到着、新大陸
「あれからもう5日、そろそろ大陸でも見えてこないですかね~」
「どれだけ目が良いんだよそいつは。焦らなくてもいいさ」
この間にもポツポツと海魔は出現したものの、どれも単独で危なげなく船員が倒していた。1度だけ甲板に出ていた時に襲ってきたのは私たちで倒したけどね。
「次、帰る時には大量に本が要りそうだね」
「リュートの言う通りだよ。今は初めてだから新鮮だけどこれから何度も乗ることになるもんね」
「では、帝国の本屋によってはいかがですか?」
「帝国の本屋さんですか?」
「はい。商人の使いをする都合上、冒険者としておかしくない店をいくつか調べておりまして、候補の本屋であれば品揃えも多いかと」
「冒険者なら目立つんじゃ…」
「いいえ。気に入られている商人などへは普通ですよ。その本が本当に珍しければ商人も使い道はありますし。背表紙から内容を判断できるものも限られているので、割りと人気があるんです」
「へぇ~。なら、案内してもらってもいいですか?向こうに着いたら数日は居るんですよね?」
「ええ。では、そうします」
「普通に話してるけどあんたは2等船室だろ?」
「アスカ様が給仕の方に食事をここに持ってくるように言われてから、こちらで過ごすと思われていますので問題ありません」
「シェルレーネ教のやつは変わりもんばっかだね」
「変わっているのはラフィネぐらいですよ。彼女が神殿騎士をやっているのが不思議です」
「確かにお姉ちゃんは変わってるかも」
「そう言えばお前、手紙渡されてなかったか?」
「ん?そう言えば預かっていたわね。無理矢理だったから記憶から消してたわ」
1度部屋に戻ったステアさんがお姉ちゃんからの手紙を渡してくれた。
「全く、巫女様が遠慮しているのに自分は送るって聞かないんだから、あの人は…」
「あはは、お姉ちゃんらしいです。手紙は後で読みますね。あれから皆さん変わりありませんでしたか?」
「はい。ラフィネ以外は普通です。彼女だけは今までより熱心に訓練してます。妹に最短で会うためにいつか風魔法だけで海を渡ると言ってました」
「あいつまたおかしなこといってるね。アスカはあんなのが姉でいいのかい?」
「う~ん。実際にされると危険なのでやめて欲しいですね。海に落ちたらお姉ちゃんでも危険ですから」
「そっちなんですか。まあ、彼女ならやりそうなのが怖いんですが…」
そんなのんびりとした話をして日々を過ごし、いよいよその時が訪れた。
「ねえ、リュート見てよ!あそこが次に私たちが行く大陸だよ!」
「分かったってアスカ。もうこれで5度目だよ」
「だってだって、今までほとんどアルバからも出なかったのに、この数か月でもう外国だよ!はぁ~、まだ着かないかなぁ~」
「大陸ったって、ポツンと目に入るぐらいじゃないか。まだまだだよ」
「アスカ様も年相応な部分があって安心しました。ですが、甲板の端につかまっては危険ですよ」
「…はい」
残念だけど、甲板の内側に入る。すかさず船員さんが用意してくれたテーブルにかけてお茶を飲む。
「すみません。航海中にずっとお世話してもらって」
「いやぁ、お貴族様の相手何てめったに出来るもんじゃないし、ダンカンも助けてもらいましたしね。恩人に対しての感謝ですぜ」
「そうそう。それに、客分で代わりに見張りまでさせちまって心苦しいんです」
「でも、お料理とかも色々出してもらいましたし」
「それこそ俺らまで頂いちまって。おかげで用意されてた不味い飯をほとんど食わなくてよかったんで」
「仕留めた海魔は普段引き上げないんですか?」
「引き上げても血で甲板の清掃も大変ですし、何よりあれだけの巨体を引き上げられる風使いがおらんのですよ」
「ちょっとずつに切り分けたりは?」
「出来なくはないですが、その後の引き上げも考えれば相当なMPが必要となるんです。その後に襲撃がある可能性を考えるととても…」
「そっか、私たちは旅人で航海に責任もないですもんね。すみません」
「いや、ほんとに俺らも助かったからな。俺たちはこれから港について数日後にはとんぼ返りだが、楽しんでくれよ」
「はいっ!船員さんたちは帰りも気を付けてくださいね」
「ほんとにお嬢が乗船する時に船員でよかったですぜ」
「そんなこと言ってくれてうれしいです!そうだ!これ、実験中に出来たもののあまりなんですけど…」
「これは何だい?」
「ちょっと傷の入った魔石です。多分一回しか使えないんで実験がてら作って見たんですよ」
「いいのかい?傷が入ってても魔石って高いんだろ?」
「私が仕留めた魔物ですからタダですよ。筒に近い形をしてますからそれを魔物に向けてショットといって魔力を込めるか、魔力を込めた後でレリーズといってください」
「分かった。属性はなんだい?」
「風属性です。でも、込めた魔力量によって威力が変わると思うのでなるべく魔力のある人がいいと思います」
「変わった魔道具だ。じゃあ、風魔力のあるやつに持たせておくよ」
「バンバンは使えませんけど遠慮なく使ってくださいね!」
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のちに海魔3体に遭った時に使った若き船員は語る。あんな魔道具は見たことがないと。
「海魔3体、これは危険だと思いためらうことなく魔道具を使いました。すると、海魔の体どころか海の一部をくりぬいたんです。風の魔法でこんなものは見たことがない。1度使っても壊れなかったのですぐに再充填して使いました。2度目も威力は衰えず、壊れはしたものの海魔を貫通し絶命させました。もしこれが魔道具店で売られているのなら金貨何枚したことでしょう。これを譲ってくださった方には感謝しかありません」
その船員はその後にアスカのことを調べ、コルタの舞姫の信仰にたどり着き、生涯アラシェル教を信仰したという。
「あら、あなたまたその像に祈っているの?海の男ならシェルレーネ様でしょう?」
「いいや。俺や仲間が生きてるのはこの人のお陰なんだ。俺はこの像を一生拝むからな!」
「まあ、無事に帰ってきてくれるならどっちでもいいけど、なんで2種類あるの?」
「こっちのは神様で、こっちのがコルタの舞姫様だ。俺の命を直接救ってくれたのはこっちの舞姫様だからな!」
「お金もかからないし、浮気もしない趣味でいいけど、本当に変わってるわよあなた」
「いいんだ。それが俺の生き方なんだ」
こうして今日も人知れず、アスカは信仰を得ていきました。
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「後ちょっと、後ちょっとだよ~」
「あ~、分かったからもうちょっと黙っていてくれよ。そんなにずっと見てても着かないんだから」
「え~!でも、初めての大陸移動ですよ?感動しませんか?」
「感動って言ってもね。港に着くだけなら前にも経験済みだし、隣にアスカみたいなお子様がいたらねぇ~」
「お、お子様じゃないです!絶対、ジャネットさんも心の中ではうきうきしてるはずですよ」
「んなことあるわけないだろ」
「でも、ジャネットさん。じれったいとかちょっと急いでると左足がてしてし床叩きますよね?」
「は!?んな訳…」
「ジャネットさん、実際やってますよ今」
「嘘だろ…。リュートならともかくアスカにそんな癖があるのを見破られるなんて」
「ちょっ!ジャネットさん失礼ですよ~」
「流石はアスカ様です。普段からぼんやりしているように見せながら、周りを見ておられたのですね!」
「あ、はい」
ステアさんが褒めてくれたけど、これって褒めてくれてるんだよね?そして、いよいよその時が訪れた。
「いち、にの、さんっ!」
ぽすっ
「不肖アスカ。新大陸にキターーー!」
「アスカ様ってたまにおかしくなりますね」
「たまに…まあ、たまにかね」
ピィ
「しつれい…でもないですね」
んにゃ~
従魔たちからも白い目で見られながら、はしゃいで船を降りた私とは対照的に普通に降りて来るジャネットさんたち。
「む~、リュートまでそっち側なんて。私はそんな子に育てた覚えはありません!」
「アスカに育てられた覚えも…なくはないけど、流石にこれぐらいではしゃがないから」
「それじゃあ…船員さんたち、ありがとうございました~!」
「こっちこそな」
「お嬢も頑張れよ」
船員さんたちも街に行くけど、まだまだ仕事が終わっていないのでここでお別れだ。私たちはまずは船着場から国境検問所に行く。船で国境を越えた人が行くところだ。まあ、入国料を払うぐらいで終わりだけどね。貴族とかなら訪問目的を聞かれたりするけど、冒険者はスルーだ。人数も多いからね。
「ん、もう船が着いたのか?お前は冒険者か?」
「はい、そうです」
「後ろのはどこまで仲間だ?」
「この3人です。肩にいる従魔たちもです」
「分かった。誰かのギルドカードを出せ。それと従魔は暴れないようにちゃんと言い聞かせておけよ」
「はい。リュートお願い」
「分かったよ」
リュートのギルドカードを読み取る係員。すぐにスキャンが終わったみたいでカードが返された。
「ん、問題ないな。まずはこの国のギルドに行けよ。初めて国を変えるようだから言うが、これは毎回やっておけ。活動地域が変わってるからな。強制じゃないが、お前ら宛の手紙なんかが届かなくなるからな。国によってはメリットがある場合もある」
「ありがとうございます」
「ん、んんっ。まあ、仕事だからな。それじゃあ、次だ」
「では」
私たちは受付も終了して無事にバルディック帝国の港町ファスナに着いた。
とうとう外国編ですよ。一体どうなってしまうのでしょう。




