中継地アスター
「アスカ、アスカ起きて。もうご飯の時間だよ」
「んぅ~、ご飯?」
「そうだよ。今日はベーコンも用意してるから」
「起きる!」
カリカリベーコンと聞いては黙っていられない。ささっと出かける用意をして、テントの外に出る。
「はい、アスカの分」
「ありがと、リュート。わっ! このベーコンカリカリだ!」
「アスカはそっちの方が好きだって前に言ってたからね。ちゃんと細めのパンに野菜と挟んでるよ」
「嬉しいっ! やっぱり、リュートが一人いると違うね~」
「そ、そう」
「……はぁ、ほら早く食べなよ。明後日には中継地に着くんだから」
「村には寄らないんじゃ……」
「一応町の部類に入るのがあるみたいだからね。宿ぐらいは取れるだろ」
「さっすがジャネットさん。ずっと付いていきます!」
「アスカは本当にもう……」
リュートに呆れられながらもカリカリのベーコンサンドを堪能した私は、ジャネットさんの言った町に向かうため、テントの中を片付ける。
「さて、後はマジックバッグに入れてと……リュート、そっちは?」
「もう終わるよ。アスカ、手伝おうか?」
「ううん、私ももう終わる」
「じゃあ、後は出発するだけだね」
「だね。よっと、終わったよ」
「それじゃ、ジャネットさんが待ってるから行こうか」
「うん!」
リュートが出した手を掴んでジャネットさんのところに歩き出す。ジャネットさんは見張りの交代の時にあらかじめ用意してたみたいで、片付けも一番乗りだったのだ。
「終わったのかい?」
「はいっ! バッチリです」
「なら、進むとするか。アルナ、ここはあたしの肩だよ」
《ピィ!》
「アルナも今日はジャネットさんのところがいいんですよ」
「全く、主人思いの小鳥だねぇ」
「ティタも」
ティタも何やら思うところがあったのか、今日はそっちに行ってしまった。みんな今日は冷たいなぁ。
「キシャルだけだよ。何時も通りなのは」
《んにゃ?》
眠そうにキシャルが答える。
「ごめん眠いの? しっかり寝ててね」
《にゃ~》
最近、キシャルは家猫にしか見えなくなってきた。これでも戦う時は頼りになるんだけどね。
「はぅ~。進めど進めど景色が変わりませんね」
「この辺は開けてるし、整備も行き届いてるからねぇ。王都とラスツィアみたいな感じかね」
「こういったらなんですけど魔物もいないし退屈ですね~」
「ま、街道沿いの旅なんてそんなもんさ。だからこそ、旅が出来るんだからね」
「そうですね」
そして、お昼休憩がてら食事を取る。お昼はスープだけだ。でも、肉団子とかが入っているので栄養も量もバッチリだ!
「はぐっ! でも、いつの間にこんなの作ってたの? 朝はなかったよね?」
「昼の仕込みは先にしておいたからね。毎回その場に着いてからだと時間もかかるし、安心できないでしょ?」
「なるほど~」
食事の手を止めずに返事を返す。確かに野営地は整備されてたし、休憩を取っているこの空き地より安全だ。ただ作るだけじゃないんだね。私も見習わないと。
「さぁて、出発するか」
「はい!」
食事も終わり元気一杯の私たちは街道を進んでいく。すると、彼方に町が見えて来た。
「ちょっと頼りない城壁ですけど、町が見えて来ましたね」
「まあ、あの町が戦場になったことはないしね。新帝国軍結成時も通りすぎた町だし、城壁もその時に急造されたのを改修してるだけさ。あんなんでもこの辺りの魔物なら十分って訳さ」
「なるほど! 大きいのだと改修するのも大変ですもんね」
「そういうこと。町も見えて来たことだしペース上げるよ」
「は~い。ほら、リュートも」
「わっ⁉ 急に掴まないでよ」
「いいから、ほら行こう!」
早く町が見てみたいので、みんなを急かして町へ向かう。だけど、見えてからが結構長いんだよね。結局、一時間ほど歩いてから町に着いた。
「ん? 君たちは?」
「見ての通り冒険者さ。アスターには入れるんだろ?」
「もちろんだ。代表者の身分証を」
「はい、どうぞ!」
「おっ、お嬢さん偉いねぇ……Cランク? 優秀な護衛なんだね。ゆっくりしていってくれよ」
「ありがとうございます。それじゃ」
町に入ったものの、そこはギリギリ町と言える都市。珍しい店はない。
「市は朝市で食料が買えるみたいだし、明日の朝に行くとして夜はどうします?」
「夜ねぇ。宿ってのも味気ないし、適当に入るか」
「じゃあ、僕は宿の人に聞いておきますね」
「お願い、リュート」
宿に行く前に従魔が泊まれる宿を教えてもらうため、冒険者ギルドへ寄る。
「従魔の泊まれる宿ですね。アスカ様の従魔ですと小型ですので、こちらの二つです。どちらも値段は変わりませんが……」
「飯は別なんだけど……」
「では、こちらの方がいいかと。部屋が少し広いので。ただ、その分食事はないんです」
「了解。ありがとよ」
みんなでお礼を言って紹介された宿に向かう。
「従魔付きで一部屋お願いします!」
「従魔付きね。見たところ小さいようだけど、外にまだいる?」
「居ません」
「なら、四人部屋にしとくわね。こっちのベッドだけ従魔に使わせれば料金は安くなるから」
「わかりました。みんな、よろしくね」
《ピィ》
アルナが返事をティタは喋れないので頷いて返事をする。キシャルはすでに夢の中なので、後で言っておけば良いだろう。
「皆賢い子達ですね。たまに暴れたり、肉を出すとその場でがっつく子がいて大変なんですよ」
「うちの子はできる子ですから!」
「食事は付いてませんので、併設の食堂か外でどうぞ」
「はい」
部屋に戻って食事に行こうとすると宿の雰囲気が気に入ったのか珍しくアルナがお留守番を申し出た。食べに行く時は付いてくのに珍しい……。
《ピィ!》
「迷惑だけはかけないようにね」
アルナを安全な従魔だと示すために受付のお姉さんの肩へ乗せることになった。
「今日はよろしくねアルナちゃん」
《ピッ》
「なに張り切ってるんだかアルナったら」
「ほら行くよ、アスカ!」
「は~い! それじゃあね」
アルナを置いていざご飯へ。
「それでどこで食べるか決まってるんですか?」
「いいや。まずどこかで一品頼んでみて旨かったらそこにする。いまいちなら二軒目。そんな感じかね?」
「面白そうですねそれ!」
「だろ? たまにやるんだけど、外れがあるのが面白いんだよ」
「外れたのにですか?」
「ああ。当たりを引いた時の感動が増すからね。んじゃ、一軒目に行くよ」
ジャネットさんの後をついて行き、私たちは一軒目の店に入る。
「えーっと、ここは串だね。いっちょ頼むか」
串ならお腹が膨れることもないので早速、一人二本ずつ頼んでみる。
「ん~おいひぃれす」
「こらアスカ。タレが垂れてるよ」
「ジャネットさんもそういうこと、んぐっ、言うんですね!」
「シャレで言ってるんじゃないよ、ほら」
ジャネットさんが私の口元に指を当ててついていたタレを取る。
「本当だ! いつの間に……」
「食い意地ばっか張ってるから気が付かないんだよ」
「そ、そんなことないですよ! ねぇ、リュート?」
「あはは、僕に言われてもね」
「ええっ⁉ どうしてここは賛同してくれないの?」
「じゃあ、なんで椅子から前に乗り出して焼き上がるのを見てるの?」
「何だいお嬢ちゃん。そんなにこの串焼きが気に入ったのかい?」
「はいっ! タレがとってもお肉や野菜に馴染んでおいしいです」
「そうかい。そりゃうれしいねぇ。元は屋台でやってたんだがようやく店を開けるようになってなぁ」
「すごいじゃないですか!」
「そ、そうか? いやぁ、ファーガンドの親方から独立して早六年。報われた気がするぜ。グリディア様に感謝しねぇとな」
「へぇ、あんたグリディア様の信徒なのかい。冒険者や兵士でもないのにねぇ」
「この国じゃ、普通のことさ。それに店だって戦いだぜ。ライバルがいるしな」
「ふふっ、おじさんかっこいいですね」
「まあな! お嬢ちゃんたちは何の神様を拝んでるんだい? やっぱり、グリディア様かい?」
「あたしらは旅人でね。アラシェルって女神様を崇めてるんだよ」
「ふ~ん。聞いたことのない神様だな。どんな神様なんだい?」
「とっても優しい神様なんですよ! グリディア様とも仲良しなんです」
「そいつは聞き捨てならねぇな。ちょっと見せてくれ!」
おじさんにアラシェル様の像を見せると気に入ってくれたので、シェルレーネ様の像と一緒に三柱を飾ってもらえることになった。
「おおっ!グリディア様の像も出来がすごいんだな。これならいつも買ってる店のより良いぜ! 最近はよぅ、罰当たりにも信者向けの粗悪品が出回ってるから、こういうのは久しぶりだ。これも買わせてもらうよ」
「いいんですか?」
「ああ、まともな細工師のも値上がりしててな。俺らみたいに金に余裕がないやつらは今飾ってる程度ので我慢せざるを得ないんだ」
そう言いながらおじさんは飾っているグリディア様の神像を指す。確かに一目見ていい出来ではないと分かるものだった。基本的に神像は安くともその尊さから粗悪品は出回らない。それが一般人にも認知されているなんて……。
「大変ですね。私も細工師の端くれとして頑張って作って見ます!」
「お嬢ちゃんはアラシェル様って女神様の信者なんだろ。いいのかい? グリディア様の像を作ってても」
「はい! アラシェル様はお心の広い神様なので、皆さんが苦しんでいる方が嫌だと思われる方です」
「そっか、それなら俺もたまにはお祈りするよ」
「ありがとうございます!」
そう言って棚に飾った三女神の像をおじさんが拝むとわずかにシェルレーネ様の像が光る。
「ん? 今光ったような……」
「そうですね。でも、なんでシェルレーネ様の像なんでしょう? 流れ的にはグリディア様の像のはずですけど……」
「もう一回祈って見るよ」
おじさんがもう一度祈ると今度はグリディア様の像がさっきより強く光る。最後にはアラシェル様の像まで光り出した。
「何が起こってるんだろう。アスカは分かる?」
「まったく」
「これまで34年生きてきて、まだまだ分からんこともあるもんだな。だが、縁起もいいしちゃんと全員に祈るようにするか!」
「それがいいですよ。そうだ! 三女神様にあやかったメニューとかどうです? グリディア様がタレの肉もので、シェルレーネ様があっさり目の肉、アラシェル様が野菜と肉の串です」
「先の2柱の方は解るんだが、肉と野菜を一緒に? 変に味が混ざらないのか?」
「組み合わせですよ! ネギとオーク肉とか絶対合いますよ。調味料は……リュート、コショウ出してくれる?」
「コショウ? ちょっと待ってね」
リュートから受け取ったコショウをおじさんに見せる。
「これと塩を混ぜたり、もう少しスパイスを混ぜて……ネギはあったっけ? これですね。これと一緒に串に刺して焼いてみてください。絶対気に入りますよ」
ネギまを焼いて貰いおじさんに味見をしてもらう。
「ん……こいつは旨い! お嬢ちゃん、こいつをうちのメニューにしてもいいか?」
「構わないですよ」
「おっと、もちろん設計料は払うから商人ギルドで登録しといてくれよな!」
「あ、そうですよね。明日にでも商人ギルドに行ってきます」
美味しい食事と新しい出会いに感謝しながらその後も出される料理を楽しんで、宿に戻った。
「また、近くを通ったら必ず来てくれよ!」
「はいっ!」




