町の手前で
「おはようございます」
「ああ、おはよう。よく眠れたみたいだね」
「はい、リュートは?」
「いつもの通り、飯の準備中だよ。片付けしてるから見てくるといい」
「は~い」
トテトテと歩いて食事を用意しているリュートの元へ行く。
「リュート、おはよう」
「おはようアスカ。もう寝てなくていいの?」
「うん。昨日はよく寝たから」
「そう。だったら、お皿とか準備してくれる?」
「わかった」
ピィ
んにゃ
「2人ともおはよう。ティタは?」
「みはりしてる」
「あっ、ティタは見張りをしてくれてたんだ。ありがとう。それじゃあ、私は食器を用意してと…」
シートを広げてそこに食器を用意する。流石にテーブルと椅子は毎回用意できないので、今回の野営場所ではこれが精いっぱいだ。それでも、ここは休憩場所らしく使い易くしてある。
「朝食の準備はできたよ。それじゃ、食べようか」
「いただきま~す」
料理が出来たら早速食事開始だ。昨日のスープと新しく追加した野菜サラダにはスープでちょっと戻した干し肉が入っている。
「ふぅ~、今日もおいしかった。ありがとうリュート」
「どういたしまして。それじゃ、簡単に片づけて今日も街に向かって進もう」
「は~い」
テントをしまってすぐに出発する。そうやって進む間にも急いでいるらしい馬車が後ろから追い抜いていく。
「結構急ぎの馬車っているんですね」
「まあ、生もの運んでる奴とかはねぇ。他には貴重な物とか?」
「貴重な物?」
「魔道具かねぇ。後は魔石とかもそうだけど。あたしらが売って高いものも結局は他の町で売られることも多いからね」
「そういえばハイロックリザードの素材とかって、王都で残りは売られたんでしたっけ?」
「ああ。あいつはアルバに出るにしては強すぎるからね。あんなのの素材は買い手がいないし、量も多かったからね」
「リュートもちょっとだけ買ったよね?」
「今でも防具と防具のつなぎに使ってるよ。強度が高いし、金属より動きが制限されないしね。後は胸当ての裏生地とかにも使ってるよ」
「アスカは頑張ってブーツとか色々買ったからねぇ。後ちょっと時期が遅かったら、リュートもそこそこ手に入れられたのに」
「金貨30枚とか無理ですよ、あの時の僕には」
そんな話をしているとどうにも空気が変わった。
「ん?お出迎えかい」
「そうみたいですね。この辺の魔物はちょっと強そうです」
「僕がけん制するよ。アスカは後ろに控えてて」
「分かった。魔法を使うから巻き込まれないようにね」
「いざとなったら空に逃げるからよろしく」
「了解!」
魔物の接近を感知したので、直ぐに配置につく。大きさは…人より小さい。あれ?奥に人の大きさの反応がある。
「ジャネットさん、奥に人の大きさの魔物がいるみたいなんですけど…」
「人の大きさ…アスカ!突っ込めるかい?」
「は、はい!」
「リュート!作戦変更だ。あんたは先陣を突っ切ってくれ!」
「はい!」
ジャネットさんの判断で待ちから攻めに変える。一気に魔物に詰め寄ると姿が見えてきた。
「あれはウルフですけど…大きい」
4足で人より小さいものの高さは1m以上ある。
「げっ!?ギガントウルフかい。参ったね…。リュート、距離を取りな。力負けするから」
「はいっ!」
「アスカは思ってるのよりプラスして距離を取って、絶対にアルナを中途半端な高さに飛ばさないように」
「分かりました!アルナ、掴まってて!」
ピィ!
アルナを肩に乗せたまま距離を取る。ウルフの数は5体。でも、奥にさらに2体いてなぜか離れている。
「とりあえず様子見だね。ウィンドカッター!」
連続で風の刃を放ち、ウルフたちの注意をこっちに向ける。
ガルルルル
「ひっ!」
こっちを見たとたんに涎をたらしながら構えるウルフたち。全部私の方を見てるんだけど…。
「アスカ!距離を!」
「はいっ!ストーム!」
ストームを放ち距離を取る。その間に肩からキシャルが降りて、私とギガントウルフの間に立つ。
グル…
ヒュンヒュン
群れに向かってキシャルが氷の槍を放つ。苦手な魔法も使うなんて成長したんだね。
ワゥー
そんなことを考えている間にも避けながら迫ってくるウルフたち。
「大きい癖に結構避けるね…弓も相性悪そうだしここは!フレイムブレイズ」
私は小さい火球を大量に出すフレイムブレイズを放つ。避けてもこれなら火が残って野生の魔物には嫌だろう。
キャン!
一部が体に当たり、飛びのくギガントウルフ。やっぱりそこは野生動物と変わらないみたいだ。
「今なら!ストーム」
動きが止まったところで再び嵐の魔法でギガントウルフを狙う。今度は向こうも万全な体勢ではないので2体を巻き込むことができた。
「あと3体!リュート!」
「任せて!」
リュートが槍のリーチを生かして、相手の爪や牙の攻撃を受けない位置から仕掛ける。焦れたギガントウルフがリュートに向かって飛びかかる。
「もらった!」
飛びかかって来たギガントウルフに魔槍が刺さる。そして、そのウルフは動かなくなった。
「あと2体!竜巻よ…トルネード!」
数が減り、狭い範囲に固まったギガントウルフを逃がさないように竜巻で囲う。逃げられないように空にあげたら後は弓で…。
シュシュッ
「ウォーターカッター」
素早くつがえて、空中の1体に向けて放つ。巨体が空に舞ったことがないためか、相手は反応せずにその喉笛に矢が刺さる。さらに残りをティタの魔法が襲い首元を貫通した。
「何とか終わったね」
「うん。アスカ、大丈夫?標的にされてたみたいだけど…」
「大丈夫だよ。それよりジャネットさんは?」
「戦闘が始まったらすぐに奥に行ったよ。追いつこう!」
「了解!」
ジャネットさんを追って私たちは奥へと進む。
「ジャネットさん!」
「アスカにリュートか…見なよ」
ジャネットさんの目の前にはギガントウルフが2体倒れていた。そしてその奥には…。
「あ、ああ…なんてことだ…」
「商人さん?」
ジャネットさんの向こうには商人と思しき人がいた。そっちに目を向けるとずたずたになった馬車がある。そして、馬車の半分は赤く染まっていた。
「おい、あんた!護衛は?」
「わ、分からない。これより先で別れたんだ…。こんな大物が来るなんて…」
「大物?」
「ギガントウルフは3体以下ならCランクの魔物だけど、5体を超えるとBランクだ。複数体での狩りが得意で、図体の割に回避も上手い。恐らくこいつの雇った護衛じゃ、馬車を守りながら戦えなかったんだろう。あたしらでも護衛となれば難しかっただろうね」
言われてみれば確かに、あの巨体でウィンドカッターも避けたし、一足飛びで詰めて来る距離も大きい。自由に動けなかったら危なかったかも。
「それじゃ、探しに行くとするか。悪いなアスカ、先走っちまって」
「いいえ。きっと、ジャネットさんが先に行かなかったから商人さんは助からなかったと思います」
ばらばらになった馬車を置いて、少し先に進む。そこには…。
ガタガタ
「だ、大丈夫ですか、お姉さん?」
「あ、あ、あなたは?」
「今日の朝、抜かれたパーティーです。ちらっと眼が合いましたよね?」
「ああ、あの時の…」
「他の奴らは?」
「ほ、ほか…みんなは…」
「そうか、済まないね」
ジャネットさんがお姉さんを抱き寄せると、お姉さんは静かに泣き始めた。
「ご、ごめんなさい」
「いや、いいよ。それで状況は?」
「9体のギガントウルフを確認して…護衛しながらではどうあがいても勝てないので、商人には来た道を戻ってもらいました。先にも待ち伏せているかもしれないので。それで、数を減らして向こうが退却するように戦っていたんです。でも、相手の攻撃が激しくて…」
「あんたはどうやって生きのこったんだい?」
「私は水以外に少しだけ風が使えて危ないと思って、一度空に逃げたんです。仲間はその間に…」
「仲間に魔法をかける間も無しか。辛かったね」
それから、近くを探し何とか冒険者カードは全員分揃った。
「商人さん、ごめんなさい。みんなの装備です。今回の補償に当ててください」
「いえ、これはあなたがお持ちください。私は商人ギルドから保険が降りるので」
「それじゃ、いったん戻って馬車の荷物を漁るか」
簡単にお墓を作って道を戻る。
「んで、あんた何積んでたんだい?」
「それが主に食料でして…」
「そりゃ大変だ。町に着いても魔物に襲われたものだとほとんど売れないねぇ。残りは?」
「魔石がいくつか。後は魔道具なんかも。ですが、特別な物でも…」
「そういや、御者は?」
「御者?ああっ!?」
結局、御者の人も助からずその場で丁重に葬った。
「それじゃ、もうこんなもんでいいね。他は置いてくよ」
「はい、ありがとうございます。町に着いたら必ずお礼をいたしますので…」
「まあ、無理せず頑張りなよ」
私たちは予定より遅れたけれど、再び進み始めた。ジャネットさんが先頭でその後ろにお姉さんと商人さん。私とリュートがそれぞれ左と右に別れて後ろだ。
「あ、あの…あなたたちが本当にギガントウルフを?」
「あん?疑ってんのか」
「いえ、後ろの子とか戦えるのかなって」
「アスカはあんたよりずっと強いよ。従魔もいるしね。それより、ちゃんと商人を守ってやんなよ。あたしらの依頼じゃないんだから」
「はい」
そのまま歩き続けて、その日の野営場所に着いた。




