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珍品?

今日、私は朝からそわそわしている。実は昨日の夕食には船長さんが言った珍しい食材が使われる予定だったのだが、急遽ハンドラーの料理が入ったため、それが今日の昼食に持ち越されたからだ。


「料理ひとつでなに朝からそわそわしてんだい。みっともないねぇ」


「で、でも、船長さんが珍しいって言うぐらいですよ?気になりませんか?」


「アスカほどは気にならないねぇ」


「リュートは?」


「料理としては気になるけど、食べるのはそこまでかなぁ。ほら、保存食も兼ねてるって言ってたし、それが気になるかな?」


「むぅ~、みんなして~」


私たちは期待に胸を膨らませながらお昼を待った。


「お持ちしました~」


一昨日の出来事から、仲良くなった給仕のお姉さんが今日も食事を持ってきてくれる。給料はそこまで高くないけど、大陸を移動するから、ちょっとしたお土産なんかで儲けも出るお仕事だと言っていた。


「これは…干物?」


「あら、やっぱり貴族の方は知ってたんですね。今日の分は出航して日も経ってないので、保存期間も短いやつですよ。1等船室で好まれない方がいたら、何時も船長が自分で食べちゃうんです!」


「そうなんですね。見た感じ一夜干しとかかなぁ。身もあんまり乾燥してないみたいだし」


「そうなんですよ。ちょっと塩が利いてるだけなのに美味しくて、エールが進むんですよねぇ~」


「何であんたまで知ってるんだい?高いんじゃないのかい?」


「えへへ、食べやすくするのに頭と尻尾は落とすんですよ。だから、その辺は早い者勝ちなんです!私は給仕前の時間だから、まず負けませんね!」


そこは勝ち誇るとこなんだろうかと思ったけど、本人は大満足のようでなにも言わなかった。


「でも、どうしてそんなに高いんですか?」


「それは作るのに時間もかかるし、新鮮なら王都向けに売られちゃいますからね。元は期限が迫ったやつの有効利用だったみたいですよ?だけど、それだと出来の悪いのも増えますから、最初から保存用にしてるんです」


なるほど、新鮮な魚と同じ値段で仕入れて、そこから作業とかが入っちゃうのか。それは高くなりそうだ。


「それに漁をする船も命懸けですからね。同じ海域で海魔に出くわすこともありますし」


「漁をする船も大きいんですか?」


「ん~、そんなにですね。荷揚げが大変ですし、漁師じゃ護衛なんて雇えませんから!この水域に来る船なんて輸送船か軍艦ぐらいですよ!」


じゃあ、マグロとかの大きい魚はあんまり流通しないのかぁ…。この前、港で食べた鯖ぐらいが大きい魚なんだろうな。


「アスカ、手が止まってるけどいいのかい?」


「あっ!食べます食べます。まずはそのまま~」


私は箸を取り出して干物に手を付ける。ぱくっ。


「ん~、塩気も少なくて美味しい~。その分、旨味も感じられるしほんとに出してもらって良かった~」


「どれどれ…確かに旨いね。似たようなのは食べたけど味がまるで違うよ」


「2人とも大袈裟ですよ。塩を振って干しただけでしょ?…えっ!?こんなに味が濃いの?」


「リュート、干物をなめちゃダメだよ。塩で水分が抜けて、ぎゅっと味が凝縮されるんだから!」


ピィ?


「ああ~、アルナはダメダメ。これも一種のお肉だし、塩が多いから体に悪いよ」


アルナは今までも私が美味しいというと、興味が出てちょっとだけ味見をすることがある。ただ、人の食べるものなので小鳥には合わないんだよね。


「アスカの言う通り、ちょっと甘く見てたかも。だけど、塩だけでこんなになるなんて、他にも混ぜたらきっと美味しいよね?」


「それはどうだろう?醤油の一件もあるし」


「ああ、そうだったね」


アルバで初めて醤油を使ってもらった時は大変だった。ほとんどが醤油テイストのなにかで、醤油を抜いた方が美味しいものばかりだったのだ。みりん干しとかもあるけど、しばらくは黙っていよう。


「向こうの港に着くか、釣りが出来るみたいだから釣れたら試すよ」


「うん!でも、1人じゃダメだよ?今日も海魔が出てきたし、誰かと一緒にしてね」


「分かった。まだ、当分は海の上だし僕ものんびりやるよ」


大満足の昼食を終えた私たちは再び暇をもて余していた。


「リュートは早速、船員さんと釣りに行っちゃうし、読書かなぁ。でも、最近はあんまり読んでなかったしそれもいいかな?」


ガザル帝国の本と辞書を出して読み進める。


「たしか前回は腕っぷしの強い人の生活だったよね。安く道場に通えたりと生活には困らない感じだったなぁ~」


とはいえ、酒場などで暴れようものなら直ぐに格上の兵士が来るので威張れることもないみたいだったけど。


「今日はと…女性たちの暮らしかぁ~。どんなのだろ?」


ガザルの女性と言えばしたたかか、大人しいかだ。ほぼ生活が男によるものに起因している。普段から働くものは少なく、どちらかと言えば帰ってきた時に要望に答えられることが重要視される。


「兵士が多いって書いてあったし、横の注釈のところにも年平均で5回は戦場に出るってなってるなぁ。訓練も毎日みたいだし、大変そうだ。遠征までは家にいて、遠征に行ったら働くのか~」


雇用は夫が遠征に行っている間も、何時帰ってきても良いように週雇いか日雇いがほとんどだ。町でも遠征の度に人が足りたり、足りなくなったりと労働人口の変遷が大きい。


「えっと、そのために他国の土地や人を獲得して、領土を広げなくてはならないって、これ逆だと思うんだけど…」


「アスカ、どうしたんだい?」


「ジャネットさん、見てくださいよここ」


「見ろって言っても読めないんだけど」


「そうでした!」


私は本に書かれていることが矛盾しているのではとジャネットさんに聞いてみた。


「あ~。まあ、これを書いたやつとか官僚なんかは気付いてるんじゃない?ただ、始まりを知ればそう思うだけで、現状だけ見れば人が足りないから、他国に攻め入るのが名案に思えるのかもね」


「でも、結局取った土地や奴隷売買の儲けも戦没者手当てに消えてるんですよ?」


「だから、帝国は滅びた。そういうことだろ?アスカはここに書かれていることが間違ってると思うんだよね?」


「はい…」


「なら、そうならないように働きかけるんだね」


「そうですよね!私が頑張れば…って違います!意見が欲しかったんです。そういうのは偉い人に任せますから」


「だから、アスカなんだけどねぇ」


「王都とかには絶対行きませんから!」


「相変わらず変なこだわりだね。あたしだったら喜んで行くのにさ。貴族生活とか楽できていいよ?」


「ら、楽かもしれませんけど、こうやって自由に旅とか出来ませんよ!いいんですか?」


「そう言われちゃね。このメンツからアスカが消えると、戦力的にも厳しいし」


「でしょう?だから、当分そう言う話は受けません!」


「分かったよ」


何て話をしたのもつかの間、読書の気分転換に甲板に出ていると見知らぬ2人組に話しかけられた。


「あの…アスカ様。お時間宜しいでしょうか?」


「ふぇっ!?ど、どなたですか?」


背の高いお姉さんとお兄さんが1人だ。どこかで会ったかな?


「私たちは怪しいものではありません」


「いや、それはみんな最初はそういうと思いますけど…」


自分は怪しいですなんて人がいたらその人は変な人になってしまう。


「違うんです!私たちは神殿の…なんていえばいいのかしら?」


「俺に聞くなよな。でも、なんだ?密偵…でいいのか?」


「密偵!?あの…私何かしましたか?」


「い、いえ、そのアスカ様の出自の件で調査の報告にと…」


「そういえばムルムルに頼んでたんだった!ありがとうございます、こんなところまで」


「いいえ、私たちも休暇代わりになりますので」


「もちろん、船にいる間は護衛もやります」


「そんな!悪いです。折角の休暇なのに…」


「大丈夫です。それにアスカ様に会えたというのにお土産話の一つもなくてはムルムル様が悲しまれますわ」


「じゃあ、その前にお名前を聞いてもいいですか?」


「これは失礼いたしました。私はステア、こっちがテクノです」


「改めましてアスカです。よろしくお願いしますね!」


「ああっ!聞いていた以上に素晴らしい方だ」


「養成所の中途半端に気の大きいガキどもにも見習って欲しいな」


「あんな奴らに会わせる必要はないわ」


「まあまあ、お2人とも。お話ならお部屋で聞きますから」


「す、すみません!さ、行くわよテクノ」


「へいへい」


こうして私はシェルレーネ教の密偵?らしき2人を連れて部屋に戻ったのだった。


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