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今後

「で、宿に帰ってきた訳だけど…」


「そういえばジャネットさん。今回は報酬の受け取り現金でしたね。珍しいですね」


「そういえば普通に私受け取ってました」


「ああ、それはいいんだよ。まあ、ここからはみんなと相談だけどね」


ちらりとミリーさんに目線をやるジャネットさん。


「ミリー、あんたはこれから大鷲の奴らの家族にでも会いに行くのかい?」


「…そうですね。ただ、個人的なことはそこまで話さなかったので、調べる必要がありますけど」


「なら、金は要りようだろ。アスカ、今回の報酬なんだが…」


「分かりました!ミリーさん、これ受け取ってください」


「でも、これはアスカちゃんたちの…」


「2体分はあんたたちのだし、家族が見つかってどこに行くかも分からないんだ、取っときな」


「あ、ありがとうございます…」


私たちはさっきギルドで受け取った素材の報酬をミリーさんに渡す。


「さあ、アスカ。こうなったらその分あんたも働かないとね」


「そうですね。薬草も見たいですし、細工も頑張ります!」


「リュートはここの宿に話を付けてくれ。アスカのやる気もそれ次第だからな」


「そ、そんなことありませんよ」


「あはは、皆さんおかしいです」


「そうかい?」


「はい!」


急に笑い出したミリーさんにつられて私たちもしばらく笑ったのだった。


「それじゃ、飯までまだ時間はあるしどうする?」


「じゃあ先に薬屋さんのぞいてもいいですか?」


「ああ、そういやそんなことも言ってたね。んじゃ、暇だしみんなで行くとするか」


「はいっ!」


というわけで、宿の人に場所を聞いてまずは2件の薬屋さんを目指す。流石、薬師の町というだけあって何件も在るみたいなのでとりあえず近くにある2件だ。


「いらっしゃい。冒険者か…その辺適当に見て行ってくれ」


店番の人は手慣れた感じで私たちにそう告げると手元に目線を戻していた。


「あ、あの~、薬草とかありませんか?」


「ん?お嬢ちゃんは見かけない顔だが薬師なのかい?」


「駆け出しですけど…」


「この町で商売したいんならやめときな。今は魔物が出るせいで薬草自体も値上がって未熟もんにはどうしようもないよ。ほら」


店番のおばさんが薬草を見せてくれる。リラ草のBランクが…大銅貨1枚!?


「あ、あの…ここってこんなに高いんですか?」


「いいや、前まで高くてもこの半額だったね。だけど今は魔物が多いからね。リラ草取ってくるのも大変でね。あんたも適当な薬作ってないで、出来たらこれぐらいのを取って来ておくれ。薬師はみんな待ってるからさ」


「ちなみに他の薬草は?」


「変わりないよ。ムーン草やルーン草なんかもどんどん上がってるね。ポーションも低級なのは何とか価格は据え置きだね」


「どうするアスカ。もう1軒行ってみる?」


「うん。そうしよっか」


その後行った店舗も同じ感じで、薬草自体が大きく値上がりしていた。


「う~ん。当初の予定とかなり違って来たなぁ~」


「どうするんだい?ポーション作りの材料は自分で集めるか?」


「そうですね。ちょっと明日依頼を見てみて決めましょうか」


リラ草のBランク品は買い取りが銅貨3枚。店での売値が銅貨5枚だとして今の価格は大銅貨1枚だ。これじゃあ、予定の半分しか作れなくなってしまう。いや、私が使うのは珍しい薬草だからもっと大変かも。


「アスカ~、そろそろご飯だよ」


「は~い」


旨く宿の人と話をつけてくれたリュートが食事の時間になったので呼んでくれる。今日はなにかな?


「リュート、今日は何なの?」


「今日はとりあえずオークのから揚げ。分かり易いしね」


「ああ、そういうこと」


リュートの腕を信用してもらうのに唐揚げはとても便利だ。その辺のオークのステーキなんかだと見慣れた料理で、料理人の腕は分かりにくい。そんなこと言ったら唐揚げもなんだけど、こっちは特殊な調味料が使われているので、少なくとも店にはないメニューをもたらしてくれるってわけだ。長くやってる店も新しいメニューを作るのには苦労するので、こういう見慣れない料理を出す人間は大歓迎なのだ。


「おや、今日の料理は評判がいいみたいだねぇ。あんた、良い腕してるみたいね」


「これは使ってる調味料がいいんですよ。ただ、ちょっと高いんですけどね。醤油っていう輸入調味料が入ってるんでその配分次第で値段変わりますけど」


「ふ~ん。うちのやつにちょっと教えてやってくれないかい?」


「いいですけど、明日以降もちょっとお借りしますよ。あと、設計料かかるやつなので後で商人ギルドに行ってくださいね」


「はいよ。あ~、最近腰も痛いし遠いんだけどねぇ。店のためだし頑張るとするかねぇ~」


「腰、悪いんですか?」


「まあ、もう2人とも年だしねぇ~。しょうがないさ」


「むぅ~」


「アスカ珍しいね。食事中に考えごと何て…」


「なっ!?私だって食べてるばかりじゃないもん!」


「一応、食べるのに夢中な自覚はあったんだな」


「ジャネットさんまで!」


「ふふっ、みんなはいつもこうなの?」


「ち、違いますよ。いつもはもっとおしとやかにこう…」


「涎たらしてるだろ?」


「そう!涎たらして…ません!」


「ほら、今日は疲れてるだろうから早く食べて休みなよ」


「は~い」


「何だかリュート君はお兄さんというよりお母さんね」


「やめてくださいよミリーさん」


「リュートがお母さんかぁ。ちょっと嫌かも。でも、お兄ちゃんって感じでもないんだよね~」


「ほぅ~?いい感じだねぇ~」


その後は食事を済ませ、部屋に戻ってお休みだ。


「でも、この宿の部屋ってよく見ると傷みが目立ちますね」


「まあ、夫婦でやってるんだろうし直すのにも部屋を閉めないといけないからねぇ」


そう言えばノヴァが大工の手伝いをしてる時も飲食店自体を閉めて改築してたっけ。工期もそれなりにかかるみたいだし、中々難しいのかもね。


「それより今日はもう寝なよ。みんな疲れてるだろう?」


「分かりました。アルナ、キシャル、ティタおやすみ」


「おやすみ」


ピィ


んにゃ


皆にも挨拶をして眠る。明日からまた頑張らないと!



「おはようアスカ。朝だよ」


「ふぁい~」


リュートに起こされてむくりと起き上がる。


「あれ?リュートって部屋別じゃ…」


「もうアスカ以外は下に降りてるんだよ。中々起きてこないからって僕が行かされたんだよ」


「そうなんだ。ごめんね、朝早くから」


「いいよ。朝は別に手伝ったりしないしね」


リュートに連れられて下に降りると、すでにジャネットさんとミリーさんは食後のようでゆったりしていた。


「アスカちゃんって大人びてると思ってたけど、こういうところは年相応ね」


「まあ、こういうところでもないとやってけないよ。自分が同年代だった時を思い浮かべてごらんよ…」


「確かに…思い出したくなくなるわね」


昨日寝る前にちょっとだけ話してたんだけど、ミリーさんとジャネットさんは同い年でしかも、2人とも村出身の冒険者らしく気が合うみたいだ。


「食事が終わったらまずは冒険者ギルドだね。薬草採取の依頼がどうなってるか確認しないと。ミリーは知らないのかい?」


「私たちもDランクまでは取ってたんだけどね。流石に、もういいでしょってことになって取らなくなったわ。ムーン草とかはそこそこ収入になったんだけどね」


「あんたの認識でそうならまだまだこっちじゃいけそうだね」


「何の話しなの?」


「まあ、実際に見ればわかるよ」


食事も終わったので、私たちは再びギルドに向かった。


「えーっと、採取の依頼はと…あった!ん?」


「アスカ、どうしたんだい?」


「いえ、採取の依頼はあったんですけど変なんです」


「変?何が」


「これ見てください」


私は採取の依頼をジャネットさんに見せる。


「何か変かい?」


「採取場所が書いてるんですよ。大体この辺とかはあるんですけど、それはみんなが知ってるようなことでした。でも、この依頼票には具体的な群生地が書いてあるんです」


「ん?言われてみればそうだね。依頼を受けに行くのに聞いてみるか」


「そうですね」


私はとりあえず、採取場所の書いてあるリラ草の依頼票とその近くで出没するオーガ系の討伐依頼を取って受付に持っていく。


「あら、あなたたちは…」


「スティアさんでしたね。この依頼についてちょっと聞きたいんですけど…」


「いいわよ。あら?普通の採取依頼じゃないの」


「でも、この依頼票には群生地の採取地候補が書いてあるんですけど…」


「あっ!?そういえば他の町とは違うわね。ここは薬師の町でしょう?薬草の供給は町の収入に直結するの。今みたいに魔物がたくさん出る状況では安定的な供給が難しいでしょう?だから、一部の採取をする冒険者から群生地の情報を提供してもらって載せてるのよ」


「それって採取する側からすると大変じゃないですか?せっかくの採取場所の情報が…」


「大丈夫って訳でもないんだけど、アスカちゃんの依頼票にも下に名前があるでしょう?」


そう言われて改めて依頼票を見る。確かにそこにはケーラと書いてあった。きっとこの名前の人がこの群生地の情報を持っていた人なんだろう。


「その依頼票に書いてある人に採取報酬の2割が行くことになってるの。だから、アスカちゃんがそこでリラ草を採ってきて、銀貨2枚位だったら報酬から大銅貨4枚はその人に行くって訳」


「それだと、その人は何もしなくてもいいって訳かい?」


「今はね。魔物の出現が落ち着いたら今度は自分が使っていた群生地の情報は漏れてるわけだから、新しい場所を探すか、何か考えないといけないわね。それに今2割もらえるのも、危険度が上がって薬草の採取すら難しいからなの。安全になれば当然もらえないから、教えない人もいるわ。ただ、ギルドとしては薬草を持ってきてもらわないと薬師が困るから微妙なのよね」


う~ん、これは難しい問題だな。私もアルバを出る時にはフィーナちゃんとかに薬草の群生地を教えてきたけど、あくまで街を離れるからだ。そのまま留まり続けるなら、全部は教えなかっただろう。それぐらい、薬草を中心に活動する冒険者にとって大切な情報なのだ。それを公開してくれというのは一時的にお金が入るとしても、悩ましいことだ。群生地が書いてるのがリラ草ぐらいなのも、結局はムーン草など実入りの良いものは教えられないということだろう。


「とりあえずは行って見ないとね」


「ですね。それじゃあ、スティアさん行ってきます!」


「帰りにまたギルドに来ますか?」


「そのつもりですけど…」


「じゃあまたここに来てください。私がいますので」


「分かりました」


こうして薬師の町での初依頼を受けたのだった。



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