思うぐらいの群生地があると思って」
「なるほどね。そんで見つかったかい?」
「はい、あっちにありそうです」
来た方向から少し向きを変えたところに新たな群生地はあった。薬師の町が出来ているだけあって周辺に色んな薬草の群生地があるみたいだ。それだけに今の魔物が多い状況は大変な事態なのだろう。
「思った通り、ここにはシュウ草が生えてますね。それに奥にはサナイト草まで、どちらも季節ものですからきっと今年はまだ人が来てないんですよ」
「でも、こういうのって採取場所が公開されてたらどうなるんだろうね。さっきのリラ草は依頼票に書いてあったけど、ここは書いてあるのかな?」
「多分ないと思うよ。どっちも季節ものだけど、そこそこの値段するし教えてもずっとお金もらえないしね」
「1年すれば事態が収まってるなら、わざわざ教える必要はないってか。そりゃそうだね。アスカの言う通りだと思うよ」
「それじゃあ、帰りましょうか」
「えっ!?もう帰るの。まだ、お昼過ぎぐらいだけど…」
「薬草の鮮度も気になりますし、頑張って一気にやっても成功しませんよ!」
「薬草採取ってこんなのだったかしら…」
「まあまあ、これでギルドに戻ったらびっくりするよ」
ピィ!
「ん?アルナどうしたの?」
アルナがくるくると若木の上で回り始めた。どうやら、この木に魔力を送って欲しいみたいだ。
「まあ、今日はもう外に出ないしいっか」
私はアルナにせがまれた通り、木に魔力を送っていく。
「これぐらい?ええっ!?あるだけ送れ?しょうがないなぁ」
私は残っていたMPを使って魔力をできるだけ送る。すると若木は少しずつ成長していく。
「これって…シェルオーク?」
魔力を帯びて成長した木はシェルオークに似ていた。シェルオークはシェルレーネ様の魔力が宿った木として知られ、その葉や枝はとても貴重だ。しかも、採取や建築時にその人を見極めて、使えない状態にする不思議な木だ。
「まさか、こうやって成長する木とはね。あっ、ミリーこのことは…」
「言わない!絶対に黙ってるから!こんなの言いふらしたら命に関わるわ!」
「そんなことないと思いますけど…シェルレーネ教の人たちにはいい情報だと思いますし」
「良すぎるんだよ…。とりあえずこのことは秘密にな」
そんな会話をしているとひらひらとシェルオークの枝から葉っぱが落ちてきた。
「わっ!?ありがとう。この大陸に来てから取れてなかったから助かるよ」
成長したといってもまだそこまで背の高くない木から落ちた葉っぱを集める。特異調合持ちの私にとって、レア素材のシェルオークの葉は調合に欠かせないものだ。これで作れば万能薬も作れるし、各種ポーションも問題ない。
「取り終えたかい?」
「バッチリです!」
「それじゃ、今度こそ戻るよ」
帰りもなんだかんだでオーガに出くわしながらも問題なくギルドに戻って来た。
「スティアさん居ますか~」
「あら、フロートの皆さん。お早いお帰りですね。もういいんですか?」
「うちは優秀なんでね。ああ、話もあるんだったね。買取もそっちでいいかい?」
「別に構いませんけど、薬草の買取だったら別に先でもいいですよ」
「それで構わないんだったらよかったんだけどね…」
「まあ、話もありますし奥でしましょうか」
スティアさんの話しって何だろうと思いながら私たちは奥の部屋に入っていったのだった。




