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本職?内職?

それにしても、本当に魔道具って便利だ。金属だってこうやって簡単に彫れちゃうんだから。そうやって細工を続けていると声がかけられる。


「そろそろ休憩にしませんか?買ってきた甘味もまだですし」


「まだ始めたばかりですが?」


「もう16時前ですよ」


「ええっ!?そんなに経ちましたか…」


「ちょっと待っていてください。用意いたします」


直ぐにステアさんがお茶の用意をしてくれる。


「さあ、どうぞ」


「買ってきたのはこちらです」


そう言ってステアさんが広げてくれたのはこげ茶色のお菓子だった。


「もしかしてショコラ?」


「ご存じでしたか。さすがアスカ様です、こちらがこの店でしか食べられないお菓子だそうです。私も1個しか買えませんでした」


「そんな貴重なお菓子を私に…いいんですか?」


「はい。どうしても気になったらまた今度並びますので」


「そ、それじゃあ遠慮なく。パクッ」


私はショコラを口に含む。んむんむ…ちょっと甘みは少ないけど、確かにショコラだ。味的に作り方も同じだと思う。


「でも、一体誰がこのレシピで…」


「レシピが気になるんですか?」


「あ、いえ…。そ、それより食べちゃいましょう」


誤魔化すように私はショコラを食べて、細工に戻ろうとする。


「あっ、そう言えばお店はどこが出したものか分かりました?」


「それがこことは違う大陸の国の店でした。この大陸から南西にある大陸のリディアス王国という国の貴族が出店したようです」


「どうしてそんな離れた国の貴族が?」


「何でも、材料に適した土地を探しているとか。それでこれだけおいしいものになりますよという宣伝も兼ねて毎日少量を作るようです」


「じゃあ、買えたのは運がよかったんですか?」


「そうですね。ただ、材料が高いのでおいそれとは買えない価格です」


「大銅貨4枚とか?」


「残念ながら、材料が輸入なので銀貨1枚です。多くは商人や、貴族の使いですね。ここで買って、帝都まで運ぶのだとか」


うわぁ~そこまでするんだ。お使いの人はたいへんだなぁ。


「さて、それじゃあ細工に戻りますね」


何とか夕飯までにはステアさんの魔道具を作ってあげたいしね。


ほりほり ほりほり


「ん~、この角度かな?いや、もう少しだけエッジを効かせて…でも、そうしたら強度がな~」


「アスカ、何悩んでるんだい?」


「この飾り部分なんですけど、もうちょっと彫った方がかっこいいんですけど、強度が心配で…ってジャネットさん!?いつの間に」


「何時の間も何ももうすぐ夕飯だよ。本人に聞いてみればいいだろ?」


「そうでした。いつもは相手がいないので考え付きませんでした」


私はステアさんに直接聞く。まず攻撃が当たらないように動くので見映えのいい方でと言われた。


「いいのかい?あんた目立っていい訳でもないんだろう?」


「大丈夫です。Cランクならおかしくないですし、任務に従事してランクが上がっても使い続けられますので」


大抵の冒険者はランクが上がるほど、装備もよくなり合わせて華美なものも付けるようになる。実用的なものだけを使う人もいるけど、1つぐらいは持ってるものなんだ。だから、きれいな細工の小手ぐらいだと違和感ないんだって!


「あとはここを止めてと。できた!ステアさん、付けてみて下さい!」


「えっと…これは?」


「お約束の貫通魔法が使える魔道具です。レイピアが槍になりやすいように、魔石は内側です。今日はサイズあわせまでなので、完成じゃないですけど」


「こんなに早くできるものなのですか?」


「思いのほか直ぐにデザインが浮かびましたから!さっ、どうぞ」


早速、ステアさんに付けてもらった。サイズはやや大きかったが、元々両側からひもで固定する予定だったので問題ない。


「この辺りがやや隙間がありますが違和感はありません。ありがとうございます」


「流石は諜報員です。細かいところにもこだわっているんですね」


「危険なのは、身分がばれて襲われた時ですから。少しでも違和感のないものを皆付けます」


「じゃあ、これを張り付けますね。厚みはこれぐらいかな?」


私はマジックバッグからデザートリザードの革を出す。こういう細かいところに張って調整できるのはこの革の良いところだ。防具としては心もとないけどね。


「凄い!違和感が消えました」


「じゃあ、これで作りますね。明日には全部終わらせますから!」


「おや、アスカは細工をするのかい?」


「はいっ!しばらくできてませんでしたし、ドーマン商会の方へも卸さないと」


「分かったよ。でも、明日はギルドに行くからね」


「分かってます!アルナたちも連れていきますから」


「それと、食事が終わったら今日の結果の報告会をするからちゃんとここ片付けるんだよ」


「ふふっ、それなら直ぐにできますよ。後で楽しみにしててくださいね!」


「…ああ」


なんだか不安そうなジャネットさんとともに私たちは食事をしに行った。


「うう~、まああんなもんなんですかね~」


「あんなもんだって。それでも焼き魚はそれなりに上手かっただろ?」


「そこはまあ塩焼きでしたし。でも、それ以外のものが…」


「まあまあ、今日は我慢してよ。明日は僕がちょっと話してくるから」


「頑張ってね、リュート!」


「任せてよ!」


「その扱いであんたがいいならいいけどね、あたしは。それより、今日の報告だね。そっちは?」


「とりあえず今日は商人ギルドと魔道具店に行ってきました。集まった情報としては、最近帝国内の街道では魔物の襲撃が相次いで起こっていて、治安が悪化しているみたいです。特に北側のファーガンドからデグラス王国にかけてがひどいらしく、周辺に薬草の群生地があってポーションが高くなっているそうです」


「ああ、北が稼ぎが良くてうまいって話は聞いたけど、ポーションが高くなってる理由がそれとはね。てっきり、薬師が足りないのかと思ってたよ。冒険者ギルドじゃ、そんな情報はなかったね」



「後は魔道具ですけど、冒険者向けより商隊を守れるようなものが好まれているみたいで、私の作ったバリア系の魔道具とか護身用に盾形の魔道具が売れてるみたいです。他の防御系の魔道具も売り切れてました。どうやら、他の街道もそうなるんじゃないかって恐怖感から買われているみたいです」


「まあ、使い続けられる限り安全が保障されるなら無駄にはならないからね。これ幸いと予算をつけてるんだろ。他には?」


「私からはありません。ステアさんは?」


「私からは旅をされるアスカ様たち向けです。デグラス王国と帝国の関係はかなり改善したとのこと。後、この国にも南西の大陸と取引があり、拡大傾向です。珍しい食材や調味料なども入ってきているようなので、興味があればどうかと」


そういいながらステアさんが大陸の地図をくれた。


「この大陸と一番取引があるのが、リディアス王国のようです。近年、一気に拡大したとか。他にも普通より効き目の良いポーションなど、多くの知識が得られるかと」


「ふ~ん。あたしらはまずはデグラス王国へ向かうけど、その次に行っても良さそうだね」


「はいっ!今日もすっごく美味しいお菓子を出してたのがその国のお店だったんですよ」


「そりゃあ、アスカは行かないわけにはいかないね」


「ジャネットさんの方はどうだったんですか?」


「あたしらの方かい?まあ、大したことはなかったね。まずは、アスカたちと一緒の北側に魔物が増えて儲けが良いって話と、護衛はパーティーにBランクが一人でもいると商隊で取り合いになってるってところだね。普通逆なんだけどね」


「どうしてですか?」


「Cランクまでは結構いけちまうけど、Bランクは足踏みするやつも多くて一気に数が減るからね。依頼料も指定しちまうと高くなるから普通はCランクまでで止めるんだよ。もちろん、危険地域以外でだけどね」


「そんなに危険なんですね。薬草だけでも採ってあげたいなぁ」


「なら、旅は海路じゃなくて北のファーガンド経由でいいね」


「テクノ、あなたは何かないの?」


「それがなぁ。どこもかしこも治安悪化のニュースでいっぱいでさ。これは時間がかかるな」


「あなたそれでも密偵なの?もう少し情報を取って来なさい!」


「そう言われても、本当にみんなそればっかりでさ。冒険者系は賭場に行くぐらいしかなさそうだぜ。ジャネットも付き合うか?」


「やめとくよ。あんたはフェゼルに帰れば足は付かないだろうが、あたしはアスカたちと一緒に旅を続けるんでね。面倒ごとになるのは御免だよ」


「大勝ちしなけりゃ大丈夫さ。明日以降ちょっと探すとするか」


「はぁ、まあこんなところか。明日は一回ギルドに行って所属地方の変更と簡単な依頼を受けるとするか。この辺の魔物は向こうと一緒でオークとオーガぐらいらしいからね」


「それじゃあ、私はギルドに行ったらすぐに宿に…」


「戻れるわけないだろ。アスカが行かないと怪しまれるんだよ」


「あっ!?」


「テクノさんどうかしました?」


「怪しいで思い出した。ギルドでスカウトが流行ってるらしい。特に魔法使いは盛んなんだそうだ。戦争が無くなってしばらくして落ち着いてたんだが、今回の騒ぎで軍も積極的になったみたいだぜ」


「私も、魔道具店で聞きましたけどステータスとかは見てないから大丈夫じゃないですか?」


「どうやら気を付けた方がいいようだ。実際に話を受けたやつらは周りから見ても魔力が多いということだ。毎回な。魔法が使える奴をスカウトしたからってずっと続くのは変だ。かと言って後をつけるのならとんでもない人員が必要になる」


「あんた、ギルドから情報が洩れてるってのかい?」


「組織だってという訳じゃなさそうだけどな。賭場でそれとなく情報を流してみるさ」


「あ、危なくないんですか?」


「大丈夫。ちょっと、話半分って切り出せば酒も入ってるあいつらなら気にしないさ。ああいうところが専門だしね」


「じゃあ、引き続き情報収集は任せるわね。テクノ」


「おいおい、ステアは?」


「私は明日一日かけて街を回るわ。それ以降はアスカ様についています」


「ええっ!?そんなの悪いです!」


「いえ。細工中は特に周りを見ておられないようですし、気になさらず」


結局その後も私はステアさんを説得することはかなわず、彼女の希望通りになった。しかも、ジャネットさんも賛成してしまったのだ。ううっ、ごめんなさい。





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― 新着の感想 ―
[一言] >怪しいで思い出した。ギルドでスカウトが流行ってるらしい。特に魔法使いは盛んなんだそうだ。  魔道具屋からもスカウトの話が言われてましたが、またこれが出てきましたねぇ。  となると、ソレに…
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