心の傷
僕、桧山敬には、子供のころから一緒に遊んだ2歳年上の幼馴染がいる。
瞼を閉じれば、真新しいセーラー服に、何年か前の誕生日にプレゼントしたリボンで括ったポニーテールが跳ねる姿が目に浮かぶ。
くるりと1回転し、
「たかちゃん、どう?似合う?新しい中学校の制服なの。」
「うん。麻衣ちゃん、とても似合ってる。」
小さいころは一緒にお風呂に入ったこともあったが、今の彼女の制服の胸元に、かつてはまっ平だった胸の微かなふくらみを感じ、ドキドキする。
僕は追いかけるように、麻衣ちゃんと同じ中学校に進学する。(校区が同じなので当たり前だが)
そして、誘われるままに、麻衣ちゃんが主将を務める剣道部に入部した。
僕には剣道の才能があったようだ。筋力、スタミナはないが、反射神経と剣裁きの上手さでめきめきと上達し、全国大会に出場するまでになった。
そして麻衣ちゃんは3年生の夏、部活を卒業し、受験勉強に入った。
麻衣ちゃんは、かなりがんばって勉強したらしい、第一希望の有名高校に合格した。
届いたばかりのブレザーに身を包み僕に見せに来る麻衣ちゃん。
「たかちゃん、どう?似合う?新しい高校の制服なの。」と、くるりと1回転する。
すっかり色あせたあのリボンで括ったポニーテールが跳ねる。
「うん。麻衣ちゃん、とても似合ってる。」
かなり膨らんだブレザーの胸のふくらみが目に入り、ドキドキする。
言おう。今、言おう。
「麻衣ちゃん、僕、麻衣ちゃんのこと…」
情けない。声が小声になる。そしてその後の言葉が出てこない。
「た、たかちゃん…」
高校に進学した麻衣ちゃんとは登下校の時間が合わずなかなか会えなかったが、会うとにっこり微笑んでくれる麻衣ちゃん。
僕も、麻衣ちゃんと同じ高校に進学するんだ!そして告白するんだ!
剣道での推薦入試の話もあったがすべて断り、僕は猛勉強して麻衣ちゃんがいるはずの高校に合格した。
これで晴れて、麻衣ちゃんと同じ高校に通えるとわくわくしていたある日。
母が言いにくそうに僕に告げた。
「敬、麻衣ちゃんね。付き合ってた人との間に子供ができて高校中退したんだって。世間体が悪いからって、今、田舎のおばあちゃんの家にいるらしいの。」
「え!なんだって!?」
僕の高校生活は暗かった。
麻衣ちゃんと同じ学校に通いたくて猛勉強したのに。どうしてこうなったんだろう…