北の町へ接近
「う~ん、あんまりいい枝ないなぁ。薪たりなくなっちゃうかも」
「薪集めってこんなに大変なんですね」
「ミリーさんはあんまりやらないんですか?」
「私は水魔法が使えるから普段は調理の補助をしていたの」
「へぇ~、そうなんですね」
助けたお姉さんはミリーさんといい、以前は4人のパーティーに所属していたとのことだ。
「それなら、リュートを手伝ってあげてください。2人分増えてるから大変だと思うので」
「アスカちゃんは大丈夫?」
「私は従魔のみんなもいますし大丈夫です」
「じゃあ、行ってくるわね」
そう言ってミリーさんはリュートの元に向かう。
「まぁ、こっちも薪拾い大変なんだけどね。今日は魔法も結構使ったから薪も普段より多く必要だし」
ちらりと料理をしている二人を見る。
「リュートさん、お手伝いします」
「そうですか。あっ、リュートでいいですよ」
「じゃあ、リュート手伝いますね。こっちの野菜は…」
「これはスープに足しちゃうので、切ってください。こっちのがサラダ用です」
「分かりました」
「あっちはたのしそうだね、ティタ」
「うん。アスカはこっちでがんばる」
「は~い」
「リュートさん料理上手ですね。冒険者というより、料理人でも通りますよ」
「まあ、前は食堂でも働いてましたし」
「やっぱり!私のパーティーだったらこんなにスムーズには進まないです」
「アスカが普段から火の調整してくれるからですよ。今日も薪拾いをしてくれますし」
「それにしてもミリーは薪拾いをしたことがないのかい?アスカに引っ付いていたけど?」
「そうですね。水魔法があると調理に役立つのでいつもこっちでした」
「そうかい。ま、アスカが厨房に入るよりましか」
「アスカちゃんって家事出来なさそうですよね」
「あ~、まあ、そこそこできるよ。できるというくくりかどうかは置いといて」
そうこうしている間に夕食が完成したので、みんなで食事の時間だ。
「私もこんな豪華な食事を用意してもらってすみません」
「あんたは一応、ミリーのパーティーの依頼対象なんだから気にするなよ」
「しょういえば、ジャネットしゃん。今日の見張りはどうしゅるんれす?」
「アスカ、いっつも言ってるだろ?食べるか喋るかだ」
「…」
「えっ!?そこで食べるの?」
「いつものことですよ。アスカは食事が好きなんです」
「そうなのね。確かにこれだけおいしい食事なら納得ね」
「どうでもいいけどあんたら面倒なことにならないでくれよ…」
「?」
「それで見張りはどうします?」
「別にあたしらだけでいいよ。変に加わって襲撃されても困るしね」
「そうですね。僕もそれでいいと思います」
「それじゃあ、アスカはいつも通り最初頼むな」
「分かりました!」
「商人さん、あんたは特によく休みなよ。明日は馬車じゃなくて歩きなんだからね」
「分かっております。早めに寝させてもらいます」
食事も終わり、私の見張りの時間だ。
「それじゃあ、みんなお休みなさい。アルナもキシャルもね」
ピィ
んにゃ
「おやすみ、アスカ」
「アスカ、がんばって!」
「では、お先に」
「アスカちゃん頑張ってね」
みんながテントに入ったのを確認して私は細工を始める。
「その前に簡単に椅子とテーブルを作ってと…後はティタ、見張りお願いね。何かあったら言って」
「わかった」
「それじゃあ、昨日作ってた従魔セット作らないとね」
ホリホリ カリカリ
昨日作ったものを今日もまた作る。もうちょっと数を作っておきたいからね。意外に子ども人気が高いから細工屋さんでも庶民向けの店でも人気があるのもプラスだ。
「ふぅ~、2セットできたぁ~。ちょっと休憩しようかな?」
「アスカ、そろそろじかん」
「もうそんな時間なの!?」
「アスカ、交代だよ」
「ジャネットさん!それじゃあ、後お願いしますね」
「はいよ。アスカも今日は大変だっただろ?ちゃんと寝なよ」
「ありがとうございます」
私はジャネットさんに挨拶をしてテントに入る。
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「あんたは眠れないみたいだね」
「気づいていましたか」
「今日のことでだろ?まあ、座んなよ」
「ありがとうございます。あれからテントに入って考えてたんです。私が風魔法で空に逃げた後のことを…私だけ助かってみんな恨んでるだろうなって」
「そのことかい。あんたが居たって変わらなかっただろ?あたしも空に飛ぶことがあるからわかるけど、上から見ると相手のどこを狙ったら勝てるかよくわかるんだよ。あんたはそれで仲間が囲まれてるのを見た、違うかい?」
「そうです。それで…」
「勝てるのが分かったなら負けるのも一目瞭然だろ?でも、あんたの仲間はあんたに降りて来いって言わなかった。それが答えじゃないのかい?」
「でも!」
「いいかい。本当にあんたが憎いなら降りて戦えって叫んだはずさ。あんたの仲間はそう言わなかった。あんただけでも生きて欲しかったんだよ。無茶するリーダーなんかは特にそんなことするからねぇ」
「ジャネットさん、もしかして…」
「余計なことを言っちまったみたいだね。でもね、残ったやつは死んだやつに何言ったってしょうがないんだ。その分まで生きてやんないとね」
「そうなんでしょうか?」
「ああ、ひとまずは町に着いたらどうするか考えなよ。あたしらはあんたの面倒を見る暇はないんでね」
「アスカちゃんもですか?見張りとかも従魔に任せてるみたいでしたし…」
「アスカは魔物使いだよ?従魔が見てるんなら問題はないさ。それにあんたは見てないけど、多数との戦いならアスカの方が強いよ」
「従魔がいるからですか?」
「いいや。従魔ってのはアスカにとっちゃ癒しみたいなもんさ。あの子は単体で強いんだよ。実力じゃ、リュートが一番下かねぇ」
「そんなにですか?あんな可愛い見た目なのに」
「ああ。ああ見えて一度決めたら容赦ないからね。見た目で一番得はしてるよ。苦手だけど近接も出来るしね。どっちかというとBランクって感じだから、従魔がアシストするなら相手が4人ぐらいのパーティーなら一人で相手出来るよ」
「見かけによらないんですね…」
「あんたは人の心配より自分のことさ。町に着いたってぼーっとしてちゃだめだよ」
「何ができるんでしょうか?」
「そんなにあたしに聞くなよ。知り合って間もないし、あんたが何できるか知らないしさ」
「そう、ですよね。落ち着いたら考えてみます」
「それより、あんたも明日は歩き詰めになるんだよ。今日はそろそろ寝な」
「はい。明日はよろしくお願いします」
「あいよ~」
あたしは立ち上がって周囲を見回る。これでミリーも寝に行くだろう。
「ジャネットやさしい」
「何言ってんだティタ。うりうり~」
「いたい、ジャネットちからつよい、やめる」
「なにを~。あたしは力、前より下がってるんだぞ!」
「いいからやめる」
ティタとじゃれ合いながら見張りを続ける。しかし、あたしも面倒なことに首を突っ込んだもんだ。
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「アスカ、朝だよ」
「んぅ~、リュート?」
「うん。ご飯できてるから早く来てね」
「いく~」
パッと着替えを済ませて食事をしに向かう。
「おはようございます…」
「おはようアスカ。よく寝たみたいだね」
「はい!ジャネットさんはどうですか?」
「あたしはまあまあかね。ミリーは?」
「おかげであれから眠れました」
「そいつはよかった。ほらよ」
皆で朝食を取ったら後は片付けだ。
「こっちのを抜けばいいのね」
「はい!そうしたらテントをたためますから。畳んだらそのままマジックバッグに入れれば終わりです」
「これで終わりね。他の人は?」
「もう終わってるよ。そんじゃ、出発だね」
私たちは野営地を後にして、一路ファーガンドへと向かう。
「今日はぼちぼち歩いてたら夜になるから、ちょっと急ぐよ」
「分かりました」
隊列は先頭をジャネットさん。その後ろに商人さんとミリーさん。そして、その後ろ左右を私とリュートが固めている。
「ほら、そんなビクビクしないでいいから歩きな。あたしらが護衛しててあんたに危害が加わることは多分ないから」
「多分って申されましても…」
「しょうがないだろ?こっちはこれでもハイロックリザードと出遭ったこともあるんだぜ、保証はできないよ。まあ、あんた一人ぐらいならアスカがどっかに飛ばしてくれるから安心しなよ」
「ハイロックリザードを!?そ、それなら安心ですな!」
商人さんも現金なもので、私たちが思っている以上に強いことが分かるとずんずん進んでいく。でもこれで目的地まで遅れることもないだろうし、よかったかな?
「リュート、後ろの探知任せるね。私は前に集中するから」
「OK」
後ろは私とリュートなので側面や前方から襲われた時のことを考えて探知を分ける。今の陣形だと特に側面からの襲撃に弱いからね。
「うっ…ああ~」
「アスカ?ジャネットさん!」
「はいよ。位置は?」
「前方北西です」
「何の話しなのアスカちゃん?」
「多分オーガです。武器を持っているので、バトラーじゃないかと」
「バトラーが何体?」
「えっと…5体ですね。残りはウォーオーガか普通のオーガなので気にしなくていいと思います」
「気にしなくてって…」
「ほら、ミリーたちはそっちで隠れてな。ティタ、アルナ。悪いけど、面倒見てやってくれ」
「わかった」
ピィ!
「それじゃあ、行きましょう!」
私たちはオーガたちを倒すために、編成を分けて進んでいった。
「もうすぐそっちの林から出てきます」
「分かった。あたしはあっちで隠れてるから、ひきつけるのを頼む」
「了解です!」
オーガが見えてきたところで戦闘開始だ。
「嵐よ!ストーム」
グガァ?
森から獲物の気配を感じて出てきた相手に先攻する。オーガは好戦的な種族なので、先頭にリーダーがいて隊列はみだしやすい相手だ。
「まず、2体巻き込んだよ!リュート!」
「OK、アスカ!」
リュートは左から敵の後背を突く。まずは数を減らすために後ろにいるウォーオーガからだ。そうして、敵1体1体に注意が向けられるようになったところで、残ったオーガバトラーと対峙する。
ガァァァ
「向こうは相当怒ってるね」
「まあ、あれだけ好き勝手やればね。アスカ、後ろに下がってて」
「うん」
相手の数が4体になったところで、間を抜けてきたリュートの後ろに隠れる。そして、リュートに2体が向かってきた刹那―。
「はぁっ!」
ジャネットさんが右側面から即、2体を切り伏せる。そして、残りの2体もリュートとジャネットさんが倒して戦闘終了だ。
「もう出てきて大丈夫ですよ」
ちょっと離れたところにいる2人に声をかける。
「本当にお強い…」
「アスカちゃんって凄腕なのね。私なんかが魔法使いを名乗るなんて悪いわ」
「そ、そんなことないですよ!強い人はいっぱいいますって」
「この歳でこれだけ戦えるのはそんなにいないけどねぇ」
「ジャネットさん!」
「ほら、みんな。さっさと素材取りますよ」
「は~い。リュートに呼ばれたので行ってきますね!」
私は元気に返事をして、リュートの元に向かった。




