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結界

「ん~、今日も疲れた~」


「アスカ様、お疲れ様です。こちらお持ちしました」


「ありがとうございます。ずず~、おいし~」


ステアさんが持ってきてくれたジュースを飲んで一服タイム。今日も元気に細工は順調だ。あれからアジサイのブローチやバラは3重水晶のイヤリング2種に、指輪も作った。今日はちょっと変わったものを作っている最中だ。


「この小さな水晶のような置物は何でしょうか?」


「これでふか?これは、ずず~。消音結界の魔道具です」


「消音結界?あれは非常に複雑だと聞きましたが?」


「今使われているのはそうですね。でも、それを簡単にしたのがこれです。効果はそんなに変わらないと思いますよ。できたらちょっと試してみてくださいね」


「分かりました。ですが、どうやって新しい術式を?」


「新しい術式というか考え方ですね。今までのは考え方が難しいんです。声を吸収する結界とそれを霧散させる結界を張って、順番に起動するんですよね?」


「恐らくそうですね。多重に結界を作っているようです」


「私のは結界一つですからもっと楽になるはずですよ。MPの消費とか」


「楽しみにしております」


「は~い」


私はステアさんに返事を返し、細工に戻る。こういう魔道具は通信機みたいなものと一緒で飾りっ気がなくてもいいから楽だ。まあ、実際に納品することがあればあれこれ言われるだろうけどね。


「よっと、後はこの台座に…もうちょっと飾りっ気出してもいいかな?ちょっとだけならいいよね」


カリカリ


少しだけ台座の方には細工をしてその上には魔石に水晶のカバーをかぶせたものをセットする。


「これで良しと!さあ、出番ですよ~」


「分かりました。では、失礼します」


「お願いします」


そして、ステアさんが魔道具を試す。


「どうしました?何か不具合でも?」


「これが発動しているかの確認はどうやるのですか?」


「あっ!?ちょっと出ますね」


私は結界から出てできを確かめる。


「………」


おおっ!予想通り音声が遮断できてる。この感じなら今の魔道具の半額以下で作れそうだ。


「今度は代わりにやりますね」


ステアさんと交代して結界のできを確認してもらう。


「すごいです!以前に使ったものより使い易く、効果にも差が感じられないです。お一つ…いえ、お二つ頂いても?」


「か、構いませんけど」


「ではお一つ金貨20枚で」


「ええっ!?これ金貨5枚前後で作れますよ?」


「いいえ、現在金貨15枚のものよりも使い易く、消費も少ない。そんなものをたかだか材料費ごときで安くする必要はありません。その技術こそが大事なのです」


その後も少し話をしたが結局、押しきられてしまった。私としてはありがたいけどいいのかなぁ。


「とりあえず、午前中に2つ作ったけど、後2つぐらい作っておこう」


「自分用ですか?」


「私は自分でできるからどうしようかなぁ?リュートにあげたら喜ぶかな?」


「戸惑うと思いますよ。彼は価値を知っているでしょうし」


「でも、内緒のお話しするのに便利だから渡したいんです」


リュートだって男の子だし、きっと内緒の話もあるよね。そう思いながらその日は結界の製作に時間を費やした。


「アスカ、そろそろご飯―」


「あっ、もうそんな時間?そうだ、リュート。これ」


「これは?」


「音声を遮断する結界の魔道具だよ。リュートには持ち運びもしやすいように、台座と一体型だよ」


「えっと、これってすごく高いやつだよね?」


「金貨5枚ぐらいだよ?」


「原価じゃなくて店売りの話」


「あ~、うんまあ」


「嬉しいけどいつももらってばっかりだしいいよ」


「だ、ダメだよ。リュートにだって内緒にしたい話とかあるでしょ?これがあれば色々とできるよ?」


「それはそうだけど…」


「だからほら、もらって!それじゃあ、私ご飯食べてくる!」


ダダッと食堂に向かって走る。


「ふぅ、これで無事にリュートに渡せたしご飯だ~」


「無事というか押し付けただけでは?」


「もらってくれたのには変わりないし、いいんです。さぁ、ステアさんも食べましょ」


「はぁ」


残った1つは魔道具店の人にでも売ればいいかな。そう思いながら私は食事に目を向けたのだった。明くる日…。


「アスカ~。ほら、起きなよ」


「んむぅ~、何ですか。まだ、薄暗いのに…」


「今日は依頼の日だって言ってただろ。忘れたのかい?」


「はっ!?そうでした!」


「全く、早く着替えなよ」


「は~い」


ささっとベッド脇のマジックバッグから服を取り出して着替える。


「よいしょ。後は杖と弓だけ確認すれば終わりだ」


私は武器に異常がないか確認して準備を終え、食堂に向かう。


「アスカ起きたんだね。食事はそこに置いてあるよ。できたら魔法で暖めてね」


「了解~」


みんなを待たせないように食事を取ってギルドに向かう。今日はステアさんだけでなく、テクノさんも一緒だ。正式に5人パーティーなんてずいぶん久しぶりだなぁ。船上では共闘って感じだったし、こっちに来てもバラけてたしね。私たちはまだ、眠ってるアルナやキシャルをティタに任せて宿を出た。


「さて、依頼はと…」


私たちが依頼を探そうとすると、受付から視線を感じた。どうもジャネットさんに用事みたいだ。


「何か用かい?」


「用と言いますかお願いがありまして…」


「お願い?町に来て日もないあたしたちにかい?」


「逆にそうだからお願いしたい部分もありまして」


「…分かったよ。アスカ、聞くだけ聞いてみるかい?」


「はい」


私たち5人は奥の部屋に通された。そうだ!念のために結界張っとこう。試用は大事だしね。人知れず結界を発動させると、部屋に受付のお姉さんと男の人がやって来た。


「フロートと、あと一緒に行動してる旅仲間だな?」


「そうだよ。あんたは?」


「俺はディン。このギルドの世話役みたいなもんだ。ギルマスは忙しいからこうやって受付と一緒に依頼を説明したりしている」


「へぇ~、それで話ってのは?」


「実は昨日の夕方にな、Dランクの冒険者が町の北側から帰る途中にひとつの大きな影を見たんだ」


「大きい影だとジャイアントボアかい?」


「わざわざその程度で俺も出ばらねぇよ。その影は空を飛んでたんだとよ」


「つまり、ワイバーンですか?」


ステアさんが世話役のディンさんにたずねると、うむとうなづいた。


「運の悪いことに今日は結構な商隊がそこを通るんだ。もちろん、このご時世に護衛も連れてないような奴はいないが、ギルドとしては心配でな」


「ワイバーンはBランクの魔物だ。1体なら護衛が2隊いれば片付くだろ?」


「そうであって欲しいがな。問題は倒せるかどうかじゃない。空から襲撃されて荷物が滅茶苦茶にされないかということだ」


「そういうことですか…」


ジャネットさんやステアさんが納得したように首を縦に振る。


「えっと、話が見えてこないんですけど…」


「アスカ、要人の護衛は対象を守りきったら成功だろ?」


「はぁ」


「じゃあ、商隊の場合は?」


「馬車ごと全部ですかね?」


「そうさ。でも、ワイバーンはでかくて硬い。そんなのが馬車に突っ込んできたらたちまち荷物はぼろぼろだ。ギルドとしてはいくら冒険者が依頼を受けて、そいつらに責任があるとはいえ、依頼の達成率をあまり下げたくはないんだ。でないと護衛の依頼を受けさせる奴がいなくなっちまうからね」


「そういえば護衛の依頼って条件厳しめでしたね」


討伐依頼も倒せない理由によっては厳しくなるけど、護衛は商人ギルドからの依頼で、もっと厳しい。周辺の警戒だけでなく、襲撃時の対応もいろんな制約があるし、襲撃時には近くの商隊も助けるなど特記事項もある。だから、ギルドとしても依頼達成率の高いパーティーや実力が確かなところが行けるように専属契約も認めているのだ。


「そうなの。今回も実力は申し分ない人たちが護衛の依頼を受けているんだけど、こんなイレギュラーな相手で失敗にさせたくないのよ」


「ただでさえ、北側の護衛は足りてないってのに、こんなことで受けられるパーティーを減らしたくないから、誰かに哨戒…できたら討伐も頼みたいんだ」


「でも、発見場所の情報しかないんですよね?」


「ああ。だが、過去にも発見例はあるから間違いないだろう。護衛の出発は大体、9時か10時だ。何とかそれまでに依頼をこなして欲しい」


「急ぎの依頼料とかは弾むんだろうね?」


「それはもちろんだ。受けてくれれば帰るまでには書類を作っておく」


「でも、なんで私たちなんですか?」


「たまたまこいつが、お前たちが今日依頼を受けると聞いていてな。別大陸とはいえ依頼成功率100%のパーティーならと思ったんだよ。報告を受けた時点で、今日の朝に出発できそうなのがいなくてな。下位とはいえ竜種だ。回れ右されたらきついからな」


「あたしたちが断るかもしれないだろ?」


「ジャネット、昨日もお前は依頼受けただろう。リザードキラーなんだってな。全く、ビックリしたぞ」


「ちっ、しょうがないか」


「私も受けた方がいいと思います。商人さんたちも荷物が壊れたら困っちゃいますし…」


「よし!じゃあ、これが地図だ。相手は空を飛んでいるし、急だから追い払う以上で成功だからな。追い払ってくれれば、後日でも討伐は可能だ。あくまでも商隊が問題なくそこを通過できることを優先だ」


「分かりました!」


私たちは竜退治ならぬ、飛龍退治の依頼を受けたのだった。

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