火事場泥棒
あの日から麻衣ちゃんと芽衣ちゃん親子も俺のボロアパートに引っ越してきた。
といってもほとんど荷物はない。
着替えと芽衣ちゃんの勉強道具と決して高額ではないだろうプラスチック製の魔法少女グッズ?くらいだ。
なんでも子供のころから魔法少女が好きで貧しい生活の中でもこつこつ集めてたらしい。
このアパートは5人が住むには狭すぎるが、これといった家財がないので、寝る場所はぎりぎりなんとかなった。まぁ、いつもくっついて寝ているわけだが。
そんなある日の夜、俺たちはいつものように隣人が壁を叩く音を聞きながら5人で楽しみ、心地よい眠りについていた。
「火事だ!火事だ!」
バチバチバチ!
なにか騒がしいな…
バチバチバチ!
「火事だ!火事だ!ドンドンドンドン」
俺の部屋のドアを叩く音がする。
バチバチバチ!
ドアを開けると男が「火事だ!逃げろ!」と叫ぶ。
バチバチバチ!
「友里、英里、麻衣ちゃん、芽衣ちゃん、火事だ!起きろ!!」
「ん~、ご主人様~。も、もうできません。むにゃむにゃ」
「わたくしももう無理ですわ。むにゃむにゃ」
「たかちゃんが望むなら、私は、むにゃむにゃ」
「たかしお兄ちゃん、大好き。むにゃむにゃ」
「みんな、火事だ!起きるんだ!!」
バチバチバチ!
俺たちはパジャマ姿のままでアパートを出た。
そして、寒空の中、俺たちのアパートが燃えているのを茫然と見つめるしかできなかった。
他の住民たちも追うように出てくる。あの男が知らせてくれたのだろうか。
泣き崩れる人、力なく笑う人、反応はそれぞれだ。
すると俺たちに火事を知らせてくれた男が煙のなかから出てくる。
顔がすすだらけでよくわからないが、どこかで見覚えがある。
「英里」
「了解」
消防隊員がやっと駆け付けたが、ここは道が狭くてポンプ車が入ってこれない。
もう後の祭りだ。隣家に燃え移らないようにするのが精いっぱいだった。