夜襲
船が大きく揺れて少し経つと、ドアがノックされた。
「アスカ様、今宜しいですか?」
「はい」
ノックしてきたのはステアさんだった。
「ステアさん、夜にどうしたんですか?」
「はっ!先ほどの揺れをテクノに調べさせたところ、魔物の襲撃だということでした。そのご報告に参りました」
「ありがとうございます。ジャネットさん」
「ああ、腕が鳴るねぇ。といってもあたしはそこまで戦えないけどね」
「何を…待機されるのではないのですか?」
「あたし達は冒険者、戦闘要員だよ。当たり前じゃないか。戦わなくて沈没なんて笑えないね」
「危険です!」
「待ってても危険だろ?まあ見てなって」
「分かりました。私も護衛としてお供します」
そういうとステアさんは直ぐに駆けていき、装備を整えて戻って来た。
「船上の夜戦は大変危険です。必ずお守りいたしますので!」
「ありがとうございます。テクノさんは?」
「先に甲板に向かわせました。夜戦はあいつの方が得意なので…」
「分かりました。みんな行こう!」
「ああ!」
私を先頭にジャネットさんとリュートが続く。従魔たちも部屋にいては沈没した時に危険なのでみんなついて来た。
「テクノ!戦況は?」
「よくねぇ!あっちは団体だ」
「お前ら、左右に分かれて追い返せ!」
「うわぁ!」
「ダンカン!畜生」
「頭ぁ、海に落ちたダンカンをどうしやす?」
「ダメだ!海中になんぞ夜間に入れるか!」
「うわぁ、大変そう」
「とりあえずは海中に落ちたやつの救助だね。アスカ、そっちは任せたよ」
「はい!逆側に光を放ちますから見ないようにしてくださいね」
「あんたたち、今から左側を見ないようにしな!」
「あ、あんたら!ここは危険だ」
「船体全部が危険だろ、言う通りにしな!ついでにダンカンってやつも助けてやる」
「何だか知らんが頼む。あいつは俺たちの仲間なんだ!」
「はいよ。アスカ、やってくれ!」
「はい!閃光よ、辺りを輝きで満たせ!フラッシュ」
私は杖をかざして船体の左側に強い光を放つ。恐らくこれで海魔もそっちに注意が向かうだろう。さらに夜間戦闘で安全に明かりを出せたことは大きい。
「うおっ!眩しい…だが、明かりさえあれば」
「待ってください!アスカに任せて」
「アスカ?これはあのお嬢ちゃんが!?」
「そうです」
リュートのお陰で船員さんが距離を取った。今なら!
「光よ、辺りを照らせ、ライト!」
私は自分の周囲に複数のライトを作り出し、それを球状にして右側の海面近くにばらまく。
「ダンカンさんは…いた!フライ」
私は全速力でダンカンさんの元へと一直線に向かう。途中海魔が近づいてくればライトで作った球をお見舞いした。夜間に襲撃をかけて来る種だからきっと強い光には抵抗があるだろう。
「思った通り!後は助け出すだけだ。ウィンド!」
私はダンカンさんの周りに風を打ち込んで体には風の膜を張りそのまま魔法で引っ張り上げる。
「一気に上がりますよ!舌噛まないようにしてください」
「は、はいっ!」
フラッシュの明かりよりもさらに上に飛び上がる。
「これで敵の姿と数を…」
空から海魔の姿を見る。見えたのはスラッシャーと呼ばれる海魔だ。姿はカジキに近く剣状の角を持つ恐ろしい相手だ。数は6体ほど。これに夜間というマイナス要因が加わるので大変危険だ。
「降りたらすぐに奥に引っ込んでくださいね」
「でも、あんたたちが…」
「武器もないですし、濡れてて体温奪われてるので邪魔です」
「はい」
ダンカンさんを降ろすとすぐに甲板のへりに立って警戒する。
「皆さん、相手はスラッシャーが6体です」
「おう、嬢ちゃんのお陰でこっちも確認した。今銛を持って来させてる」
「なら、その間はこっちで相手します!」
「はっ!?さっきの魔法は見事だったが、あんなんじゃこいつらは…」
「任せてください!ジャネットさん、リュート!背中は任せました」
「あいよ!」
「うん!」
フラッシュの明かりを再度灯して、スラッシャーに狙いを定める。
「まずはあいつからだね。アルナ!ティタ!他の個体を止めてて」
ピィ!
「わかった」
アルナはウィンドカッターで、ティタはアクアスプラッシュでそれぞれ他の個体を攻撃する。スラッシャーも無視できる攻撃ではないので、私の方に集中することが出来ない。
「まずは小さいやつから!ストーム、からの…トルネード!」
本来ならばトルネードは中心部から風の刃が発生するが、今回は風だけのものにして甲板方面に吹き飛ばす。威力も船のことを考え押さえ気味にしてある。
「2人とも!」
「はいよ!リュート、落下の衝撃の緩和頼むわ」
「ええっ!?…分かりました」
吹き飛ばしたスラッシャーに向かってジャネットさんが一気に駆け寄る。
「はぁぁぁぁぁっ!」
剣を抜き放ち、数度斬るとそこにリュートが風魔法を喰らわせる。するとスラッシャーの体がばらばらと甲板に落ちていく。
「かっこいい~、なんか決め台詞でも言ってそう」
「アスカ、気を抜かないで!」
「は~い、ケノンブレス!」
私は船からこちらをうかがうスラッシャーの頭を撃ち抜く。硬そうな皮膚をしているけど、真空を打ち込むこの魔法なら関係ない。金属とかでなければね。仲間がやられたのを見て怯むどころかスラッシャーはこっちに向き直った。
「このままだと船体にぶつかっちゃう。何とかしないと…とりあえずはストーム!」
風魔法を手前の海面に打ち込み水の壁を作る。
「これで少しは時間が稼げるけど、まずは船からちょっと離さないと」
「アスカ、フライの魔法を!こっちからも仕掛けるよ」
「ジャネットさん帰りは?」
フライの魔法は空を飛ぶことができるけど、一旦地面に着地してしまうとかけ直しが必要だ。現状、スラッシャーに乗るとして、相手が海中に戻る前に再び飛ばないといけない。
「リュートかアスカがどうにかやってくれるだろ?」
「…分かりました。フライ」
私はジャネットさんにフライをかけ、自分はフライブーツを使って飛ぶ。ブーツの方は消費が少ないのもあるけど、魔力さえ通せば発動するのが楽でいい。
「さて、リュート行くよ!アスカ、左舷は任せな」
「はい!とりあえず右舷はこっちで対応します」
「おい、嬢ちゃんたち。俺たちも忘れちゃ困るぜ」
「あんたらはさっきまで見物してただろ?」
「銛も来たしこっからだ!行くぞ!」
「じゃあ中央を頼んだよ。船を守りながらね」
「おうよ!」
「アスカ様、我らもお供します」
「2人はフライは使えますか?」
「テクノが使えます。私は水使いですので海上でも問題ありません」
「分かりました。最初にフラッシュを使うのと、風魔法に巻き込まれないように注意してください」
「了解いたしました」
私はスラッシャーに向き直り、再び戦闘を開始する。
シャァァァァ
「この動きなら!」
私は船から海上に出てウインドカッターで敵の注意を引く。
「そこっ!」
ガキンッ
「かってぇぇぇ~、こいつかてぇよ」
「テクノ、下がれ!」
テクノさんが合図と同時に下がると、ステアさんが魔法を放つ。
「アクアスプラッシュ!」
勢いよく放たれた水流はスラッシャーに当たると、そこから霧散していく。
「ちぃっ!」
鱗の形か分からないけど、外殻は堅そうだ。恐らくさっきのジャネットさんの剣撃がすごいだけなのだろう。船員さんたちの持ってきていた銛も大きかったし。
「テクノさん、鱗に傷をつけましょう!そこからならいけると思います」
「分かったぜ!」
テクノさんと連携して、1体の両側から攻撃する。
「はっ、やぁ!」
風魔法に加えて、弓を取り出し空中から狙いを定める。
「狙うは鱗の隙間!ファングアロー」
ウルフの牙から作った矢に風魔法をまとわせて放つ。テクノさんが注意を引いてくれるお陰で、見事に鱗の隙間に刺さった。
「バースト!」
更にその風魔法を弾けさせ、鱗の一部をはがす。
「今です、ステアさん!」
「了解です。はぁぁぁぁ!」
ステアさんが槍のようなものを突き出し、一気にスラッシャーに突き刺す。スラッシャーは少しじたばた動いたものの動きを止めた。
「この叩き方で行きます!」
「はっ!」
私たちは同様の戦法を使って残りの1体を倒す。
「こちらの討伐完了いたしました」
「すぐに反対側に向かいます。援護を」
「了解」
テクノさんの返事とともに私たちは駆け出していく。
「ジャネットさん!大丈夫ですか?」
「ああ。だけど、やっぱり水中はダメだね。こっちからじゃまともに狙えないよ。1体はそこそこダメージを与えたけど、もう1体は微妙だね。リュートじゃ思い切っていけないってのもあるしね」
「すみません、ジャネットさん」
「まあ、あんたは魔法使いって訳でもないし仕方ないさ。アスカの方は?」
「バッチリです!ステアさんとテクノさんに連携してもらいました」
「へぇ、ふ~ん。こっちも頼むよアスカ」
何だか若干、機嫌の悪いジャネットさんと一緒に私は戦いに再び臨んだのだった。




