使い道は…
スラッシャー(カジキみたいな海魔)の魔石の使い道を考える私。
「アスカ、なに考えてるの?」
「う~ん。このスラッシャーの魔石の使い道なんだけど、リュートは何か思いつかない?」
「僕かぁ。主装備は魔槍だし、サブのナイフといってもね…」
そう言いつつリュートはサブのナイフを見せる。ああ、ちょっと大き目のスラッシャーの魔石ははまんないねこれ。サブ武器がかさばるなんて本末転倒だし、メインかぁ。そうなると…。
「あたしの剣かい?確かにあたしの剣なら使えるけど、斬撃だけだろ?最初っからメインにって訳にはいかないねぇ。剣は思ってるより魔石の取り外しが面倒でね。いい剣ほど簡単には付け替えられないんだよ。そうなると金銭的にはもったいないよ」
そうなのだ。倒したスラッシャーは7体。ただし、倒した中でも全部は回収できていない。回収できた魔石の数は3つなのだ。1体も半分ぐらいはダメになっていて魔石は採れなかった。中サイズの魔石と大サイズの魔石2個で、剣に付ければその価値は金貨20枚分ぐらいになる。それを考えなしに付けるのかということを言いたいんだろう。
「で、でも、場合によっては有用だと思うんです!」
「今回はやけにアスカ強気だね。どうして?」
「えっと、それはそのう…」
「はぁ~。ま、リーダーが言うなら受けてやるかね」
「ジャネットさん!」
「はいはい、分かったから落ち着きなって。んで、効果のほどを確認したいからつけるのはバルディック帝国に着いてからでいいかい?」
「はい!もちろんです!ようやく、ジャネットさんに誕生日プレゼントを渡せますよ~。あっ!」
「やれやれ、そういうことかい。まあ、ありがたくもらっとくよ。ただし!」
「ひぅっ!」
ジャ、ジャネットさんが改まるなんて何だろう?
「リュートの誕生日にはもっといいものを渡してやりなよ。こいつの方が頑張ってんだからね」
こんこんとジャネットさんはリュートの頭を叩きながら話す。
「当たり前ですよ!リュートは大事な仲間ですもん。ジャネットさんはこういうのじゃないと受け取ってくれなさそうだったから、急きょこれにしましたけど、年明けには絶対びっくりさせてあげるつもりです!」
「アスカ嬢ちゃんは何で本人がいるのに堂々と話してるんだ?」
「しっ!本人が気づいてないんだから黙ってなさいテクノ」
「アスカ様~、それにお連れの皆さんも食事が出来ました~。もう警戒は解いていいそうですからお部屋で召し上がってください~」
「は~い。よかった~、変な時間に起きてるからお腹ペコペコだったんだ~」
「今は23時ぐらいだもんね。普段なら絶対寝てるよ、アスカは」
解体に警戒と船員さんたちが交代できる態勢が整うまで代わりに見張りをしてたけど、これでひと段落だ。興奮も収まったし、そう考えるとちょっと寒くなってきたかも。
「う~」
ぶるる
「アスカ?風が強いから寒いの?」
「ちょっとだけね」
「ほら、これ羽織って」
「これは?」
「ウルフの毛皮にサンドリザードの革を張り合わせたもので外側も肌触りがいいんだよ。最近レディトで使われる新しい加工を使ったやつなんだ」
「でも、これ貰っちゃったらリュートが寒くない?」
「僕は平気だから。アスカが風邪ひいちゃったらみんなに怒られちゃうしね」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく借りるね」
船のへり近くから船内に戻る。部屋に戻った後も少し冷えていた感じがしたのでずっとマントを羽織っていた。
「アスカ、部屋に戻って来たってのにまだ羽織ってんのかい?」
「だって、ちょっと寒くないですか?もう、秋も終わりですよ~」
「そんなこと言って、実はそのマントの匂いとかが気になってるのかい?」
「匂い?そういえばいい匂いですよね~。スンスン、何の匂いだろ?」
「アスカやめてよ!は、恥ずかしいから」
「え~、いい匂いだと思うけどなぁ」
「アスカはそういう匂いに興味があるのかい?」
「えっ!?ち、違いますよ。私、匂いフェチじゃありません!」
「ふぇち?また、アスカが変なこと言ってる」
「でも、よかったねぇ、リュート。やな匂いじゃなくて」
「~~~、む、向こうで食べてきます!」
「えっ!?リュートどこ行くの?向こうってどこ?」
「テクノさんたちのところ!」
リュートはそれだけ言うと悪の幹部かという素早さで逃げて行った。
「何だったんでしょうね。こっちと向こうじゃメニューも多分違うと思うんですけど」
「今回のは夜食みたいなもんだから一緒だろ。とはいえちょっとからかいすぎたかねぇ」
「あっ、マントどうしましょう?」
「寝る時には戻ってくるだろうから、そん時に返せばいいよ」
「そうですね。今は食事です」
こうしてしばらく待つと給仕のお姉さんがやって来た。
「あれ?男性の方は?」
「それが、テクノさんたちの部屋に行っちゃいまして…部屋分かります?」
「はい。では、お一人分はそっちに持っていきますね」
「お願いします」
「ところで本当に良かったんですか?このお皿はただ切り身にしただけですよ?」
「いいんですそれで!私の住んでいたところはそうやって食べてたんです。まぁ、新鮮なやつだけですけどね」
「まぁ、それじゃあ船上でしか食べられないですね」
「冷凍保存とかすればいけますけど、そんな設備ありませんよね?」
「貴族の方なら持っているかもしれませんが、船にはまず無理です。沈没しちゃったら大変ですから」
「じゃあ、専門の釣り漁船とかないんですか?」
「海を出て少しの領域までです。それ以上は海魔が出ますから」
「海魔って浅瀬には出ないんですか?」
「ええ。図体が大きいお陰ですよ。さあ、こちらどうぞ」
私たちのテーブルにはまず1品目ということで刺身が置かれる。
「お刺身…へへへ」
「アスカ、また変な顔になってる。ほら、アルナたちも呆れてるよ」
ピィ~
「しょうがないんです。それぐらい美味しいんですから」
「なら、それを味わわせてもらおうじゃないか」
「あっ、まだですよ。醤油をかけるか付けて食べてくださいね」
「あれねぇ~。まあいっか、変わった食べ方には変わったもんってね」
2人で顔を合わせてパクリ。
「ん~、これこれ」
「へぇ~、こいつはいいや。歯ごたえもあって酒が…エールもらえる?」
「かしこまりました。今日は夜間ですのでおかわりはありませんけど、昼以降でしたらまた出しますから。では、続いて塩焼きです。こちらはアスカ様の希望通り、塩での包み焼になっております」
「わぁ~、美味しそう!やっぱり、海といえばこういう料理だよね」
「塩は内陸では高いですからね。保存にもいいんですけど販売の許可書も必要なんですよ~」
「海上は良いんですか?」
「よくないですよ~。でも、降りる前に廃棄するか使い切ればいいだけです。はいどうぞ~」
さらっと、ダメな行為だといわれた後、普通に塩包み焼を出された。まあ、折角の機会だしありがたくいただくけどね。私は包み焼の塩をはがして身を食べる。
「ん、食感もいいし最高!これがしばらく食べられたらな~」
私はちらりとキシャルに目線をやる。
んにゃ!
「アイスクリームと交換?いいよ~。それじゃあ、ちゃんと保管してね。後で連れてくから」
コールドボックスもあるけど容量は少ない。大量に保存するならマジックバッグがある。温度変化についてはほとんどないはずだから何とか凍らせていけばしばらくは持つだろう。
「残りは時間がかかるのでお昼以降です。シェフも船を助けてもらえたと張り切ってますからね!」
「期待してます!」
食事も終えてお姉さんが下がる。
「アスカ、もう寝るだろ?」
「でも、まだマントをリュートに返してませんし、ベッドの上で待ってます」
「そうかい。なら、もうちょっと話でもしてるか」
「そうしましょう」
それから20分後。
「~で、あにょ~」
「ああ、はいはい。もう寝なよ」
「まだでしゅよ~、リュート…」
全く、あたしの予想通りとはいえこの子は…。
コンコン
「ジャネットさんはいりますよ?」
「はいよ。でも、静かにね」
「あれ?アスカ寝ちゃってるんですか?」
「まあ、普段じゃ絶対起きてない時間だしね。見張りの時はともかく、そういう状態でもないんだから。さっきまではあんたが帰ってくるのをまって、マントを返すって息巻いてたけどね」
「アスカ…」
「とりあえずマントをもらって寝かすとするか…。ん?リュート、マントは明日でいいかい」
「別に構いませんけど、どうしました?」
「この子、マントをしっかりつかんでてね。世話の焼ける子だよ」
「分かりました。僕らももう寝ましょう」
「そうだねぇ。海上戦は疲れるしね、おやすみリュート」
「ジャネットさんもおやすみなさい」
あたしはアスカを横に寝かすとマントごと毛布を掛けてやった。
「おやすみ、アスカ」
「おやしゅみなさ~、マントかえす~」




