3 天文台の大問題
「県庁から来た新井陽介です。よろしくお願いします」
県庁の職員になった陽介は県立天文台の経営を黒字にしろと、指示され出向しに来たと説明した。ここに勤務する瑠奈は準職員扱いなので、キャリアの彼が眩しく感じていた。
やがて金曜日の夜。彼の歓迎会が行われた。全スタッフが参加した飲み会では、イケメンで賢そうな彼は天文台のバイトスタッフからもモテていた。
しかし瑠奈はポツンと事務おばさんの藤井と食事をしていた。
「瑠奈ちゃんは新井君と同級生かい?」
「そうです」
「ふーん」
ここに館長から逃げてきた陽介がやってきた。結構飲んでいた。
「おい、瑠奈。飲んでるか?」
「はい」
「なんだ?しけたツラして」
「こう言う顔なんです」
この辺りで藤井はトイレに行くと言って二人だけの世界にしたが、瑠奈はみんなが食べないパンナコッタにスプーンをさしていた。
「あのさ。明日の飲み会。楽しみだな」
「……」
たぶん彼が話しているのは、中学時代の友人達が、陽介の帰還を祝って開催するものだろうな、と瑠奈は思っていた。けれど彼女は誘われてなかった。
「みんな新井君が来るなら喜ぶと思うよ」
「ふふ。久しぶりだしな」
疎遠だった瑠奈はどのみち誘われても行くつもりはなかった。今は陽介が楽しそうなので何も言わずにいようと思っていた。
こうして酒席を終えた瑠奈は、お酒を飲んでいないので、さっさと車を運転し、実家に帰ってきたのだった。
翌日の天文台に出社した瑠奈であったが、陽平は県の役員扱いなので、土日は休み。瑠奈は彼と顔を合わせず、仕事をし、月曜日が休館なので会ったのは火曜日だった。
「おはようございます」
「おはよう。あのな、瑠奈、ちょっと来い」
朝の事務所。どこか怒っている陽介にドキとした彼女は、まず郵便物を手渡した。
「新井君。これ、書類が届いてますよ」
「ああ。あのさ、瑠奈」
「……なんですか、あ。電話だ」
陽介は話がある様子であったが、互いに仕事が入り話はできなかった。
こんな彼は火曜日の暇な時間に、職員を集め緊急会議を招集した。
「みなさん。、このままではこの天文台は閉館です」
「「「えええ?やっぱり?」」」
陽介の声に、天文台の職員達は恐れていた事態に真っ青になっていた。
「そこで、これです!」
彼はパワーポイントの画像をスクリーンに映し出した。そこには『星の村』と謳っていた。彼のコンセプトでは、都会から人を呼んで星を見せようと言うものだった。
「8月にペルシウス流星群がきます。その前から前倒しで週末、このイベントを仕掛けます」
新宿から電車で1時間半。そしてこっちでバスを出してここまで来てもらうと彼は話した。
「都会の人がここまで来るの?」
「来ますって」
「そんなに時間をかけて?」
「そこに価値があるんです」
スタッフの不安げな声に、彼は自信満々にうなづいた。彼の想定はホテルや観光を巻き込んだ一大イベントの計画であった。
「ここは空気が澄んでいて。星が綺麗に見えるんです」
「でも。週末はいいとして。本番の8月はホテルだってそんなにないよ?どこに泊まってもらうの」
「テントですよ。それに草の上で寝転んで観測するのが最高です、な?瑠奈」
「え?、ああ、そうですね」
突然話を振られた瑠奈は、過去を聞かれてドキとしたが、彼の話を真剣に聞いていた。
「あの、私は、賛成です!」
普段大人しい彼女の声に、一同は振り向いた。
「みなさん。ここまま潰れるよりもまずやってみましょう。できますよ、ね?館長」
「まあ。やるしかないか」
「決まりですね!よっし」
この話は結構大掛かりで陽介の今後の出世がかかってる雰囲気に、瑠奈は協力せねばならないと誓っていた。
……あの日。星を見せてあげられなかったんだもの。今回は役に立ちたい。
キラキラと企画を語る陽介に瑠奈は協力を誓ったのだった。