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番外編 バルディック帝国成立

完全な番外編です。内容はアスカが本を1冊読むだけですのであしからず…。



「ふぅ~、ようやく細工がひと段落着いたかな?」


「お疲れ様です。アスカ様」


「ステアさんもお疲れ様。差し入れとかしてもらってありがとうございます!」


「こちらこそ細工を頂いてしまって…。アスカ様の時間を使わせてしまいました」


「いいえ。最初から作るつもりでしたから。それより今日はどうしましょう?もうすぐ夕食ですし、時間が余りました」


「では、こちらはどうでしょうか?街に出かけた時に見かけたので買ったのですが…」


「本ですか?タイトルは…ガザル帝国滅亡からバルディック帝国の成立まで。歴史書ですね」


「はい。適当なものではなくこの国の貴族が書き記したものです。初版は最近ですが」


「帝国ってできて間もないわけでもないのに最近なんですか?」


「それ以前は他国との関係など色々あったのでしょう。読まれますか?」


「はい!」


こうして私は本を読み始めた。



-----



「何々。末期のガザル帝国は不正が横行していた…」


官僚はわいろを受け取り、一部の兵士は暴力で権力を示し、領主たちは思うがままに税を徴収していた。そんな中、帝国から遠い地方の領主が隣国2国からの支援を受け、打倒帝国を掲げ立ち上がった。当初は直ぐにでも反乱は収まると見られていた。なぜなら、3者ともに自らの権益を守るために団結するからだ。そして、兵士はその腕だけが頼り。いまだその実力は大陸随一だった。


「ええい!あの程度の反乱をまだ抑えられんのか!」


「陛下。申し訳ございません。どうにも相手の勢力が勢いよく…」


「言い訳は良い!すぐに鎮圧しろ」


「ははっ!」


「全く、この反乱を鎮圧したら隣国には目にもの見せてやらんとな」


「全くです、陛下。我が国にたてついたことを後悔させてやりましょう!」


「ステレンス公爵、総司令官のそなたは頼もしいな」


「お任せを陛下」


しかし、戦局は徐々に悪化していった。初期の戦線が隣国の2国との国境地域のため、2国の軍隊と反乱軍の連合軍の相手となったからだ。初動のミスは大きく、帝国から独立できるのはないかという機運が高まり、その後反乱軍は一気に勢力が拡大していった。


「まだなのか公爵。すでにあれから4か月経っておるぞ!」


「も、申し訳ございません。しかし、連合側も日々勢力を拡大しており…」


「連合だと!反乱軍風情が!ステレンス、分かっておろうな?これ以上時間がかかるのなら…」


「ま、間違いなくあと数か月の内には…」


一方の連合側では…。連合側も勢力が増したとはいえ、元々の兵士の練度は下。ある程度攻め入ったところで戦線は硬直し始めていた。


「むぅ、このままでは兵士の練度が低い我が方が不利だ。帝国にいずれ盛り返されるだろう。何かいい手はないか?」


「向こうの大貴族を味方に付けましょう。軍を2つに分け、主力と足止めの部隊にします。そして、偽の情報で主力で一気に帝都を落とすのです!」


「出来るのか?相手は帝国についている方が利益があるだろう」


「総司令官のステレンス公爵ならいけると思います。皇帝は気の短い男です。これ以上の戦線の膠着は自分の身が危うくなると判っているでしょう」


「しかし、その情報を逆手に取られたら?」


「今までの指揮を考えるに彼は失敗続きです。皇帝に処分されるより自分が王になれるなら味方に付くでしょう」


「王に?しかし、我々の目的と彼の目的は真逆では?」


「我々としても彼に領地を与えなくてはいけないのは不本意ですが、権力をもたらすなら彼は乗ってきますよ」


「乗ってこなかったら?」


「その時は総力戦です。正直厳しいですが、他にも揺さぶりをかけて何とかするしかありません」


結局、ステレンス公爵は連合軍のこの策謀に乗り、北と南からの2正面作戦に見せかけた電撃戦で帝都を落とすことができた。特に皇帝直属の親衛隊を帝都から引き離し、足止め部隊に向かわせたことは大きかった。


「なるほど~。高い位にいたのに裏切っちゃったんだ。皇帝は処刑され、こうしてガザル帝国の歴史に幕が下りたか…あれっ?まだ半分以上ページが残ってる。このステレンスって人がバルディック帝国を興したんじゃないのかな?」


気になってすぐにページを読み進める。


ガザル帝国が滅亡して10年。旧帝国領の統治は混迷を極めていた。まずはステレンス公爵の扱いだ。戦果としてはほぼないものの、最後の作戦において多大な貢献をした彼は旧帝国領の4分の1が与えられ、自らを新たな皇帝とした。与えた領土が大きいという声もあったが、元々公爵として拝領していた土地もあり、これ以下には出来なかった。問題だったのはこれ以外の土地だ。


「我が国は数十年前に帝国に無理やり併合されたもの。今回の戦いにも積極的に貢献した。もちろん、再度の独立は認めてもらう」


「だが、土地をそっくりとは…」


「なぜだ!帝国が滅んだ今、元の形に戻るだけだ」


「それなら我が先祖も独立した国家だった。こちらも独立する」


「まて、今その土地は我が領土だ。一度帝国領になったのだからあそこは我が領地だ」


打倒帝国の旗印の元に集まった者たちだったが帝国が倒れた今、論功行賞は難航した。


「貴公ら。それより前に我らが国との約束を忘れてもらっては困る。帝国北部は我が国と隣国との2国で分けるという部分は先に処理してもらおう。その後は自由にやってくれればいい。もちろん、戦死者も出たのだ。帝国の国庫からその分の補填も先にな」


こうしてさらに旧帝国領の4分の1が2か国によって分割され、残った4分の2の土地を巡り、さらなる争いが始まった。残った領土をめぐり小国が乱立する結果を招いたのだ。


「あいつらめ。自国の最大版図を領土とするとは傲慢な!我らが伯爵家の力を見せてくれる」


「今だ!争っている間に我らが王国を再び建国するのだ!」


幾つもの国が興り、消えていった。数年で5か国ほどに国はまとまった。最初に国を興した数十年前に併合された国と、旧伯爵家と侯爵家の連合国家などだ。連合国家は元々、親同士の仲もよく政略結婚とはいえ血縁同士なので結びつきも強かった。他の連合国は互いに出し抜こうとして、足を引っ張り合いつぶれていった国も多い。そんな中、新しい勢力が興った。


「将軍!いよいよですね」


「はぁ、なぜこんなことに…」


「我ら帝国軍の力を見せてやりましょう!」


新しい勢力は旧帝国軍人を中心とした組織だった。彼らが立ち上がった理由は人々を助けるためだ。皮肉にもこの新興国同士の争いにより、村々は荒れた。作物を生産する人口は戦に取られ、重税を課されていたからだ。これにより、旧帝国時代よりも税が上がる結果となり、負けた側である帝国軍人たちが立ち上がったのだ。完全な敗戦なら彼らの指揮系統は将官の死亡と解散によりばらばらになるはずだったが、奇しくも電撃作戦の結果、旧帝国側の戦力も多くが残っていたのである。反乱を抑えるためにばらばらになっていたが、戦乱に乗じて再び結集したのだ。


「誰か志あるものに力を貸してはどうだろう?」


「何を言われます将軍!彼らは己のことばかり。それはここ数年の各領地の暮らしを見て間違いありません。今こそ我らが立つのです!」


「……分かった。だが、過剰な攻撃は無用だ。我らは彼らとは違う、そうなのだろう?」


「もちろんです!では、決行の合図を」


「うむ。総員!作戦開始!!」


「「おおーっ!」」


こうして旧帝国の将軍を旗印にした旧帝国派閥が動き出した。彼らはまず帝国北東のファーガンド地方を占領した。この地方は電撃作戦によって連合軍が通った領地で、戦後の度重なる重税に人心が離れていた土地だからだ。ここを足掛かりとして次は南の港町ファスナを占領した。ファスナは戦時中、海を隔てたフェゼル王国から連合軍へ密かに武器をもたらしたからだ。


長年フェゼル王国はガザル帝国からの攻撃に悩まされてきた。今後の戦争行為をしないという約束をもって、連合国に協力したのだ。旧帝国軍ということで今回の作戦に手を出されないように先に確保した。


「大変です、陛下!」


「どうしたのだ?」


「旧帝国軍人が集まり、ファーガンドを占領。そのまま、ファスナまで南下しました!」


「何だと!すぐに軍を差し向けろ!」


「はっ!」


しかし、再結集した旧帝国軍は強かった。戦争で生き残った元親衛隊などが加わったからだ。瞬く間に新帝国の喉元にかみついた。


「陛下!もう、すぐそこまで旧帝国軍が!」


「ええい!親衛隊や近衛は!」


「そ、それが、見当たりません…」


いかに暴政を敷いていようと、前皇帝は代々続く帝国の長。親衛隊や近衛などは忠誠心も実力もあるものを用意していた。一方、ステレンス公爵は子飼いの部下のみ。信頼できるものも少なく、それぞれに役目を与えていては自らの周りに十分な人員を確保できなかった。結果、ここに来て自らの安全を守ってくれるものもいなくなってしまった。


「なぜこんなことに…」


こうして新帝国は建国数年でその幕を閉じ、旧帝国軍人を中心として新たに帝国が建国された。もちろん、この流れは周辺国も察知していたが、元々帝国貴族であり新帝国を築いたステレンス公爵に対してよい感情を持っていなかったので、支援に関してまとまらなかったのがより滅亡を早めたのだった。のちに新帝国でも暴政を敷いたステレンスは連合からも帝国からも逆臣と記載されるようになったという。



その後、帝国の領土拡大により小国は再度併合され、対抗した国も統合を繰り返した。そうして残ったのがデグラス王国とバルディック帝国なのである。


「ふ~ん。出来上がったデグラス王国は連合国家が前身で、自治性が強く冒険者などの自由業が盛ん、バルディック帝国は民のために立ち上がった経緯があるため現在も一定の期間ごとに周辺の警戒に軍を動員か。宿のお姉さんが言ってた見廻りってこのことだったんだな。にしても、まさかガザル帝国時代よりその後の方が苦しい生活になるなんて意外だなぁ~」


「アスカ様。読書もよろしいですがそろそろ夕食の時間です」


「は~い。さて、今日は何かな?リュートが頑張ってくれてるから、楽しみだな~」


パタンと本を閉じて私は食堂に向かう。窓の外には夜の帳が下りようとしていた。






たまには変わり種のお話にしてみました。本編とは本当に一切関係ありません。




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