番外編 船上の従魔
会話の内容は従魔たちの言葉です。仲良くなり口調も砕けています。
「あ~、退屈~」
「アルナ、仕方ないでしょう。あなたでは船から離れると戻って来れないのよ」
「ティタさん、それは分かってるけど退屈なんだもん。あ~あ、エミールがいたらな~。何か面白いこと考え付くのにな~」
「エミールにゃ?」
「私の弟だよ。といっても双子だから大差ないけど。それよりキシャルはなんで語尾ににゃをつけてるの?私たちには意味ないよ?」
「こういうのは日々の努力にゃ。とっさに出てくるようにしておけば、もっとかわいがられるにゃ」
「は~、私には分かんないな~」
「当たり前にゃ。町暮らしでアスカの保護を受けてるだけでも幸運にゃよ。エサももらえるし、家もあるし、外敵にも襲われないにゃ」
「そう言うキシャルはどうだったの?」
「夏は冬眠…夏眠にゃ?暑くて動けないから、山の中に穴を掘ってほとんど過ごすにゃ。それで冬になったらガンガン狩るにゃ」
「ガンガンって相手も冬装備じゃないの?」
「そうにゃ。でも、傷を付けたらそこから冷えてくにゃ。後は逃がさないようにすればいいにゃ。人間も魔物もこれでイチコロにゃ」
「キシャルは魔力を食べるのではないの?」
「ティタ様、そうにゃ。でも、魔石でもいいし、死んだばかりならそこから魔力を取れるにゃ。最悪食べればわずかだけど魔力が手に入るにゃ。でも、一番効率がいいのは人間の子供にゃ」
「人の子供が?どうしてなの?」
「人の子供は魔力があるし、親とはぐれた子供は助ければ私たちに懐くにゃ。魔法の使い方を教えれば、私たちは食事できるし、狩った獲物は子供に与えれば生きられるにゃ。永久機関にゃ!」
「あなたたちそんなことしてたのね…」
「でも、人間の大人は私たちを狩りに来るにゃ!子供は好きだけど大人は嫌いにゃ!」
「うう~ん。子を捨てる親が悪いのか、それ前提で子供を半ば拐うあなたたちが悪いのか微妙ね」
「本当はアスカも山に連れていきたかったにゃ。でも、ジャネットが強くて諦めたにゃ。あの魔力は極上にゃ~」
「あなたね…。エサをもらうだけでなくちゃんと働きなさいよ。神殿に居た時もごろごろしてただけでしょう?」
「あ、あれは、巫女見習いを懐柔してたんですにゃ!私のかわいさでアスカの宗教に改宗させる魂胆だったんですにゃ」
「それなら、アルナの方が向いてるわよ。ねぇ?」
「ん~、私?」
「あなたはヴィルン鳥とバーナン鳥のハーフでしょう?神殿でも人気者だったわよね」
「あ~、あれはしばらくいいかな?みんなして寄ってくるし、抜けた羽根とか拾われるしね」
「羽根なんてどうするの?」
「幸運のお守りだって。ほら、アスカも細工で作ってるでしょ?」
「アスカのはアラシェル様の加護があるから運が上がるけど、あなたの羽根じゃ何もないわよね?」
「そんなこと私に言われても…」
「そうよね、ごめんなさい。それにしてもキシャルはもう少し戦いに出るべきよ。この前も後ろで見てたでしょう?」
「無茶言わないで下さいにゃ。私は近接中心なので海に落ちちゃいます…にゃ」
「今、一瞬素が出たわね。でも、身軽なんだから出来なくはないでしょう?最近氷の魔法も少しだけ使えるようになったみたいだし」
「あれ疲れるんですにゃあ~。是非!海上はアルナとティタ様にお任せしますにゃ」
「なら、陸に上がったら任せるわね」
「そんな!?殺生ですにゃ~」
「うちにはただ飯食らいは不要なの。いいのよ?アスカに急だけど番を見つけたから出ていったって言っても」
「そ、それだけはご勘弁を~。これ以下の生活はもう出来ないにゃ」
「はぁ、アスカは時に罪深いわよね」
「そう?どこにでもいる女の子だと思うけど…」
「アルナはある意味、従魔のアスカね。あなた、そんな常識しらずじゃこの先大変よ?お仲間とも会って話は聞いているんでしょ?」
「う~ん。バーナン鳥の子たちはそういうんだけど、ヴィルン鳥の子たちは見るだけエサをくれるし、祭ってくれたりするって言ってた」
「これはダメね。いつか一緒に教育しないとだわ」
「ティタ様、ファイトですにゃ!」
「お前も手伝いなさい」
「小鳥の相手は大変にゃ」
「それにしてもエミールは元気でやってるのかな?」
「大丈夫よ。アルバにはレダやミネルを始め、多くの従魔が居るのよ」
「そうだよね~。はぁ、本当にどうしてるんだろ?」
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その頃アルバでは…。
ピィピィピィピィ
「ああ~、はいはい。ちょっと待っててね。エミールお兄ちゃんとちょっと遊んでなさい」
ピィ!
新しく生まれた妹や弟たちが元気に動き回っていた。
「あっ!?サンダーバードさんたち。ちょっとだけこの子たちの相手をお願いできませんか?」
「いいですとも。ついでにリンネも呼びましょう!」
「リンネさん?あの子たち怯えないかしら?」
「心配いりません。アルナちゃんもすぐに慣れてましたわ」
「…あの子は怖いもの知らずですから」
「はっはっはっ!しかし、ああいう子が我らのようなものと違って遠くに根を張るのでしょうな!」
「根を張ってくれればいいんですけどねぇ」
「まあ、アスカさんがいれば大丈夫ですよ。彼女は素晴らしい魔物使いですから」
「アスカがですか…あの子はちょっと心配です。誰にでもついて行きそうで。ジャネットさんがいなければ旅など絶対止めていました」
「まあまあ、かわいい子には旅をさせろとも言いますし」
「おっといけない!食事の用意だったわ。失礼」
「はい。こちらは任せてください」
「リンネ、ミネルさんちの子たちと遊んでやってくれ」
「何で俺が…」
「そういえばソニアさんは留守かな?彼女は面倒見もいいから頼もうと思っていたのだが…」
「ソニアは今日はフィーナと一緒に外に出てるぜ」
「何と!心配ではないですかな?」
「この辺の魔物程度じゃ相手にならないからな。サンドリザードだってソニアには勝てないぜ。んで、またガキどもの相手か?」
「そう言わないでやってくれ。ミネルさんも忙しいのだ」
「魔力の高い変異種っぽいからこの辺のヴィルン鳥をまとめてるんだってな。ご苦労なことだ。ところで旦那」
「なにか?」
「この町の小鳥どもがウルフ種を恐れないんだが、どういうことだ?」
「頭に止まられても何もしないあなたのせいでは?」
「そうか…そうなのか?う~ん、まあいいか。とりあえず、ガキどものところに行くか」
そういうとリンネさんは小屋を後にする。いやはや彼も小屋を自分から出るのが食事の時と子どもたちと遊ぶ時と気づいているのだろうか?まあ、それはささいなことだ。子どもたちが懐いていることが重要なのだからな。
おまけ 新婚?状態のジュール
「ジュールさん、今日はデートに行きましょうよ~」
「放せっ!俺はまだ書類仕事が…」
「そんなのホルンさんがやってくれますから」
「そんなこと言っても街に出たら人の目がだな…」
「大丈夫ですって、レディトに行けばいいんです。私の魔法とジュールさんの体力ならあっという間ですよ!」
「それはそうだが…」
「ジュール!…さん。私に仕事を押し付けてサボる気ですか?しかもデートだなんて!」
「い、いや待ってくれホルン。今のはちょっと書類仕事から逃げられるかなって思っただけなんだ。一瞬、一瞬だぞ!」
「え~、私とは遊びなんですねジュールさん…。ひどい!昨日はあんなに…」
「昨日…そういえば昨日はやけに早く帰られてましたね」
「そ、それは!違う、待ってくれホルン!」
「何ですか!私は受付の仕事が忙しいんです」
そういうホルンの前には誰もいないが、冒険者たちも口を挟むものはいない。アマンダがアルバに来てからというものこの光景は見慣れているのだ。
「あ~、もう!ほらこれ」
「この小さい箱は?」
「いいから開けてみろ!」
「は、はい。指輪…ですか?」
「ああ。あ~、なんだ。受付嬢はよく冒険者に絡まれるだろ?その…なんていうか男除けだ。い、いわゆる婚約指輪ってやつだな」
「婚約…指輪」
「俺はこんなだから昨日はアマンダに付き合ってもらって選んでたんだよ。悪いな、不安にさせちまって」
「い、いえ、うれしいですジュール。アマンダが選んだというのが不服ですけど」
「ホルンさんひど~い。私は候補を絞っただけなのに~」
「えっ!?」
「最後はやっぱり自分でと思ってな。どうだ、気に入ったか?」
「はい…」
うっとりとそれを眺めるホルン。そしてひと月後…。
「グランドマスターから手紙?珍しいな」
世話になったとはいえ普段から交流はない。一体何かとホルンも交えて開けてみる。
「前略、アルバギルドマスタージュールを減俸3か月に処す、だと!?なんでだ!」
「へ~、何の書類ですか~」
「あっ、アマンダ。それはギルドの書類だから冒険者は見ちゃだめよ」
「いいじゃないですか~。私も将来は関係者なんですから。えっと…ギルド内にて権力を使い受付嬢と婚約をしたと苦情が独身冒険者より山のように来ているため、だって~」
「なっ!?俺は権力なんて使ってないぞ!」
「でも後半は正直、仕方ないですよ~。あの日はみんなドバドバ、エール飲んでましたから」
「そうだったの。知らなかったわ」
「そりゃ~お2人はそのままお家に帰ってましたからね~。大変でしたよ~、みんな飲みまくりで~。マスターなんて持ち出しで色んな店からかき集めてましたから」
「それは悪かったな。あいつにはまた今度何かやらないとな。アマンダもすまんな」
「じゃあ、今度ご褒美待ってますね~」
そういうと私は華麗に去っていったのでした。まる~。




