こぼれ話 アスターと小鳥たち
「はい、鳥の巣宛てに手紙届いてるよ」
「ありがとうございます」
「エレン、誰からなの?」
「ん~とね。あっ!お姉ちゃんからだ」
「アスカから?今はどこにいるの?」
「ファーガンドって街にいるみたい。読んでみるね」
私は今ファーガンドという街にいます。この周辺では薬草が多く取れるみたいなので、今から楽しみにしてます。だけど、周辺の魔物の数が増えていて、街の人や街道を通る商人さんたちが困っているので、合わせて討伐依頼も受けるつもりです。次の町ではダンジョンもあるみたいなので、何か珍しいものが出てきたら送るね。
追伸 一つ手前のアスターっていう町をアルナが気に入ったみたい。ヴィルン鳥やバーナン鳥にいい環境なのかな?ミネルの孫や中央神殿にいる子たちがもし興味を持ったら、ムルムルに頼んで連れて行ってもらえると嬉しいな。無理そうならお姉ちゃんに頼むから。あっ!?お姉ちゃんっていうのは前にも手紙を送ったけど…
「どう?なんて書いてあるの?」
「最初は普通のお手紙だった。後半の追伸の部分がすごく長そう…」
「あの子らしいわね。どれどれ、私にも見せて」
「は~い」
お母さんが手紙を読んでいる間、私は代わりにテーブルを拭いたりしてる。
「エレンねぇ、こっち終わったぞ~」
「分かった。それじゃあ、手分けしてお部屋の掃除お願い」
「は~い。そうそう、アスカさんが作ったハンガー掛け壊れてるところあったよ」
「ほんと?親方に頼まないとね」
「おい、今日の食材の…何読んでるんだ?」
「あなた。アスカから手紙よ。何でもヴィルン鳥達が住めそうな町があるんですって」
「へ~そいつは珍しいな。ディースさんに頼んで行ってもらうか?」
「でも、お金の問題もあるし、アスカの手紙じゃムルムル様に頼むって書いてあるわ」
「巫女様を足代わりとはアスカのやつ…」
「まあまあ。でも、確かに大陸が違うからおいそれとはいけないわよね。誰か適当な人はいないのかしら?」
「ま、それもミネルたちがまた子どもを産むか、エミールが相手を見つけないとな。今の子たちはこの町が気に入ってるみたいだからな」
「この町じゃそうよね。一応、シスターを通じて手紙は送ってみるわ」
「そうしてくれ」
それから1年後…。
チュン(心配だけど、頑張ってくるのよ)
チィ(はい、ママ!)
ミネルが次に産んだ子はアルナそっくりの元気もので飛べるようになるとすぐに町の外に出る子だった。
「ああ~、これでファナの世話から解放されるな」
「本当ね。でも、子どもみたいで楽しかったわ」
「ベレッタ、お前はそうだろうが俺みたいな弱小冒険者にはつらいんだぞ?街の東にだって平気で行くしな」
「でも、ヒューイだってよく構ってたでしょ?」
「まあ…そりゃあな。バーナン鳥もだけどヴィルン鳥とかって滅多に近くに来てくれないしな」
「そういえば聞いた?新しくできる教会にもう住んでるらしいわよ。バーナン鳥もヴィルン鳥も」
「ああ、サンダーバードも通ってるらしいし、鳥の楽園だな」
「町の人たちも害のない鳥たちだって怖がらなくなったわね」
実際にはサンダーバードは複数集まると大魔法を使うのだが、秘匿されているので街の人間は好意的に接していた。
「それでは行くぞ、ファナ!」
チィ
「ファナを頼みますね、ラフィネさん」
「任せておけ!アスカの頼みだからな。忙しいムルムル様に代わって届けてこよう」
「ところでそのマジックバッグは何ですか?一番いいやつですよね?」
「ん?アラシェル様の像やアスカの細工などが入っている。いい機会だから布教をしようと思ってな」
「えっと…シェルレーネ教の神官騎士と聞いたのですが?」
「今回の依頼はプライベートだからな!全力でやってくるんだ!」
「は、はぁ…そうですか。頑張ってくださいね」
「うむ。では、行ってくる!」
「何だかすごい人だったな」
「ええ、綺麗な人なのに残念ね」
「でも、アスカの知り合いと思えば納得できる人だったな」
「口が悪いわよ。私も言わなかったのに」
「思ってるじゃないか」
「まあ、そりゃあね」
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「ファナと言ったな。こっちがバーナン鳥のラキだ。一緒に旅をするからよろしくな」
チッ
チィ
「よしっ!じゃあ、まずは船に乗るんだが…間違っても船から離れるなよ?アスカの名前に傷がつくのは駄目だ」
チチッ
チィ…
「お前たちいきなり残念なものを見る眼は止めろ。いたっ、いたた。つつくな」
「おや?船にお乗りの騎士様は魔物使いかい?」
「ん?いや、大切な届け物だ。これが乗船券だ」
「毎度…中央神殿の巫女様の!?」
「ああ、部屋の方は特に何もないが早い便で」
「分かっております。今回はもしや教皇庁へ?」
「いや、別の任務でな」
「そうですか、直ぐに部屋を用意いたします」
チィ
「ん?シェルレーネ教の権力を使っているって?アスカのためだからな。それより、早く現地に向かわないとな」
そうして船に乗り、海魔と海魔と海魔を倒してようやく隣の大陸に着いた。
「いや~、流石は中央神殿の神官騎士様ですね。見事な腕前でした」
「それほどではない。だが、護衛が船上に不慣れなのはよくない。みっちり鍛えてやってくれ」
「はい、それはもう。ですが、本当にお礼はよろしいので?」
「うむ。私はシェルレーネ教の神官騎士だが、家ではアラシェル様という女神さまを信仰していてな。その教義にむやみに見返りを求めないというのがあるのだ」
「そうでしたか。いや~、悪いですなぁ」
「構わん。巫女であるアスカ様も大層気にしておられるのだ」
「ほほう?どのような方で?」
「このアラシェル様を小さくしたような感じだ。確か…あったぞ。このような感じだ」
「これは可愛らしい巫女様ですな」
「ああ。そうだ!よければこの交易船の中でも広めてもらえないか?アルバに在庫を置くようにするからな」
「構いませんが…」
「よろしく頼む。ああ、絶対に不埒者には売らないようにな。どちらも神像として扱ってくれ」
「はっ、はい!」
「ではな!行くぞ、ファナ、ラキ!」
チッ
チィ
二羽を引き連れて船を降りて、一直線にアスターへと向かう。アスターに到着すると従魔用の宿を取った。
「あら?珍しいわ。また、ヴィルン鳥に会えるなんて!」
「ん?ここがアスカの言っていた宿なのか?」
「あら、アスカちゃんやアルナちゃんを知っているの?」
「ああ。私はアスカの姉だ!実はアスカから、ここにこの2羽を連れて来るよう頼まれてな。ほら、ファナとラキ。挨拶だ」
チッ
チィ
「こっちの見た目ヴィルン鳥がファナ。こっちはバーナン鳥のラキだ」
「まぁ!どちらもかわいいです。いつまで滞在されるんです?」
「私は布教も兼ねて数日。この二羽はこちらで引き取ってもらいたい。アスカの方から以前に伝えてあるとのことだ」
「以前に…ああっ!?いつか、良い出会いをと言ってました!このことだったんですね」
「うちの妹はちょっとわかりにくいからな。突然で済まないが受けてくれるか?」
「ええっ、ぜひっ!でもいいんですか?どちらも人に懐きにくい貴重な小鳥として認識されてますけど…」
「ああ、アスカの頼みだしな。お前たち、アスカの名を貶めたりするなよ?」
コクコクと二羽ともうなづく。返事は良いが元気が良すぎるし不安だな…。
「少し余裕が出来たら、もう少し連れてこよう。この二羽は元気が良すぎて心配だ」
こうして、アスターの従魔宿は鳥の巣2号店として新たな歩みを始めたのだった。元々従魔用に設計された宿は1階部分を改修して、従魔とも触れ合える施設となり普段は小鳥たちが、魔物使いが泊まればその従魔とも会える街の人気スポットとなったのだった。




