出発
シャッ
「起きてアスカ」
「んぅ~」
「ほら起きなよ。今日はアスターの市だよ」
「いち…市…起きますっ!」
ささっと起きて髪を整え、服を着替えたら…。
「ちょ、ちょっと待って!出るから!」
「別にいいのに着替えぐらい」
「まあまあ、あいつも年頃だし察してやりなよ」
「そうですか?まあ、ジャネットさんがそういうなら…」
外出用の服にそでを通し、下に降りて朝食を取ったら市に出発だ。今回はもう戻ってこないので荷物も忘れずに…。
ピィ!
「えっ!?アルナここにいるの?戻ってこないんだけど…」
「いいじゃないか。市ってここから離れてないんだし、入り口までだろ?」
「しょうがないなぁ。お姉さん大丈夫ですか?」
「いいわよ。アルナちゃんのお陰で昨日はお客さんの受けもよかったから」
「そうなんですか?」
「従魔を受け入れてる宿って言っても中々泊まりに来ないのよ。おまけに害のない頭のいい小鳥でしょ?みんな昨日はアルナちゃんを見ながら飲んでたのよ」
「それでアルナの帰りも遅かったんだね。でも、大事にされててよかったです。そうだ!いいこと思いついちゃった。時間はかかりますけど待っててくださいね」
「はぁ…」
アルナを宿において私たちは一路、市へと向かう。
「いらっしゃいませ」
「らっしゃいー!」
「へぇ~、ほんとに食べ物がいっぱいだね」
「近くの村とかから直接集めてるみたいだね。商人がっていうより、村で一台馬車か何かで運んでるみたいだ」
「とりあえず食料から見ていくか。今のペースだとあと3日ぐらいだろ」
「そうですね。一旦は3日分でいいですから僕もそれで考えます」
「いらっしゃい、そこの3人組。ここで買ってかないかい?安くするからさあ」
「ほんとですか!リュート、見てみようよ!」
「あ、うん。はぁ…」
「リュート頑張んなよ。あたしは買えない分買って来てやるから」
「お願いしますジャネットさん」
「ほら、リュートみてみて。野菜がいっぱい」
「うん、そうだね。でも、それ足の早いやつばっかりだから、ほとんど買えないよ?」
「え~そうなの?でも1日2日は持つでしょ?」
「持てばいいけど、次はファーガンドまで買えないんだから、もうちょっと日持ちのするものを…」
「兄ちゃん。だったら、1日分だけでも買ってかないかい?それに、ここにも日持ちするのはあるしさぁ」
「日持ちってそれも翌日がギリギリの奴じゃないですか!荷物になりますし無理ですよ」
「こんなにうまいのになぁ…」
「美味しいんですか?」
「なんだ?食べたことないのか?この地方じゃ普通なんだがなぁ」
「何だろこの赤っぽい食べ物?」
「ちょっと酸っぱいからお嬢ちゃんには癖が強いかもしれないけど、将来のために慣れといた方がいいぜ!」
「お、おじさん!」
「リュート。どういうこと?」
「アスカは知らなくていいから!それより、買える量は決まってるから多く買っちゃだめだよ」
「いいの、買っても?」
「食べたいんでしょ?」
「うん。じゃあ、どれぐらいにしようかな~」
「ちょ、ちょっと待って。量も持てないし、味も分からないんだよ。もっと慎重に…」
「味ねぇ。ちょっと味見してみるか?」
「いいんですか!?」
「おう!」
私はおじさんから小さめの果物を受け取りそのままかじってみる。
「ん~、ちょっと酸っぱいかも?でも食べたことある感じ…そっか、これスモモだ!」
「食べたことあったの?」
「うん!ちょっと酸っぱいけど大好きなんだ~。おじさん!これ熟しちゃってるでしょ。硬いのはないの?」
「それがなぁ。ここから数日かかる村で作られてて、ちょうど硬いのを収穫して持ってきてすぐにこうなっちまうんだ。早めに摘むと硬いままで売りもんにならねぇしな」
「そうなんですね。もうちょっと欲しかったのになぁ…」
「コールドボックスの冷凍に入れておけばいいんじゃない?」
「そっか!ありがとうリュート。おじさん、これだけ下さい!」
「いいのかい?そんなに一日じゃ食べられんと思うが…」
「大丈夫です!当てがあるので。じゃあ、リュート。残りの料理に使う野菜をお願いね」
「分かったよ。おじさん、これとこれ後それも一緒に」
「いいのか?どれも足は早いが…」
「多少味は落ちますけど、持たせることはできるので」
スモモ以外の野菜類はリュートに選んでもらって会計を済ませる。
「色々買ってくれてありがとな。おかげで数日は売れそうだ」
「?よくわかりませんけど、おじさんも頑張ってくださいね」
その日以降、この店は若いカップルが親しげに買い物をしていたと数日間盛況だったという。
「そう。こいつを嫁さんの方が気に入っててなぁ」
「へぇ~、話のタネに一回買ってみるかねぇ」
「いい買い物ができたね」
「そうだね。後はジャネットさんの方だけど、捜しに行こうか」
「そうしよっか。はい!」
私はリュートに手を差し出してジャネットさんを捜す。朝市はどこでも活気十分ではぐれちゃうからね。
「ジャネットさんはこっちかな~」
「どうだろう?買い物って言っても頼んだのは長持ちしそうな食料だし、乾物の方かもね」
「そういえばジャネットさんって結構そういうの好きだよね」
「みたいだね。時々、漬けてたり乾燥したりしてるやつの状態を聞かれるし」
「なに話してんだい?お2人さん」
「ジャネットさん!」
「買い物もう終わったんですか?」
「そりゃあ、慣れてるからね。王都まで往復するのに買い物に時間かけてられなかったし」
「なに買ったんですか?」
「見てのお楽しみさ。明後日ぐらいには見れるだろうから期待してなよ。そっちはどうだったんだい?」
「私の知ってる果物があったんです。後でジャネットさんにもあげますね。きっと気に入ると思いますから!」
「そいつは楽しみだ。他に見るものは無いね?」
「大丈夫です!」
「それじゃ、市を出て…アルナを迎えに行かないとね」
「そうでした!きっと待ってるだろうなぁ」
皆で宿に戻るとアルナが出迎えて…。
「アルナちゃん可愛いねぇ。ご主人がいなくても立派に留守番できて」
ピィ!
「ほら、ご飯食べない?何もかけてないから食べられるよ」
ピィ
「ア、アルナがアイドルになってる。どういうことなんだろう?」
「あっ、帰って来たのね。アルナちゃん、お迎えよ」
ピィ
待っててくれたのかは微妙だけどアルナは私の肩にちょこんと乗る。それだけのことなのに宿の食堂からは拍手が起こる。別に大したことでもないのになぁ。
「皆さん、アルナがお世話になりました」
「いやいや、こんな町に従魔が来るのもたまのことだし気にすんない」
「そうそう。前に来た従魔は怖がりで私たちが近寄ると威嚇されちゃって…。短い間だったけど楽しかったわ」
「近いうちは無理ですけど、いつか皆さんにもいい出会いがありますよ。そうだ!これよかったら」
私は木彫りのヴィルン鳥のネックレスを取り出して、食堂にいる人に配る。
「これはヴィルン鳥の羽根か?」
「はい!しかも、張り合わせてる中にはちゃんと本物も入ってるんですよ」
「そうなの!?縁起がいいわね」
「だからもらってください。きっと、持ってると出会いがあった時にも役に立ちますよ」
「宿のお姉さんはこっちです。お世話になりましたからね」
「あら、ありがとう」
「木のやつと違って張り合わせてないので触ることも出来ますからね」
「あらほんと、スライドできるのね。ありがとう」
「いいえ。アルナも気に入ったみたいですし、お礼です」
「アスカ。そろそろ行くよ」
「は~い。それじゃあ、失礼します」
食堂の皆さんに別れを告げて私たちは一路、北のファーガンドを目指して町を出た。




