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細工の町は観光地!?

 ようやく、最初の目的地であるショルバに着いた私たち。といっても今日は良い時間なのでまずは宿を探す。


「当店は一泊お一人様、大銅貨三枚と銅貨五枚です」


「うちは一部屋銀貨一枚だよ」


「泊まりは大銅貨三枚と銅貨二枚、朝付きはプラス銅貨六枚ですよ」


「ショルバへようこそ。朝昼付きで1泊大銅貨4枚です。今日はもう昼がないので大銅貨3枚と銅貨5枚ですよ」


 とはいえまだ日も高めだったので、複数の宿を見て回ったのだが……。


「レディトより高くないですか?」


 確かにこの街は王都から1日の距離だけど、商業都市でもなく大都市間の中継地でもない。


「まさか、こんなに高いなんてね。王都でも安めの宿なら同価格だよ」


「どこにします? 一応最後の宿が一番お得ですが……」


「リュートがいるから一部屋の宿はパスだね。後は飯の関係だけど……」


「ジャネットさん、この町って何か美味しいものの話を聞いたことあります?」


「ないけど確か、一旗揚げるのに色々な地方から人が来てるから種類は豊富だって王都で聞いたことはあるね」


「朝ご飯は付いていた方がいいんじゃないかな? 朝って市場でないと買えないし、毎日買い置きする?」


「そう言われるとそうだね。なら三つ目の宿にしよう。食べていまいちなら次から断ればいいんだし」


「そうするかね。依頼も受けないんじゃ昼までゆっくり宿で休めるわけだし」


「とりあえず、何泊の予定にします?」


「一週間かね。どうせアスカは細工物とか見て回るんだろ?」


「はい! それに旅の途中でムルムルやバルドーさんに会う時のお土産にしたいです」


 ムルムルとは水と慈愛の女神シェルレーネ様の巫女で、巫女は神託を聞ける。普段は王都より東にある中央神殿に住んでいる私の友達だ。バルドーさんはアルバにいた冒険者なんだけど去年、生まれ故郷のグラントリルというバルディック帝国の奥にあるデグラス王国の都市に帰ってしまったのだ。今は商人もしているし、遠くにある細工の町の商品を仕入れたら喜ぶんじゃないかと思っている。


「じゃあ、三番目の宿に戻るよ」


「こんにちは~」


「あら、いらっしゃいませ。先ほどぶりですね」


「覚えててくれたんですか?」


「客商売ですから。それに、冒険者の格好をされていますが、ここまで若いパーティーはあまりいませんので」


「この町じゃ冒険者は珍しいんですか?」


「いいえ。でも、若い子たちはこぞってこの距離なら王都で活動したがるので、あなたたちのようなパーティーは珍しいですね。この町の冒険者なら大体顔は知ってますし」


 なるほど。見慣れない若いパーティーだから覚えてたんだ。流石は宿の受付だ。私は受付なんて滅多に任されなかったからなぁ。アスカは気づいていなかったが、その容姿と親しみの持てる性格から、受付をすると変な客が増えるので、宿の方で他の業務をさせる方針だった。


「ま、とりあえず一週間。二人部屋と一人部屋一つずつだ」


「かしこまりました。二人部屋になりますと一泊大銅貨六枚です」


「ちょっと安いんですね」


「はい。ただ、どうしても一人部屋二つよりは狭くなってしまいますが……」


「ま、そんなもんさ。そうそう、この町の風呂屋はどこだい?」


「お風呂ですか? この宿を南にしばらく下がったところです。ですが、値段もまちまちですのでドレンの湯を訪ねてください。最安ではありませんが衛生面など整っております。何分観光地となってきてからは盗難も多くて……」


「多いんですかそういうの?」


「恥ずかしい話ですが、それなりに聞きますね。王都よりは物価も低いですし、それなりの冒険者がいますが身を落とした人も多くて……」


「取り締まりはないんですか?」


「もちろんありますが、市場とか職人街が主ですね。分かり易く観光客にアピールできますから」


「ありがとう、お姉さん。後は朝食もお願いしますね」


「分かりました。朝食代以外は先にお支払いされますか?」


「そうだね」


「では、二人部屋が銀貨四枚と大銅貨二枚。一人部屋が銀貨二枚と大銅貨二枚に銅貨四枚です」


「んじゃ、アスカ。今回の宿代はあたしが持つから次は頼んだよ。はいよ」


「僕はちょうどありますから今出しますね」


 部屋代を先に払うとお姉さんから鍵をもらう。


「それにしても皆さま仲が良いんですね。お支払いを別でされないなんて」


「二年近くの付き合いですから! この街の冒険者は違うんですか?」


「この町の冒険者たちは極端ですね。仲が良いのは王都から引退前に引き揚げてきたパーティーとかですね。逆に実力が及ばずこの町に来たり、実力が出せなくなって来た人のパーティーは問題も多くて。宿の支払いで揉められるとこっちも困るんですよね」


 それはそうだ。誰がどれだけ払うかなんて店にはどうでもいいもんね。別に割引交渉してる訳でもないんだし。


「でも、新人とかはいないんですか?」


「そうですねぇ。この町出身の人はいますけど多くはありませんね。どうしても王都が近いですし、先ほど言った方たちも実力からするとCランクはありますから依頼は問題なくこなせますし、細工の運送の依頼もあるんですけど、そっちは逆に行き先が遠くて新人向けではないですからね」


 町の治安維持のバイトのような依頼もあるらしいけど、観光客向けの依頼は実績も性格も考慮され受けられないので、新人が育つ環境ではないらしい。


「そうです! ぶしつけなんですけど、魔物の食材で余りとかありませんか? 皆さんは他の町から来られたんですよね?」


「ああ。リュート、何か残ってたかい?」


「まだ、ギルドに行ってませんからオークならありますよ」


「ぜひ、売ってくださいませんか?」


「べつにあたしたちは構わないけど、商人ギルドから買わないのかい?」


「普段はそっちですけど、やっぱり直接取引は仲介料もかかりませんから。もちろん、買い叩いたりはしませんので!」


「今余ってるのは二頭分ぐらいですね」


「全部ください!」


「だ、大丈夫ですか。傷んだりしません?」


「実はここだけの話なんですが、私珍しくも氷の系統が使えるんですよ。もちろん、生活魔法程度ですけどね」


 氷属性は水属性の派生型だけど、水適性があっても氷適性もないと使えない珍しい魔法だ。それを使った保存ができるので、この宿は儲けがいいらしい。


「それでどこに出せばいいですか?」


「奥にお願いします」


「それじゃ、リュート。後は頼んだよ。あたしたちは部屋を見てくるから」


「はい。夕食になったら呼んでください」


「あいよ」


 リュートと別れて私たちは部屋に入る。部屋の広さはアルバの私の部屋よりちょっと広い位。入ってすぐ、左右に分かれてベッドがあり、その中央の通路奥にちょっとした縦長タンスがあるだけだ。


「ま、こんなもんだよね。ベッドがある分ましか、よっと」


 さっそくジャネットさんはベッドの感触を確かめている。


「ちょっと硬めだね」


「本当ですね。硬さを調節するためにクッションでも作ろうかな?」


 全身は大きくなっちゃうから頭から腰ぐらいまでの。そんなことを考えつつ窓から町並みを覗いたりして過ごす。


「さ、ずっといても仕方ないしリュートの奴を呼んで食事と行くか!」


「そうですね」


 リュートと合流してご飯屋さんを探す。今日は疲れてるので近くの食堂へ行った。宿でも食べられるんだけど、今日は多分オーク料理になるだろうから、この旅の途中に食べてきた私たちは見合わせた。


「さて、ここは何があるんだろうねぇ」


「冒険者向けだからかあまり野菜とかはないですね」


「リュートは野菜好きだもんね」


「好きっていうか食べ慣れてるから無いと変な気分かな?」


 魔物の肉が流通するこの世界では、肉は安価だ。ただ、孤児院には小さいながらも畑もあり、野菜もよく食べていたとこのこと。売らないの? って聞いたら孤児院から売るのは外聞が良くないんだって。寄付で成り立っているからあまり直接的に収入が得られるのはよくないらしい。まあ、野菜を売って肉ばかり食べてたら、子どもたちも変に体だけ大きくなって大変だろうけどね。


「リュートはどうする?」


「僕はオークステーキとサラダかな? これで大銅貨一枚だし。アスカは?」


「私はサラダセットだね。でも、またオークなんて大丈夫?」


「冒険者になってからよく食べてるけど、飽きないんだ」


「そっか。私は美味しいけどちょっと今は飽きちゃったかな?」


「アスカは相変わらず贅沢だね。あたしは肉セットだね」


 それぞれ別々の料理を注文してくるのを待つ。


「何だ? 女連れでいい身分だな」


 その時、おじさんが二人私たちに絡んできた。こういうのってもっと序盤のイベントだよね。私、アルバに二年いたけどこんな人に会わなかったんだけどなぁ。


「なんだいあんたたち。冒険者が店で絡むなんて面倒なことになるよ」


「ああっ! せっかく誘ってやってんのによぅ」


「そうだ。俺たちはこの町で名を馳せてる”ツインズ”だぞ」


「何だい。性格も腕も悪いから他にメンバーがいないのか。ご愁傷さまだね」


「「わっはっはっ」」


 何だとやり取りを聞いていた客たちが一斉に笑い出す。ジャネットさん煽っちゃって大丈夫かな?


「な、なんだと! このアマ!!」


「おい! ”ツインズ”の馬鹿ども。そいつが誰か知らんのか?」


「よそ者なんぞ知るか!」


「町周辺しか行かない田舎もんはこれだから……。リザードキラーのジャネットだぞ? お前で相手になるのか?」


「リ、リザードキラー……。じゃあこいつらがハイロックリザードを」


「そうだぞ。ジャネットは元々王都周辺でも護衛としてちょっとは名の売れた冒険者だっただろ。全く……」


「きょ、今日はこれ位で勘弁してやる」


 そういうと二人の男は去っていった。


「さっきの人たち何だったんでしょう?」


「さあね。ま、気にしないことだね」


「でも、ジャネットさんって知名度ありますね。まだBランクなのに」


「面倒なこともあるけど、ああいう手合いに自己紹介だけで追い払えるのはいいかもね」


 ちなみにリザードキラーというのはハイロックリザードというAランクの魔物を倒した称号みたいなものだ。別に何かに称号は記録されるものでもないけど、Aランクの魔物でも討伐が難しい魔物を倒すと他の冒険者から尊敬を込めてそう呼ばれる。サンドリザードを従え、アルバを襲おうとしたハイロックリザードは町にいた冒険者総出で討伐した。何人か犠牲も出たけど、その時に中心的に戦ったジャネットさんは元々の腕もあり、その呼び名が広まっているみたいだ。


「しかし、俺たちは兎も角どうしてジャネットがこんな町に? ここじゃろくな依頼がないぞ。まさかあんたが荷物運びなんて依頼を受けたりしないだろ?」


「ああ。ちょっと連れがこの町に用があるってんでね。しかし、ああいう手合いはこの町じゃ普通なのかい?」


「あ~、観光地になって最近だな。見物がてらたまに来る冒険者も増えて、ああいう半端なやつでも威張れる相手ができて調子に乗ってるのさ。あいつらは一度もBランクに上がったことのない癖にな」


 そういうおじさんをよく見ると右腕の動きがちょっとおかしい。どうやら怪我をしてこの町に来たみたいだ。言葉から察するに前はBランクかAランクの冒険者だったのだろう。


「どうしたお嬢ちゃん。じっと見つめてきて」


「す、すみません」


「あんたが変なこと言うから実力を見てたんだよ。うちのリーダーに難癖付けないでやってくれよ」


「本当にパーティーに入ったんだな。俺たちの誘いも断ったのによ」


「そういや、よくCランクになってそこまで経ってないあたしに声かけたね」


「冒険者は旬が大事だからな。伸びそうなやつは声をかけて押さえておかないと、自分の身が危ない。まあ、俺が言っても世話ないがな」


「怪我だけで済んだのかい?」


「運が良くてな。捨て身でやってみるもんさ」


「お仲間は?」


「まだ向こうで頑張ってるよ。無茶しないといいがな」


「引っ張ってこなかったのかい?」


「旬を過ぎてもすがりたい年頃らしくてな。俺は諦めもついたが」


 そんな話をしながらの食事となった。ちなみに料理の味はまあこんなものって感じだ。冒険者向けなので量はそこそこだったけど、味付けは大味だ。しお! ソース! って感じだった。



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― 新着の感想 ―
やっぱりアスカが受付業務をしなかったのはストーカー対策で宿夫婦が気を回してくれていたんだね。 「宿屋の受付をしている可愛い女の子が厄介な男客に絡まれる展開」とか、異世界もので定番だものね…
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