こぼれ話 アスカと料理とスキルの発現
これはまだアスカがアルバにいて料理を覚えようとしていた時の話です。
「ん~、今回の卵はうまく焼けなかったなぁ」
「アスカは何度もやってる割にまちまちだな。リュートも同じぐらいから始めたが、もう安定してるぞ」
「混ぜ合わせるなら得意なんですけどね~。いわば調合みたいなもんですし」
ライギルさんの指摘にため息を吐きながら答える。実際、焼き始めるまでは完璧なんだけどな。
「確かに料理は分量が重要だから間違っちゃいないがその表現はな」
「料理人のこだわりってやつですか、ライギルさん?」
「そんなもんだ。しかし、アスカが料理をしてるとなんか不思議だな……」
「私が料理するのって変ですか?」
「おかしくはないんだが、どうしてもアスカは食べてる姿の印象がな」
「ちょっ! そんなに食いしん坊キャラじゃないですよ!」
「待てアスカ、火が……」
「へ? うわっ、かけっぱなしだった」
慌てて火を消すと、今度は片面真っ黒の卵焼きもどきが完成した。
「はうっ、修行の道は遠く険しい」
それからも何度か挑戦したものの、何処か間違えたりおかしくなったりと、うまく行かなかった。それから数ヵ月後……。
「ねぇ、リュート。私が料理に失敗するのっひょっとして特異調合のスキルのせいじゃないかな?」
「えっ!? どうしたのいきなり」
「だって細かい細工も難しい調合にも失敗しないのに、ただ焼くだけがうまく行かないんだよ?」
「特異調合は普通のレシピが駄目なんだっけ?」
「そうなの。お陰で薬学のスキルもあるし、採取も得意なのにポーションが作れないの」
特異調合のスキルは難しい配合や、珍しい材料を使って作成する時に成功率が上がる。一見すると良スキルだ。しかし、代わりに一般的な材料だと常人の何倍もの確率で失敗する。初級ポーションなら、新人以下の成功率になる困ったスキルなのだ。
「料理もやってることは調合みたいなものだし、もしかするとそうなのかも」
「いいな~リュートは。調理スキル持ってて」
「特異調合のスキルは珍しいし、どっちもどっちだよ」
「でも、身近なスキルの方がいいよ。便利だし」
「それなら、僕が持ってるからいいんじゃない? 旅に出るならお互い違うスキルの方が助け合えていいでしょ」
「そっか、言われてみればそうかも! なら、リュートに後は任せた! 私は食べるのと新しい料理のアイデアを出すことに専念するね!!」
「えっ、あっ、いや。そこはもう少し頑張らないんだ……」
「頑張ったって、ちょっとできる人とできる人がいたら、ちょっとできる人は要らないでしょ? 大人数じゃないしね。そういうことで料理は任せるね!」
「……はぁ。まあ、アスカがそれでいいならいいけど。なら、野営とか携行食の研究をするよ」
「やった~! がんばってね、リュート」
こうして、リュートは料理の研究を始めたのだった。アスカはというと、これで美味しい料理が旅の途中でも食べられると満足して、この出来事を忘れてしまったのだが……。
構想から40分のショートでした。これだけ一話が短いのは久しぶりです。




