2 見上げてごらん
その後。
瑠奈は隣町の高校に進み、地元で就職したいと思った。彼女は地元では人気のある県立天文台の職員に応募することにした。
わずかな募集にたくさんの応募の日。瑠奈の面接時には他の三人が一緒だった。面接官の志望動機を教えて下さいと言う問いに、端の女子高生から答えて行った。
「御社の活動は大変素晴らしく、ずっと憧れでした」
「この町のシンボルですし。事務職に興味があります」
「私は星が好きなので」
こんな中、四番手の瑠奈は普通の理由では絶対埋れてしまうと思った。そこで用意してきた答えと違う言葉を捻り出した。
「私は昔、大切な人に星を見せてあげられなかった事があります。あんな思いをしたくないのでもっと色んな人に星を見て欲しいからです」
「ではね。次の質問。うちに入ったら、何をしたいですか」
言われた事をやる、ネットを使って天文台を広める、まだわからない、と三人は言った。
「私はもうしています。写真が好きなので、天文台の近くで撮った星の写真をネットにアップしています。先日はテレビに投稿して番組で紹介されました」
「私それ見たよ」
このニュースを知っていた館長は喜び出した。
こうして瑠奈は狭き門を突破し就職した。
天文台に事務兼受付兼、売店係員として就職した。
「ようこそ。星の天文台へ。ご案内します」
「うわ?これは税金の無駄遣いだな」
「過疎の村にこんなのいらないべ」
老人達のツアーでは言いたい放題の文句が出てきたが、瑠奈はいつものように答えていった。
「みなさん。この望遠鏡は、土星が見えるんですよ」
「土星って。輪か?」
「そうですよ。さあどうぞ」
こんな彼らに瑠奈は大きな望遠鏡を紹介した。
「望遠鏡は古くからありました。イタリアのガリレオ:ガリレイも望遠鏡で木星を見ていたと言う記録があります」
「それでも地球は回っているって言った人だろう」
「そうです。あの、お客様に座布団一枚お願いできますか?」
瑠奈は寿退社した女先輩の直伝のギャグを飛ばした。ツアーの高齢者は笑って拍手をしてくれた。
「ガイドさん。日本の望遠鏡はどうなんですか?」
「そうですね。国産で作られた江戸時代の望遠鏡があります」
ここで瑠奈は展示のパネルを紹介した。
「望遠鏡のこの部分で使われるレンズがあります。今は機械を使って全面同じ厚みで作られています。しかし江戸時代にはこの機械はありません」
「じゃ。手動かい」
「なんてこった?江戸職人の精魂込めた技術じゃねえか」
彼らは元自動車関連のOBだったので、理系男子の火が付いたのか興味を抱き始めた。
こうして高齢者をあしらった瑠奈はこの後の天文台見学コースを正社員に任せて、自分は仕事に戻ろうとしていた。
「あの……すいません」
「なんですか?」
暗い廊下に残っていた質問の声に彼女は振り向いた。
「おい。やっぱりお前、瑠奈か?」
「陽介君?どうしてここに」
「知らなかった?俺ここに出向になったんだ」
変わらぬ笑顔の彼に、瑠奈の心がドキドキしていた。