飛空騎士と依頼
アスカが外でマグナと戯れている頃、ギルドで報告を行っていたジャネットたちは…。
「あら、フロートの皆さんじゃないですか!首尾はどうでした?」
「まぁ、思ったよりというかちょっと来なよ」
「ええっ!?私まだ仕事が…」
「どうせこっちにかかりっきりになるから心配しなさんな」
そういうと、受付をギルドの外にちょっとだけ出す。
「見たかい?」
「あ、あれってまさか…ワイバーン?」
「というわけさ。きちんと依頼通りに無力化はしたんだけどねぇ。面倒なことになっちまってね。世話役を呼んで部屋で話そうじゃないか」
「直ちに!!」
受付は回れ右して直ぐに上へと消えていった。まあ、これぐらいは驚いてくれないとね。
「お、お部屋を用意出来ました…ハァハァ」
「ありがとさん。んじゃ、みんなで行くとするかね」
「そうですね」
ぞろぞろと部屋に入っていく。
「んで、俺はまだ事情を聞いてないのだが仕事はどうなったんだ?」
「もちろん解決したよ。予想だにしない形でね」
「予想しなかった?問題でも起きたのか?見慣れないやつもいるみたいだが…」
「まあ、聞いてくれよ。こいつがさぁ、やってくれたんだよ」
私はこの世話役の男にかいつまんで説明する。
「ふむ、するとお前…ハーディがワイバーン欲しさにこいつらの邪魔をしたと?」
「じゃ、邪魔だなんて」
「そうか。ならちょっとギルドカードを出せ」
「は、はい」
ギルドカードを受け取った世話役は受付に渡して読み取り機に通す。
「ほら見ろ。やっぱり邪魔してるんじゃねぇか。お前のステータスじゃ、ここの誰よりも下だぞ」
「う、嘘でしょう!」
「別にステータスを見てないが、俺も昔は冒険者だったからな。お前より強いかどうかはわかる。大体な、剣術LV4程度でワイバーンに挑むこと自体馬鹿だぞ。もっと言うとワイバーンには剣術が5だろうが6だろうが持っていても意味がない。風魔法でもなけりゃ当てられないんだからな」
「そ、それはそうですが」
「お前に頼るんだったらジャネットを頼るし、他の奴は多分魔法も使えるだろうからワイバーンを討伐するのも可能だろう。そう思って俺も依頼を出したんだからな。挙句の果てに15のガキに希少な従魔のワイバーンを譲ってもらうなんて恥はないのか?」
「ですが、ワイバーンの件は彼女も納得して…」
「納得とかじゃねぇよ!実力でやれといってるんだ。大体、何で従魔にしようと無謀なことを思い付いたんだ?」
「昔から飛空騎士に憧れていたんです。それで、飛空騎士を目指したんですが、試験に落ちてしまって…。でも、飛行系の魔物を従魔にすれば成れると聞いたので」
「飛空騎士は普通、ペガサスとかなんだがな。他のは野生でも幼体と契約したりとお前みたいに成体のワイバーンと契約してるなんざ、隊長クラスでも少ないぞ!」
「じゃ、じゃあ、飛空騎士に成れますか?」
「成れたとしてどうするんだ?ワイバーンは強いがお前は全然だろ?まさか、隊長がペガサスに乗った隊にお前が加わるのか?」
「おかしいですかね?」
「異常だろ。それぐらい、ワイバーンを従魔にしてる奴は少ないんだよ」
「ペガサスは飛空騎士ならメジャーなの?」
気になったのかステアが質問する。
「ああ、奴らは好みはうるさいが気性は穏やかだから、実力はそこまで要らないんだ。反対にグリフォンやワイバーンは本人の実力に左右されやすい。今所属している多くの騎士のワイバーンも卵から育てたりして、野生から従魔にしてる奴はほぼ居ないだろう。大変だぞ、実力以上に見られるってのは」
「野生だと何かあるのかい?」
「特殊な能力があるとかいう訳じゃない。ただ、生き抜くための経験があるから、状況に応じた動きもとりやすい。だから、評価が高いのさ」
それをこんな半端者が扱うなんてな。なおも文句をいう世話役だが、こっちの件も話をしないとな。
「ところで依頼の扱いは?」
「もちろん成功だ。ついでにこいつが飛空騎士になるってんなら、紹介料もつけてやる」
「紹介料?」
「知っての通り、バルディック帝国は軍国主義の国だ。優秀な兵士の斡旋には報奨があるのさ。ギルドからも引き抜きというか紹介制度があるんだ。まぁ、腕だけじゃなくて最低限の社会性も必要だがな」
「ちなみにいくらだ?」
「こいつの実力だと金貨1枚が精々だが、ワイバーンがいるからな。おそらく、金貨10枚にはなるだろう」
「そんなに変わるもんなのかい?」
「飛空騎士は地形を問わず急行できる。この国の要の騎士団だからな。それぐらいは当然だ」
「それは直ぐに受け取れるのか?」
「いや、後日になるだろう」
「そうすると目立ちますね…。ジャネット、町を立つ準備は?」
「あたしの方はいつでも」
「なら、目をつけられる前に町を出てください。報奨についてはこちらから送るようにします」
「いいのかい?」
「変に目立って今後、動きづらくなればムルムル様もがっかりなさいます。出発先に関しても、私たちの方でごまかします」
「世話んなるね」
「いいえ。アスカ様のためですから。きっと、町の住人はアスカ様が主人だと思っていることでしょうし」
「それは言えてるね。ハーディ、しっかりとした騎士になってくれよ。あたしたちへの依頼金を稼いでもらわないといけないからね」
「分かっている」
「話しはここまでだな。取りあえずハーディだったか?お前は今日は外で寝てくれ。明日には町でも生活できるように兵士たちにもギルドから説明するからな」
「外って外か?」
「まさか、従魔だけ町の外に追いやる気じゃないだろうな?登録しないぞ」
「わ、分かりました」
「ディンさん、カード更新できました!」
「おう、さて従魔はと…ん?珍しいな」
「どうかしたのかい?」
「いや、普通魔物使いが従魔を得る時は強い絆で結ばれるんだ。だから、こういう事は滅多に起きないんだがな…」
「見せてください!」
ハーディがカードを引ったくるように受け取るとそこには、従魔:マグナ(仮契約)の文字が書かれていた。
「か、仮契約…」
「お前と従魔の間の結び付きが弱いせいだな。まあ、アスカから頼まれてるから言うことは聞くんだろうが、精々解除されないように頑張れよ」
「良くあることなのか?」
「まさか、受付が長い私でも数年に一度ですよ。魔物使い100人の従魔に1匹位の割合ですね」
魔物使いは一人で大体4匹と契約する。つまりこの表示は400分の1と言うわけか。
「ま、ある意味レアだ。頑張れよ。それはそうと従魔登録をするからこいつを一旦張り付けてきてくれ」
「これは?」
「大型の魔物用の登録道具だ。しばらく体に付けると色が変わるから持ってこい。それでステータスなんかも見れるからな」
「分かりました」
ハーディが外に出て戻ってきた。
「終わりました。案外早いんですね」
「暴れなくて何よりだ。魔物には不快らしいからな」
「あ~、アスカがなだめてくれたんで」
「情けない飼い主だな全く。まあいい、登録するぞ」
世話役が紙を機械に通すとカードが出てきた。
「ほらよ。くれぐれも見せびらかしたりするなよ?お前の方が弱いから狙われるぞ」
「は、はい」
名前:マグナ
年齢:27歳
種族:ワイバーン
従魔:Bランク
HP:1290
MP:140/140
力:363
体力:285
早さ:341
器用さ:137
魔力:150
運:52
スキル:風魔法LV1、飛行、威嚇、咆哮
「強い…」
「弱かったら誰も憧れねぇよ。本当に運のいい奴だ。それと大型の魔物の力を信用するなよ。あいつらは巨体だから力比べできるのは中型までだぞ」
「しませんよそんなの。大体、こんなにパラメータ高いのにBランクなんですか?」
「まあ、基本的に群れないからな。多くて2,3体ぐらいか?もし群れてきたらAランクだったな。後はブレスを吐かないしな」
「でも、戦闘中に動けなくなりましたが?」
「それは咆哮だな。動きが鈍く感じるのは威嚇だ。ブレスではないからな」
「俺ってよく挑もうと思ったな…」
「全くだ。まあ、今回ばかりは運がよかったってわけだ。んじゃ、報酬とかを払うからリーダーを…ってフロートのリーダーはどうした?」
「ワイバーンの見張りだよ。誰かいないと周りがうるさいからね」
「ああ、それは助かるな。ギルドのせいで騒ぎは御免だ」
こうして俺ことハーディはワイバーンライダーとしての一歩を踏み出したのだった。




