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出港、中継都市

テンタクラーという海魔を食していると、給仕のお姉さんがやってきた。


「こちら、ちょっと頂いてもよろしくて?」


「構いませんよ」


「食い意地はってんねぇ。副船長なのに」


「あ?珍しいから気になったんだよ」


「ほ、ほら、たくさんありますしどうぞ」


「では、いただきますね。ん…あら?美味しいわ。塩気もあって船上でも食べられるわね」


「ですよね!アヒージョなんかにも使えますし、きっとおいしく食べられますよ」


「今まで、獲るのが大変だから見逃してきましたが、これは商売にもなりそうですね。この醤油というのはどこで売ってますか?」


「醤油は他の大陸から運ばれてきてるみたいです」


「なら、バーバルに行った時に買い付けも出来るか…おいっ!」


「へ、へいっ!」


「船長にこれの手配が出来るように予算を出させろ。後は海産系のレシピについても確認する手配を取りな。アタシらは内海が主な仕事だが、途中の港でも商売になる」


「分かりやした。頭に伝えてきます!」


「ちょっと思ったんですけど、この船の船員さんって頭とかそういう言葉よく使いますよね?」


「ああ、それは大体彼らは元奴隷とかなんです」


「ど、奴隷!?何でまた…」


「理由は色々ですが、こちらには大きなメリットがあります。第一に捕まる人間は大抵腕っぷしはある程度あるということです。荷物の積み込みから海魔の対処までひるむことなくできますから。後は賃金が安いということですね。買う時はそこそこですが、維持費用が安くて大抵の船の船員にはおりますわ」


「危なくないんですか?」


「隷属腕輪など従えさせるものをつけてますから安心してください。また、借金を払い終えて再雇用するかはそれまでの勤務態度で判断しますので、その間に真面目になるものがほとんどです。ただ、言葉遣いは治らないんですが…」


一瞬、あなたも変わらないですよと言いかけたが、何とか踏みとどまった。


「まぁ、姐さんも元海賊ですし、しょうがねぇですよ」


「おい、余計なことは言うな!」


「海賊!?じゃあ、女頭領だったんですか?かっこいい~」


「へ?ああ、そう…そうですね!」


「言っとくけど、この子は変わってるから大方どっかの本に書いてあった義賊とかのイメージだよ」


「なんだ、そっちかよ…。ああいうのは気に食わないね」


「どうしてですか?義憤に駆られて悪徳商人からお金を巻き上げるんですよ?」


「でも、その一部は懐に入ってるわけだ。いくらばらまいたのか知らないけど、手元に入れてる金の方が多いこともあるだろうし、そんなつまらない人気取りは気に入らないね」


そういえば、時代劇の題材となった義賊の人とかも実は…って歴史の先生が言ってた気がするなぁ。生活できることは大事だもんね。


「姐さんは南東にある島国アントレス出身で、操船だけでなく指揮・対人・対海魔と凄腕だったんですぜ!捕まった時もその能力を買われて、直ぐにこの船に来たんでさぁ」


「すごいですね。審査とかないんですか?」


「あったんですが、船長が気に入ってすぐに決まったんでさぁ!あの人も変わりもんですから」


「あいつは卑怯者だ!全く、襲われることを前提に酒に睡眠薬を入れるなど…」


「一網打尽でしたからねぇ…」


「いつかやり返してやるわよ!」


「皆さん事情があるんですねぇ」


「ま、海魔と遭うような職場だし、これぐらいが普通なのかもねぇ」


「それよりも!アスカちゃんでしたか?小さいのにすごい実力ですね。てっきり、護衛の方に守られているのかと思っておりました」


「一応、これでもCランク冒険者ですから!」


「C…ランク?ご冗談で」


お姉さんがジャネットさんに目線を向ける。


「まあ、ほら、Cランクって色々いるからねぇ。表示上はそうなってるってことさ」


「これだけの魔力、うちのにもいたらいいのに」


「まあ、そういうのはない物ねだりってやつさ」


「姐さん!もうすぐ港ですぜ!」


「分かった。総員、上陸準備!」


「「へいっ!」」


「それにしても皆さん息ぴったりですね」


「そうでもないと危険でやってけないってことだろうね。あたしらも見習うところはあると思うよ」


「そうですね。それじゃあ、リュートの看病に行きましょうか!」


「いや、あたしはいいよ」


「ええっ!?この流れでなんで拒否するんですか、ジャネットさん」


「リュートだってあたしよりも、アスカのようなかわいい女の子に看病してもらった方が嬉しいだろ?という訳であたしは船員の仕事でも眺めてるよ」


「…分かりました。でも、ジャネットさんもきれいですよ!私が保証しますから」


私はジャネットさんに伝えたいことを伝え、リュートのいる部屋に戻る。


「全く、自分の顔見てから言えっての。なぁ、アルナ」


ピィ


それだけつぶやくとジャネットは警戒に当たったのだった。



「リュート、起きてる?」


「アスカ?うん、起きてるよ。たまに揺れるしね。そうそう、さっきは揺れがすごかったけど何かあったの?」


「えっと、何でもないよ。ちょっと高波が起きただけだよ」


「そっか。あれ、ジャネットさんはいないの?」


「うん。甲板で船員さんの作業見てるって」


「ふ~ん、アルナまで一緒なんて珍しいね」


「あれ?そういえばアルナもついて来てないや。確かにちょっと珍しいかも」


「ちなみに船は今どこなのか分かったりする?」


「船はねぇ~、なんと!今接舷してるところ」


「ということは港に着いたんだね」


「うん。リュートの言った通り、2時間ぐらいだって。人と少量の荷物を積み終わったらすぐ出発するんだって、副船長のお姉さんが言ってた」


「副船長?立派な人と知り合ったんだね」


「あはは、まあね。とはいっても昨日給仕をしてくれたお姉さんだけどね」


「あの人が…荒くれ者をまとめてるなんて大変そうだね」


「う、うん。だよね」


流石に今のリュートには真実が伝えられず、海魔の襲撃とともに伏せておく。体調悪い時は安静にするのが一番だからね。


「それより、起き上がってるけどもう大丈夫なの?」


「それがあんまり…」


「なら寝てないと駄目だよ?さっ、横になって」


「ありがとう。迷惑かけるね、アスカ」


「これぐらいなんてことないよ。それより、欲しいものがあったら言ってね。いくらでも用意しちゃうから!」


「じゃ、じゃあ、添い寝とかでも?」


「へっ!?」


「何でもない!もう寝る!」


「…リュート、しんどいんだもんしょうがないよね」


普段から甘えないリュートがこう言ってるんだもんね。きっと、私が思ってるより辛いんだろう。


「じゃあ、ちょっとだけ。寝るまでだよ?」


「ア、アスカ!?」


ごそごそとベッドにもぐりこむ。でも、リュート相手とはいえ流石に恥ずかしいな。


「ほ、ほら、ちゃんとお願いは聞いてあげたから寝ないと」


「わ、分かったよ」


それからしばらくするとリュートから寝息が聞こえてきた。


「まあ、ちょっとぐらい私も寝てもいいよね?」


誰に断ることもなく私はつぶやいてそのまま眼を閉じた。



ガチャ


「アスカ~、リュートの調子はどうだい…って何してんのお前?」


「い、いや、これには訳が…」


「どうせアスカが変な気を利かせてやったんだろうけど、なんであんたが起きてんのさ」


「寝られるわけありませんよ」


「ん~、まあそうか。何でもいいけど、変なことはしてないだろうね?」


「変な事って何ですか!」


「し~、アスカが起きちまうだろ」


「すみません」


「とはいえこのまま放っておくとろくなことになりそうにないね。アルナ」


ピィ


「アスカを自分のベッドに運べるか?優しくだぞ」


ピィ~


任せてとアルナは張り切っている。そして、リュートがシーツをめくるとそのままアルナが風の魔法でアスカをベッドに運ぶ。


ピィ!


「ふむ。しばらく見ないうちにアルナもコントロールが良くなったね。さて、あたしは苦手だけどここで本でも読むとするか」


「珍しいですね。ジャネットさんが読書なんて」


「ここにはウルフが一匹いるからねぇ~。流石に野放しにはできないだろ?」


「襲ったりしませんよ!」


「なら、どんなことならするのかねぇ。ほら、さっさと寝なよ。アスカの気遣いを無駄にするなんて許さないからね」


「…分かりました」


リュートも寝たのを確認して本を読み進める。


「はぁ、まあこれで1歩ぐらいは前進したとみていいのか」


左右のベッドを見比べるとアスカは気持ちよさそうに、リュートは時々うんうん唸っている。


「世話の焼ける子ども…とは言いたくないから、妹たちだねぇ」


そうしていると、船が動き始めた。明日は客の乗船なしの予定だし、今日より寄港時間は少ない。とりあえず、初の船旅が無事に済みそうだと安堵したジャネットだった。



この話で港町に着けないので予定から題名替えました。もう何度目でしょうかこの現象…。


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― 新着の感想 ―
[一言] >テンタクラーという海魔を食していると、給仕のお姉さんがやってきた。 >「では、いただきますね。ん…あら?美味しいわ。塩気もあって船上でも食べられるわね」  ひとまずタコ刺しだけ。  酢だ…
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