戦闘とその余波
海魔に夜襲を受けた私たちは甲板に出て何とか対応していた。しかし、相手は海上や海中から攻撃を仕掛けてくるため、いつものようにとはいかないようだ。
「アスカ、そっちの2人は船員のフォローでいい。あたし達も強いってところを見せてやるよ!」
「分かりました。ステアさんもテクノさんもあっちをお願いします」
「了解です。行くぞテクノ!」
「へいよ~」
「アスカ、あたしの剣であいつらを斬ることはできたが、でかいやつはそうそう斬れないようだ。向こうはどうやったんだ?」
「鱗に矢をねじ込んで剥がしました。中は硬くありません。サンドリザードみたいですね」
「分かった。アスカが魔法でけん制して、あたしが鱗をはがすからリュート、とどめは任せたよ」
「ええっ!?僕なんですか?」
「あたしだと接近しか出来ないけど、あんたなら投げてもいけるだろ?適材適所だ」
「分かりました」
即席の作戦でまずは私が注意を引く。ライトの魔法とウィンドブレイズを使ってちょっと派手目だ。そこへ向かってくるスラッシャーにジャネットさんが飛びかかり一瞬で鱗の間に剣を入れる。
「アスカ!」
「了解です、フライ!」
役目を終えたジャネットさんがすぐに甲板に戻り、代わりにリュートが鱗が取れて皮がむき出しになったスラッシャーに向かっていく。ただ、相手は鱗一枚はがれただけなので痛みを感じて暴れることもない。でも、かえってその方が動きの予測がつけやすいのだ。
「せやぁぁぁ!」
リュートの必殺の一撃がスラッシャーに突き刺さる。
「リュート、甲板に!」
「OK」
「よっし、お刺身ゲット!」
ぽかっ
「まだ、戦闘中」
「す、すみません。こっちの残りは1体、同じ戦法でやっちゃいましょう!」
「だね。リュート、今度は投げる方でとどめ刺しな」
「分かりました?」
「何事も経験だよ」
「そういうことですね。行きますっ!」
「揃いも揃ってこの2人大丈夫かね?」
「ジャネットさん?行きますよ」
「ああ、任せときな」
その後、もう1体を倒した私たち。中央の1体は船員さんたちがとどめを刺せたようだ。でも、途中でもう1体来ていたようで合計で7体のスラッシャーとの戦いに私たちは疲れたのだった。
「ふぃ~、大変でしたね~」
私は戦闘の疲れで汗をぬぐうとそうつぶやく。目の前にはテーブルが置いてあって、そこにはジャネットさんにリュート、ステアさんとテクノさんもいる。
「はい。しかし、アスカ様の戦い方には関心致しました。無駄もなく、初見の相手にこの成果とは…」
「だなぁ。ほら、俺らって単独行動とか諜報向きなんでデカブツは苦手なんですよ。それが、海上っていう場所で夜間にもかかわらず、こんなにあっさりだなんて」
「だから言っただろ、アスカの心配するぐらいなら、手がかからないようにしろって」
「本当でしたね。本来護衛するはずの我々が手伝う形になりましたし」
「そ、そんなことないですよ!お2人が注意を引いてくれたり、鱗の隙間から攻撃してくれたおかげで助かりました」
「その隙間もアスカ様が作られたものです。見事な弓の腕前でした。報告では魔法使いだと伺っておりましたので…」
「ああ~。まあ、普段戦う時は魔法が多いですし、弓は重たいのであんまり持ち歩きませんから」
「そういえば矢筒からではなく、直接マジックバッグから矢を取り出されておりましたね。そんなことが可能なのですか?」
「あれは一応、矢筒からですよ。2つ入れてて、必要な方に手を入れてそのまま取り出す感じです。頑張って練習したんですよ。褒めてもらえてうれしいです!」
「ジャネット様…」
「な?大変だろ。これが戦闘訓練じゃなくて、ちょっとやって見たかっただけだって言うんだから」
「これ、持ち帰っても…」
「置いてくもん置いてけよ」
「もちろんです」
何かステアさんとジャネットさんが話をしている。戦いの前はちょっと仲が悪そうだったのに、いつの間に仲良くなったんだろ?
「それでアスカ、あれどうするつもりなの?」
「もちろん食べるよ?新鮮なお刺身だし」
「食べるんすかあれ?」
「はい!おいしい…筈ですよ」
「何でアスカが疑問形なのさ」
「あんな大物とか獲ったことないし」
TVで釣るところは見たことあるけど、船で大きい竿を使っていたはずだ。たとえ、海に行けたとしても私に釣れるような物じゃなかったし。
「でも、ちょっと悪いよね。私たちはこうして椅子に座ってのんびりしてるのに」
「まあ、一応警戒役も兼ねてるけどね。そっちはアルナが張り切ってるから実質何もしてないけど」
こうして優雅な?話をしている間にも私たちの後ろでは船員さんたちが、スラッシャーの解体作業をしている。戦いに参加してもらったせめてものお礼としてやってくれているのだ。ちなみにスラッシャーの解体後の身なんかは買い取ってくれるそうだ。海上で手に入れられる食料として船員には結構メジャーらしい。
「すみませ~ん。全部やってもらっちゃって」
「いやいや、遠慮はいらん。あれだけのスラッシャーがいれば船員はもちろんのこと、船もやばかったからな。あいつらは大体3体ぐらいまでで来ることが多くて、あれだけ多いのは年に2度あるかないかだ。そこで多くの船は沈んでるがな」
「そういえば、3等船室や2等船室の冒険者は出て来なかったですね」
「ん?ああ、3等船室に乗るぐらいの奴が数に数えられる訳もないからな。今回、2等船室の奴は冒険者が少なくてな。商人が多いんだ。それに食堂で食べてる時に強さを見るんだが、行けそうなのがいなかったな。恐らく、最近Cランクになったぐらいの奴らだろう」
「まあ、それで間違いないですね」
「あれ?ステアさんも知ってるんですか?」
「アスカ様。我々はそういうのが得意なんですよ」
そっか、私を探す間にも色々な人を見て来てたんだ。
「姉ちゃんと兄ちゃん。あんたたちにも世話んなったな。あいつらだって銛を入れれば倒せるんだが、動きが早くて中々当たらなくてよ」
「いやぁ、俺たちは観光がてらちょっとお使いを頼まれただけだったんで、びっくりだったぜ。なっ、ステア」
「ああ。だが、船に被害がなかったのは幸いだな。途中の港に寄港して修理となれば時間もかかる」
「そうだな。今回の規模なら被害もでかかっただろうから、アントレスに行かないといけなかっただろう。長くてふた月はそこで過ごしただろうな」
「そんなに!途中来る船に乗り移ることはできないんですか?」
「出来ないこともないが、向こうにも人は乗ってくる訳だ。空きがないと無理なんだ。まあ、嬢ちゃんたちなら大丈夫だろうがな。1等船室が埋まることなんてめったにないからな」
「船長~、あらかた分け終わりました」
「おう!なら、後は鱗なんかの洗浄だ!魔石はどこだ?」
「この袋にまとめてやす!」
「こっちで預かる。半分は持ち場に戻っていいぞ!」
「へい!」
「随分待たせちまったな。これが魔石だ」
「ありがとうございます。でも全部頂いちゃっていいんですか?」
「もちろんだ。俺たちは船が無事な事だけでも儲けてるんだからな」
「でも、この魔石ってどんな効果なんだろ?ステアさん知ってますか?」
「はい。スラッシャーの魔石は切り裂くものとして有名です。先日出遭われたというハンドラーと同様で、斬撃に対して効果が高くなります。ただ、ハンドラーと同じで特定の行動だけですので、剣以外にはあまり有用ではありません」
「だけど、騎士は槍か剣だし、冒険者も大抵剣が主要武器だから値はするぜ。大きいのが金貨12枚ほどで、小さいので金貨6枚だったかな?海魔のは海中に落ちることが多くて高いんだ。貴族なんかが主に買ってくらしいぜ」
「おい!テクノ。その物言いは失礼だろう」
「冒険者同士なんだから丁寧な言葉遣いだと怪しいだろ?」
「そうですよ。私は一般人ですから気にしないでください」
「アスカ様が一般人?」
「口裏だけ合わせとけ。言っても聞かないから」
「…ああ」
「でも、スラッシャーの鱗まで丁寧に取ってましたね」
「ん?嬢ちゃんは海は初めてだったな。スラッシャーの長い剣のような骨はそのまま武器として加工できるし、鱗は硬く、透き通ってる部分もあるから結構高値がつくぞ。レンジャーなんかの軽鎧にも使われてて、そこそこ硬いから人気なんだ」
「へ~、細工に使おうかな?鱗の形を使った服とかも今度縫って見たいな~」
「えっ!?アスカ、それって透き通ってるってこと?」
「リュ、リュート。なんてこと言うの!信じらんない!」
「ご、ごめん。そういうことじゃないよね」
チャキ
「おい貴様。同じパーティーだからといってアスカ様で変な想像してないだろうな」
「し、しし、してません!」
「あまりにひどいとラフィネを呼んでくるからな。あいつは簡単に出て来るだろうし、前衛はいつでも空いてると思え」
「は、はい」
リュートとステアさん、2人とも急に後ろを向いてどうしたのかな?
「アスカ、それよりその魔石どうする?」
「う~ん。弓にちょっとつけられそうな穴があるからそこに一つ付けてみるかな?残りはどうしよう?」
思いがけず降ってわいた魔石にどうしようかと考える私だった。




