依頼からの帰還
バルディック帝国初の依頼であるオークとオーガの討伐依頼を受けた私たち。2手に別れてどちらもそこそこ倒したのだけど、念には念をということでもう一戦ぐらいすることにした。
「アスカ様、今度は私が一人で探知を行ってもよろしいですか?」
「はい。お願いします」
私やアルナは探知魔法を解除してステアさんに任せる。こういうのは慣れが必要だし、人数が多い時に試さないとね。ステアさんは普段、テクノさんと2人での行動が多いみたいだしいい機会だ。
「ミスト!」
探知魔法を使うステアさん。水魔法だとこのミストだけど、風魔法だと普通にウィンドの魔法を散らすだけだ。こういう時に属性の得手不得手が出て来るのが悲しいところである。
「アルナ、空をお願い」
ピィ
念のため空にアルナを任せて私たちは森を進んでいく。一応分布上はオーガ亜種までだから大丈夫だろう。
「それより久しぶりに採取だ」
この辺りにもムーン草やルーン草が生えている。数は限られているけど、これでも儲けになるので回収しないとね。
「アスカ様!」
「来ました?」
コクリとステアさんがうなずく。はぁ、もうちょっと採ってたかったんだけどな。
「種族は?」
「恐らくオークかと。ですが、隊列が縦に並んでいるようです」
「じゃあ、亜種の混合部隊かもしれませんね」
抜かりないようにしないと。私は改めて呼吸を整えて襲撃を待つ。
グォォ
オークがぞろぞろと近づいてくる。あれ?これって貫通力の高い一撃を放てば終わるんじゃない?
「ステアさん、アクアランサーで全部いけませんか?」
「アクアランサーでですか?やって見ます」
ステアさんがオークと一直線になるように位置を取って魔法を放つ。
「アクアランサー!」
小手からの増幅を受けて放たれた魔法はいともたやすくオークの皮膚を貫き、たちまち数体を地に伏せた。
「本当に出来ましたね」
「すごいです。残りもパパっとやっちゃいましょう!」
急な攻撃、それも先頭から数体を一気に倒されたオークたちを倒すのは容易だった。
「これだけ倒せば大丈夫ですよね。ジャネットさんたちと合流しましょう」
私たちは探知魔法をジャネットさんたちのいる方に放ちながら進んでいく。こうすれば待ち合わせ場所に行くよりも早く合流できるかもしれないからだ。そうして歩いていると前方から反応があった。
「おや、そっちも終わりかい?」
「ジャネットさんの方もですか?」
「もちろんさ。といってもリュートのお陰だけどね。あたしらじゃ、ろくに見つけられないからね」
「そうだな。敵より先に相手に気づくことはできても、俺も探すこと自体は出来ないからな。全く、便利な魔法だ」
「テクノは教えてもらったの?」
「いや、どうにも俺の魔力じゃできそうになくてな」
「私はできるようになったわ。ただ、相手に気づかれること前提になるけどね」
「へぇ~。まあ、任務によっては気付かれても問題ないし、出来ないよりできた方がいいな。今度みせてくれ」
「分かったわ」
「そういえばアスカ。あんたたちの方は解体どうだった?」
「それが、2人とも得意じゃないので血抜きだけです」
「そうかい。ま、別にギルドに任せりゃいいし、何なら泊まってる宿にでも話を先にするかね。新鮮な肉にも価値はあるし」
「私もそう思ってました。それじゃあ、帰りましょう!」
まだちょっと急げば昼前だ。これなら午後からは自由時間を取れると思いうきうきで帰るのだった。
「あら、皆さん。お早いお帰りですね。忘れ物ですか?」
「いえ、違うんです。実は食材についてお話が…」
先に宿に帰ってきた私たちは早速、リュートに交渉を任せる。
「オークですか?1頭まるまるの」
「アーチャーもありますよ。必要なら1頭ごとの買取になりますけど、安いですよ」
「でも、厨房にはおいておけませんし、どうしましょう?」
「なら、数日は僕らもこの宿に泊まるので言ってもらえれば出しますよ。僕とテクノさんのいる部屋に訪ねてきてください。もしくは食事時に連絡してくれてもいいです」
「いいんですか?うちは助かりますけど、ギルドにも出すんでしょう?」
「ここだけの話、結構取れたので余ってるんです。だから先にと思って」
「分かりました。父と相談してからですが、オーク2頭とアーチャーをお願いします」
「じゃあ、その分は確保しておきますから。それと替わりではないのですけど、ちょっと厨房を借りてもいいですか?」
「構いません。ただし、昼や夜の混む時間帯以外ですけど」
「それで十分です。それじゃあ」
話し合いを終えてリュートが帰ってくる。
「さてと、それじゃあ…」
「今からギルドに報告ですね!」
「馬鹿かいアスカは」
ぽか
「いたい、何するんですか!私そんなに変なこと言いました?」
「こんなに早く依頼を終わらせたなんて知れたら、面倒な依頼が来るよ。夕方ぐらいまでは宿で大人しくしてた方がいいよ」
「そうでした。今回のコンセプトは目立たずに過ごすですもんね」
「少なくともこの町にいる間はね。分かったらさっさと部屋に戻るよ」
「は~い」
部屋に戻った私はというと…。
「ステアさん、小手調節するのでみせてください」
「はい」
ステアさんから小手を受け取り、サイズを調節する。一度使ってみて違和感がないように調節だ。こういうのは本人がいるからこそできることだから最優先でやらないとね。
「調節といってもほんの僅かでした。素晴らしい腕です」
「そう言ってもらえると嬉しいです。はい、どうぞ」
私はステアさんに小手を返すと細工を開始する。今日は残った時間でユリのネックレスと桜のネックレスを作るつもりだ。
「ふんふ~ん。ここはこうして、ここの色はこう。魔石は…う~ん、どうしようかな?ブルーバードの魔石ってまだあったっけ?でもなぁ、使用者が限られてるし。折角、ウィンドウルフの魔石を補充したんだからそっちにしようかな。花びらは四方に広げる感じでと…」
どんどん手が動いて細工は進んでいく。もちろん、細工に合わせてステータスは元に戻した。流石にあのままだと材料がもったいないからね。
「後はこの魔石の形にくり抜いてと。ティタ~、スクロール頂戴」
「はい」
「ありがと~。それじゃあ、付与開始!ウィンドバリア」
私はスクロールの上に魔道具になるネックレスを置くと、付与を開始する。小手やテントと違ってネックレスは身に付けているので、思ったように展開できないかもしれないけど、身を守るなら普段からつけていても違和感がないものがいいと思って作って見た。
「ステアさんこれつけてみてください」
「ネックレスですか。かわいいですね」
さっきまで本を読んでいたステアさんにネックレスをつけてもらう。
「発動って言ってもらえますか?」
「発動!こうですか?わっ!?」
ステアさんの言葉に合わせてネックレスからバリアが前方に作られる。
「うん!思った通りいい出来ですね。ちょっと失礼しますね。はぁ!」
私は腕に風をまとってバリアに向かってパンチを放つ。結構魔力を込めたつもりだったけど、バリアは壊れることはなかった。
「う~ん。中級魔法なら200前後の魔力の攻撃にも耐えられそうですね。もちろん、使用者の魔力にもよりますけど」
「そ、そうですか。すごいんですね…」
「これもステアさんの魔力が高いからですよ。低いともっと脆くなっちゃいますから」
「ですが、私は200程度ですよ?」
「それだけあれば十分ですよ」
「しかし、本当によろしいのですか?このようなものを私だけもらってしまっても…」
「いいですよ。ああっ!?でも、そうですよね。ステアさんだけなんて」
きっとお揃いがいいんだよね。そう思った私は次の日も細工を続ける。
「アスカ様、もうすぐお昼ですよ」
「もうそんな時間なんですね。ちょっと待ってくださいね。これで終わりますから」
今日はアイビーをモチーフにした細工を作った。これは男性用にちょっと花の感じを抑えたものだ。彩色もするけど腕の見せ所なのはここからだ。葉の曲がった感じをうまく出してそったところの裏には魔石を配するスペースを作る。こうすることで相手からは飾りに見える魔道具の完成だ。テクノさんも器用に見えて回復魔法は苦手だったので、エリアヒールの魔法を込める。その下にはグリーンスライムの小さい魔石をつけて、こっちはウィンドだ。威力も低いし、同属性だけど逆に手加減して使えるので一応付けておいた。
「今日の細工も素晴らしいですね。後は彩色ですよね?」
「はい。乾燥を2回やるんですけど、魔法のお陰で楽です。細工道具を売ってくれたおじさんは苦労してるみたいです」
「そうですね。乾燥と言えば湿度なども影響しますし、ずっと見ている訳にも行きませんからね」
「そうなんですよ~。よっと、これで終了~。さあ、ご飯食べに行きましょう。今日は何かな~」
港町だけあって魚が食べられるこの宿はとてもいい。アスカは今日も楽しみにしている食事に向かうのだった。




