従魔と飛空騎士
「なんてこと…また従魔を増やしてしまった…」
しかも、今回は大型の魔物だ。強いとか弱い以前に旅をする上で大変な相手だ。宿はまあ…入らないだろうし、屋上ならいけたりするのかな?でも、そもそも街に入ること自体が難しいかも。ワイバーンってBランクの魔物だし、街の人の警戒もかなりのものだと思うし。
「う~ん、どうしようか?」
「どうしようかというのはこっちのセリフだ。どうしてくれるんだ!」
「そういってもこの子の意志でもあるので何とも…」
「全く、女々しいことこの上ないね。あんたの実力じゃこいつを従わせるだけの力がなかったって話だろ。諦めなよ」
「では俺はどうやって飛空騎士に…」
「知らないよ。まあ、腕がついてきてないんだからその方が良かったかもね。このままじゃあんた、ワイバーンと自分のどっちが主人か分かんないだろ?」
「それは確かにそうだが…」
「そもそも我々の後をつけておこぼれに預かろうという精神がダメだな。アスカ様もこのようなものに気をもむ必要はありません」
「私も別に気にはしてないんだけど、流石にこの子を連れ歩くのは…」
「それは俺も気になるな。なんか考えあるのかアスカ?」
「今必死に考えてます。何かあったような…」
従魔にしてもどうにかできる方法かぁ~。こんな時にディースさんがいたらなぁ~。
「そうだ!ディースさんだ!!」
「アスカ、どうしたんだい?ディースが懐かしくなったのかい?」
ディースさんは魔物の研究者でアルバにいる私の従魔を引き取ってくれた元魔法使いだ。同じことをすればきっと…。
「テクノさん、ティタを連れてきてもらってもいいですか?」
「うん?ああ、分かったぜ」
この場で一番足の速いテクノさんにお願いしてティタを連れてきてもらう。きっとこの解決策ならいけるはずだ。
「さて、ティタが来るまで治療しておこうかな。ちょっとこっちに来てね~」
私はマグナを近くに来させると残った傷を魔法で癒してあげる。
「う~ん、近くにいるし今回はウォームヒールだね。そうだ!お肉食べる?」
私は以前に解体していたオークの肉を取り出してマグナの前に出してみた。
ハグゥ
当たり前だけどマグナは一口でぺろりと食べてしまった。大型の魔物はこっちも大変そうだ。ティタが来るまで私たちはのんびりと過ごした。というのも本来、オーガが出るかどうかのこの場所にBランクのワイバーンがいるのだ。近寄ってくる魔物などいはしない。
「アスカ、きた」
「ティタ、来てくれてありがとう。テクノさんもお疲れ様です」
「いや、大したことないぜ」
「そうです。もっとこき使ってください」
「おい」
「それじゃあ、ティタちょっと頼むね。こっちの子はマグナ。一応私の従魔なんだけど、一緒に旅をするのは難しいから説得して欲しいの。実はあっちのハーディって人がね…」
私はティタにも事情を説明する。町暮らしの経験があるティタもことの重要性は分かってくれたみたいで協力してくれることになった。
「マグナ、アスカたびする。ながくいっしょにはムリ」
キィ
「マグナはなんて?」
「アスカとであえたから、いっしょにいきたい」
「う~ん。そこは私も一緒なんだけど流石に難しいからなぁ。何とかハーディさんと一緒にいてくれるように頼めないかな?」
ティタに頑張って説得してもらう。そして、最後は何とか納得してくれた。
「ごめんね。私の旅にはついてこれなくて。でも、きっとハーディさんもいい人だから。その代わり、旅が落ち着いたらきっと会いに行くからね!」
ギャオ
旅に同行は難しいから、ハーディさんについててあげて欲しいと頼んだのだ。そして、旅が終わったらまた会いに来るということで何とかマグナも納得してくれた。
「それじゃあ、マグナ。ハーディさんと契約してみて」
キィ
マグナの体が再び光り、ハーディさんと契約がされる。
「お、俺が本当にワイバーンを…」
「あんたがじゃないだろ。アスカには盛大に感謝しなよ。それにマグナにもね。アスカと一緒にいたいのを折れてくれて未熟なあんたの元にいてくれるんだから。あんた見たところ剣士ったって剣術4ぐらいだろ?そんなんでワイバーンなんて高望みなんだからね」
「ああ、こいつに…マグナに振り回されないように頑張るよ!」
「マグナもハーディさんの言うことちゃんと聞くんだよ?一杯ご飯貰えるからね」
「い、一杯かどうかは…」
「高位の魔物が力を貸してくれるんだからそれぐらいは甲斐性だね。後、報酬忘れんなよ」
「分かってる。全力で鍛えることにする。剣も槍もな」
「ん?あんた槍も使えるのか?」
「多少は。騎乗していては剣では相手に届かないからな」
「とりあえず、契約も終わりましたし、依頼も達成したのでギルドに戻りましょう」
「だな。アスカはどうする?」
キィ
「ほんと?この子が乗せてくれるそうなので、乗って帰ります」
「では、我らはそのまま徒歩で帰りますのでアスカ様もお気をつけて」
「はい!じゃあ、ハーディさんも…」
キィ!
私がマグナの背に乗ってハーディさんもと思っていると、マグナは飛び上がってしまう。
「ちょ、ちょっと、まだハーディさんが…」
「えっ!?うおっ!」
飛び上がったマグナはなんとハーディさんを足で掴んで飛び始めた。
キィ
「ティタ、マグナはなんて?」
「こんなみじゅくものを、アスカといっしょにのせたくない」
「あらら、マグナったら。うれしいけど、ほどほどにするんだよ。長い付き合いになるんだから」
キィ
「アスカがまたくるまでだって」
「ほんとかなぁ?もしかしたら、私より気に入るかもよ」
キィ
そんなことないとマグナは言うけど、長く付き合ってきたらきっと気に入ると思うな。ハーディさん自体は悪い人じゃないみたいだしね。ワイバーンのために後をつけてきたのはどうかと思うけど。
「ワ、ワイバーンだぁ!」
「キャーーー!」
街に着くとちょっとした騒ぎになった。まあ、ワイバーンが急に降りてきたらびっくりするよね。後で聞いたらハーディさんの言っていた飛空騎士の集まりである飛空騎士団は、こうならないよう出撃に際して緊急時以外はルートを公表するのだという。突然やって来た飛竜に街に滞在していた帝国の兵士たちがどっと押し寄せてきた。
「ワイバーンをこれ以上街に入れるな!」
「陣形を組め!」
「ちょ、ちょっと待ってください!この子はむやみに人を襲いません」
私がマグナから降りると兵士たちはびくっとしたものの飛空騎士と思ったのか、兵士が下がり隊長と思しき人が前に出てきた。
「あなたは帝国所属の飛空騎士ですか?」
「いえ、ギルドの依頼でワイバーンを追い払う依頼を受けていたのですが、この通り懐いてしまって…」
「じゅ、従魔登録は?」
「今からしようと思って連れてきたんです。あっ!でも、私の従魔じゃなくてこの人の従魔ですよ」
「こちらの方ですか?どう見ても踏まれているようにしか見えないのですが…」
町に着いたというのにマグナはパッと足からハーディさんを離すと、着地した後でまた足を体にのせていた。嫌ってるわけではなさそうだけど、まだまだ主人としては見れないということだろうか?
「ギルドで登録すればわかりますから、道を空けてもらっていいですか?」
私がそういうとマグナも続けてギャオと小さく鳴く。小さくといっても体が大きいのでそこそこ響くのだけど。というか、私の反応に合わせて動くからみんな私の従魔だと勘違いしちゃってるんだけど…。
「じゃあ、登録してくる!」
元気いっぱいにギルドに入っていくハーディさん。当然、ワイバーンの巨体はギルドに入らないので私は報告待ちだ。というかマグナの隣に誰かいないと街の人たちが怯えてしまってどうしようもなかったのだ。
キィ
「ん?もうちょっとご飯食べる?ちょっと待っててね」
私がご飯をあげようとすると子どもたちがやって来た。
「すげ~、飛竜じゃん!姉ちゃんの?」
「私のじゃないよ」
「え~。でも、お姉ちゃんの方見てるよ?」
「今ご主人様はギルドにいるからね」
「な~な~、俺らもエサやれたりすんのか?」
「ご飯?ちょっと待ってね。ティタ、マグナに聞いてくれる?」
「分かった。……」
マグナにお伺いを立ててみる。
「アスカがいうなら。だって」
「ほんとに?マグナありがとう」
「ほら、やっぱり姉ちゃんの従魔じゃん!」
「違うんだけどなぁ」
でも、大声で否定すると町の人たちがパニックになりそうだし、大人しくしておくか。
「それより、ご飯あげよ」
「そうだな~」
「くれぐれも投げたりしないようにね。口にそっと置いて離れたらいいからね」
「わかったぜ!」
「アスカ本当に大丈夫なの?」
追いついてきたジャネットさんたちは一緒に報告に行っているので、残ったリュートがたずねる。
「大丈夫だよ。マグナは賢いし」
「ほ、ほら、食えよ」
流石に子どもたちもワイバーン相手に近づくのは怖いみたいで、恐る恐るオークの肉を口元にやる。
クァ~
「わっ、わわっ!?」
食事のためにマグナが口を開けたのにも、いちいちビックリして、微笑ましいな。
「そのまま口に乗せてあげたらいいよ」
「こ、こうか?」
少年が恐る恐る口に乗せて離れると、パクッと一息にマグナはそれを飲み込む。
「すご~い。おっきなお口だ~ 」
隣にいた少女がぽかーんとしながらも、感想を口にする。
「どう?危なくないでしょ」
「うん!」
「これからこの子はギルドから出てくる騎士さんと一緒に国を守ってくれるんだよ。見かけたらよろしくね!」
「そうなんだ!分かった」
最初、勢いの良かった男の子よりも、どうやら女の子の方がマグナを気に入った様子だ。マグナも嫌ではないみたいで、頭近くを撫でさせている。
「アディン!メイ!院を抜け出したと思ったらこんなところに…こっ、これは飛空騎士様。家の者が失礼しました!」
「いえ、私は付き添いですからお気になさらず。この子も喜んでますから」
女性に見られないようにティタを介して、マグナに反応するように声をかける。
キィ
「立派なワイバーンですね。どちらから?」
「あっ!えっと、北の方からです…」
ちょっと言葉につまる。嘘じゃないよね?そんな感じで孤児院の子たちと話をしていると、みんなが出てきた。




