報告と滞在
「アスカ!髪の色はちゃんと変えたかい?」
「はい、ばっちりです!というか、街に入る前からやってるままです」
「あの…それって意味あるんですか?そのままの髪色の方がいいと思うんですけど…」
「ミリー聞きたいかい?後々大変だよ?」
「あっ、いいです」
ジャネットさんがミリーさんを説得?してギルドに向かう。
「は~い。あら、4人パーティー?でも、あなたミリーさんよね?大鷲の」
「そうです。マスターに話があるので、奥に行きたいんですが…」
「分かりました。すぐ呼んできます!」
受付の人はミリーさんのことを知っているらしく、直ぐに奥の部屋に通してくれた。
「なんだなんだミリー。とうとうパーティーを乗り換えるのか?そっちは…見かけない顔だな」
「まあ、他国から来てるんでね」
「ふぅむ。用件は?」
「まず私たち大鷲が請け負った依頼ですが、一応は成功です。商人は連れてくることが出来ました。しかし、御者と馬車を失ってしまいました」
「大鷲ほどのパーティーがか?確かにこの周辺の魔物は多くはなっているが、それほどの魔物が現れたとは…」
「あんたは明後日に行われる合同巡回依頼の目的は知ってるのかい?」
「もちろんだ。行方不明の商人とパーティーの捜索だ。しかし、その商人に同行していたパーティーはそれほど強いパーティーではなかった。こういってはなんだが、もう少し余裕のある編成で依頼を出した方が良かったという認識だ。大鷲のようなな」
「私たちはこの町に向かう途中、ギガントウルフに遭いました…」
「ギガントウルフ!?そんな魔物の報告は受けていないわ!」
「落ち着け!数は?」
「9匹です」
「9匹…群れがいくつか周辺に出来ているのかもしれん」
「そ、それで、大鷲の他のメンバーは?」
「スティアさんにはこれをお願いしたいんです。彼らのカードです」
そうして黒くなったカードをミリーさんが差し出した。間違いなく所有者が死んだ証拠だ。
「そんな…大鷲が」
「無理もない。あれは5匹でBランクの魔物だ。9匹も抱えて対応できるCランクパーティーなんぞ数えるほどだろう。Bランクのパーティーでさえ被害が出てもおかしくない。それであんたたちは?」
「ちょうどその頃にそこを通りがかってね。まあ、倒したってところだ」
「倒した?えっと、あなたたちのランクは…」
「まあ、一応はCランクだよ。あたしだけBランクだけどね」
「ふむ。少数を釣り出ししながら相手をすればそれも可能か…スティア、報告書を書く」
「分かりました。すぐに用意します」
一旦部屋を出たスティアさんがすぐに戻って来た。枠があるから決まったフォーマットの紙のようだ。
「では、今から質問に答えて行ってもらう。奥のパーティーは質問した時だけでいい。まずは大鷲のメンバーだ」
「分かりました」
質問内容も決まっているみたいでどんどん進んでいく。私たちもいくつかの質問に答え、報告書が出来上がった。
「協力ありがとう。有望なパーティーだっただけに残念だ。しかし、御者と馬車を失ったとはいえ商人を守り切ったのは大きい。向こうのギルドからもその点は評価されるだろう。また、フロートの活躍は依頼を受けていない中での行いだ。それについてはギルドから別に報酬を出す」
「そいつはありがたいね。それと他にもあるんだ」
「他に?」
「ギガントウルフも問題だけど、あたしら、今日はオーガバトラー3体、ウォーオーガ3体。後は普通のオーガ数体の群れに出くわしてね」
「ええっ!?そっちの方が問題かもしれません…」
「そうだな。そいつらは元々、周辺でも見られる魔物だ。ただ、オーガバトラーが3体もいたという報告はまずない。年に数回だろう。魔物の襲撃が相次ぐ中、とうとう全体的なレベルも上がり始めたのか…スティア、護衛依頼は出来るだけ優秀なパーティーが行けるように調整を頼む。俺は報告書が出来次第、商人ギルドと調整する」
「分かりました。ギルド内に貼り紙もしておきます」
バタバタとスティアさんが指示通りに動いていく。そしてちょっと経って落ち着いたようで部屋に戻って来た。
「皆さんお待たせしました。その他、何かありますか?」
「何かっていうか依頼の完了報告と素材の買取をやって欲しいんだけどね」
「はっ!申し訳ありません。とりあえず、大鷲の受けられた依頼に関しては成功として扱います。今回の襲撃の規模が大きくそれでも護衛対象を守り切ったので。ただ、馬車などが被害に遭いましたので減額になりますが…」
「構いません。最後の依頼がそれでよかったと思います」
「後はフロートの皆さんはこの町までの魔物の調査と排除ですね。こちらに関しては調査料は安いですが、今回倒した魔物の強さが強さですので、討伐料はかなりの金額になると思います。かさましはないと思いますが、確認だけさせてください」
「かさまし?」
「はい。こういった依頼の時にたまに申告数を多く記載するパーティーが居るんです。戦いに関することなので多少のずれは記憶違いで通しますが、これだけの魔物を倒した場合には正確に測るんです。流石にゴブリンを2、3体多く申告してギルドに目をつけられたい冒険者はいませんしね」
「んで、カード出しゃ良いのかい?」
「はい。お手数ですがお一人ずつお願いします」
ジャネットさんから一人ずつカードを機械に通していく。
「期間はこの依頼を受けた時から今日までと…終わりました。報告と一致してます。ご協力ありがとうございました!」
「ま、これぐらいならいいよ」
「それにしても、結構な数を倒されてますね」
「これでも依頼達成率の高いパーティーなんでね。一応、出会った魔物は全部倒してるよ」
「そうなんですか。それじゃあ、ワイバーンも倒して欲しかったですね。知ってます?皆さんの出発地の近くでワイバーンの目撃情報があったんですよ。たまに生息域を外れた高ランクの魔物が出るんですが、ああいうのをスパッと倒してくれると、こっちも商人ギルドから護衛依頼を取りやすいんですよね~」
「あ、ああ、まあ機会が無くてね」
「それってマグナのことですよね?」
「黙ってなよ、アスカ。絶対話したら面倒なことになるから」
「分かってるって。リュートったら心配性だなぁ」
「何かありました?」
「いや。それより素材なんだけどギガントウルフの毛皮とかはちゃんと売れるのかい?」
「状態にもよりますけど、結構高値ですよ。元のランクもそうですけど、個体が大きいので男性用のコートに最適なんです。狩人とかにも需要があってそこそこの利益になりますよ」
「なら見てもらいたい」
「じゃあ、解体所に案内しますね」
スティアさんに案内されて解体所に向かう。
「ん?新しい冒険者か」
「ゼドさん、よろしくお願いします。今日はちょっと珍しい素材ですよ」
「分かった。お前らみせてみろ」
「とりあえず、3体でいいか」
ジャネットさんが自分のマジックバッグに入っているギガントウルフを出す。
「これは…ギガントウルフか。嬢ちゃんたちはデグラス王国から?」
「いや、アスターからこっちに来る間のことさ」
「何と!?それでスティアが来たというわけか。まあ、俺に出来ることはないし、素材を見るか…。この2頭はところどころに傷があるが、頭の断面はきれいだな金貨2枚と銀貨5枚だ。こいつはかなりひどい。金貨1枚だな、そのまま使える部分が少なすぎる。これだけか?」
「私とこっちのリュートも持ってます」
「分かった。出してみな」
私たちも新しい台の上にギガントウルフを置いていく。
「ほう?こっちのは比較的良い状態だ。特にこれは大きな傷のない個体だ。金貨5枚はするだろう」
「高い…」
「この槍のやつも傷が目立たんな。後は牙か…。状態の良いものはそのままだな。こっちのやつはナイフに出来そうだ。残りは大きすぎるから矢にも使えんな…。飾りか何かなら使えるだろうが買い取りとなるとな…」
ギガントウルフはその体躯に合わせて牙も大きい。ウルフと違って矢にするにはサイズが合わないので、買い取り対象に出来るのはナイフとして加工できそうなものだけらしい。
「それじゃあ、残りの牙はこっちで引き取ります。私が何とかしますから」
「そうか?まあ、うちとしては構わんが。後はオーガの角と牙だな。こっちは買い取り一覧のものになるから固定価格だ。それにしてもあんたらは腕がいいな。目立った傷も見当たらないし、素材もいい」
「まあ、それは出来るだけ気を付けてますから」
「ははは、傷というのは人間の方だ」
「人間ですか?」
「ああ。素材のために無茶して怪我したり、分不相応な相手に挑んで怪我したりとその歳でも冒険者は傷を持つもんさ。それが目に見えてないってことはそれだけ腕がいいってことさ」
「じゃあ、しばらくはこの町にいるからちょっと色を付けてくれよ」
「この町に金を落としてくれるなら構わんぞ。ギルドの金だしな」
「おいおい、良いのかい?」
「俺たちだって冒険者だけで成り立ってるわけじゃないんでな。少しぐらいはかまわんさ」
結局、引きとってもらった素材は金貨30枚ほどになった。
「討伐料は確定次第出しますから、2日後ぐらいにまたギルドに来てくださいね」
「ありがとうございます。そうだ!魔道具屋さんってどこにありますか?」
「魔道具店はギルドを出て左に曲がって少し行ったところです。魔石や金属の扱いもありますよ」
「分かりました。それじゃあ、一旦これで失礼します」
「はい、ではまた」
スティアさんと別れ、私たちは宿に戻る。
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「スティア、どうだった?」
「マスター!彼女たちはかなりの腕です。ギガントウルフの傷をみましたが、おそらく2体ほどは大鷲との交戦で付いたとみられる傷ですが、フロートの倒したウルフの傷は少なく、的確に魔物の急所を突いていました。ジャネットという剣士の腕も見事ですよ。ギガントウルフの首が骨ごと切断されてました」
「3人で奴らを相手にしてか…明後日に行く冒険者パーティーはどこだったか?」
「ディティーですよ」
「Bランクに上がったばかりか…一応今日の報告を簡潔にしたやつを送っておいてやれ」
「分かりました」
「ことによっちゃ、フロートを呼ぶかもなぁ」
「BランクにCランクが付き添いですか?」
「重戦士に剣士に治癒師にレンジャーだろ?オーガぐらいなら構わんが、ギガントウルフだとな。領主軍からも出るとはいえ、こっちの戦力が整ってないと文句を言われかねん」
「手配しておきます」
「頼む。全く面倒になりそうだ」




