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星が流れる時の中で  作者: みちふむ
1/6

1 あの夏の天体観測

「おい……寒いんだけど」

「こっちは平気だよ」

「もっとそっちに行ってよ」


昨日が終わったばかりの夏の草原は冷たい風が吹いていた。黒い空に星明かりは眩しく、その瞬く音が聞こえるようだった。


ブルーシートにフリースを敷き、日焼け顔の中学生達は寝転んでいた。大人達が背後のテントにいる土が香る草の上。彼らはこれから始まる天空ショーに想いを馳せ、宇宙の中にいた。


「ふわ……」

「おい。瑠奈。これからだぞ」

「わかってるけど。あと1時間でしょう?」


陽介の隣の瑠奈は今日のための用意の疲れで、今頃猛烈に眠くなっていた。


「おい。少し寝るか?」

「うん……。悪いけど起こしてくれる?」

「ああ」


親同士が同じ会社の新井陽介に頼んだ瑠奈は眠ってしまった。







「おい。瑠奈!おい」

「……ん?今何時」

「始まったって!おい」

「ふえ?」


自分を起こしてくれた陽介の肩の向こうに少しだけ星の流れが見えた瑠奈は、その美しさに感動したのだった。



やがて夜が明けた草原。中学生と大人達も片付けをしている中、陽介はぽそと瑠奈に声をかけた。


「あーあ。俺、瑠奈のせいで見れなかったし?」

「ごめん。陽介君……」

「え?!陽介。お前、見なかったのかよ」

「す、少しは見たけど」


話に入ってきた男子のせいで、瑠奈の寝落ち事件が仲間にバレてしまった。

当事者よりも周囲がこれをふざけて騒ぐので、瑠奈はすっかり悪者になってしまった。



◇◇◇

陽介は気にしてないと言ってくれたが、居たたまれない瑠奈はその後この仲良しグループから離脱し、一緒に遊ぶのはこれ以降なくなってしまった。



その後、陽介は中学校卒業を機に親の転勤で町を去る事になった。別れの際、陽介の一家は瑠奈の家に挨拶に来てくれたが、彼女は自室から出る事ができなかった。


玄関から聞こえる大人の話し声。瑠奈は猫を抱き二階の夜の窓からそっと下を見た。そこにはスタジャンを着た陽介が立っていた。彼も彼女をじっと見上げていた。



そんな春の吐息の白い夜。彼は最後に振り返り瑠奈に手を振ってくれた。


彼女は勇気を出し、窓を開けて彼に手を振り、青い恋に別れを告げた。





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