第六話:Hey, 幼馴染
「んで、蓮」
左では、カバンを肩にかけて梓が両手を後頭部に置きながらとろとろと歩く。
「どうやって小佐田菜摘なんて超可愛い子とお近付きになったんだー?」
「いや、おれがっていうより、向こうから話しかけて来たんだよ、いきなり……」
「そんなわけないでしょう。蓮君は嘘だけはつかない子だと思ってたのに、私は悲しい……」
右では、凛子がカバンを両手で膝の下に提げ、右手だけ上げてめそめそと泣き真似をする。
「いやいや、嘘じゃないんだよ、それが。2人の言いたいことは分からないではないけど」
結局、本当におれを待ってくれていた梓と凛子と並んで高校の最寄駅である新小金井駅までの道を歩いていた。
武蔵野国際高校1年生『ツートップ』との下校道となるわけだが、これはおれにとっては小4から見慣れた景色であり、緊張とはほど遠い、落ち着ける景色でもあった。
「嘘じゃないなら、なんで、蓮なんかと?」
「なんかってお前……。いや、小佐田っておれらと同じ小学校なんだよ。2人とが転校してくる前に転校してっちゃったから入れ違いなんだけど」
「あー、んなこと言ってたなー、高校の入学式の日」
「そうそう。それでおれも入学式以来話してなかったんだけど、小佐田が最近、幼馴染モノの少女マンガ? にハマってるらしくて、それで、幼馴染っていう存在に憧れてる? とかなんとか……」
うん、説明してるとちょっとおれも意味わかんなくなってくる。ていうか恥ずかしい。
「ねえ、その漫画って『もう恋』じゃない? 『もう一度、恋した。』って作品」
「ああー……あれか……」
凛子が言うと、梓がうげえ……といった感じで舌を出した。
「2人とも、読んだことあんのか?」
「まあ、女子の間ではかなり流行ってっからなー。みんな回し読みしてるよ」
「私も何回か勧められて読んでみたことあるなあ」
凛子もなぜか頬を引きつらせている。
「何、そんなに面白くないのか? 流行ってるのに?」
2人の表情のビミョーさに、不安半分でそう尋ねてみると。
「うーん……面白くねーわけじゃねーんだけど……」
「そうねえ、なんと言いますか、幼馴染っていうと、私でいう蓮君だったりするわけじゃない……? それを想像すると、まあ、端的に申し上げると……」
そこで、タイプの違う2人は声を合わせて、
「「気持ち悪い……」」
と言った。
ああー……。
おれは頬をかく。なるほど。
「あ、別に蓮君が気持ち悪いとか、蓮君のことが嫌いってわけじゃないんだよ? そういうことじゃなくて、ただ単純に幼馴染ってちょっと恋愛対象としては見られないっていうか。……実際はそんなことないから、読んでて辛いっていうか」
「そーなんだよなー。あたし、兄貴がいるから、兄貴に恋することになるマンガとかもマジでムリなんだけど、それとおんなじような感覚」
まあ、それはなんとなく分かる。
おれも妹いるから、妹モノのアニメを見たりするのはかなり抵抗があるものだ。
言葉を選ばずに言うと、近親相姦っぽさが気持ち悪いのだ。いや、言葉選べよ。
「つーか、それってさ。菜摘は蓮と付き合いたいってことか?」
「は? なんで?」
話が飛躍しすぎだろ、と眉間にしわを寄せると、横で凛子がため息をついた。
「それが分からない人のことは、『鈍感』じゃなくて『馬鹿』と言うんだよ」
おう、辛辣ぅ……!
カッカッカ、と笑っていた梓が人差し指を空に向けて振りながら説明し始める。
「あのな、少女マンガを読んで、幼馴染に憧れるだろ?」
「もちろん、マンガの中では主人公の女の子は幼馴染に恋をしてるのよね?」
「んで、幼馴染としての関係を蓮に求めてる、と」
「それなら、行く末というか、ゴールは……ねえ?」
2人が交互に説明する。さすが幼馴染同士、息ぴったりだな……。
「んー、なんとなく、そういうんじゃないとは思うんだけどな……」
腕組みをして返した。
「ま、たしかに、あの小佐田菜摘が、蓮とじゃ釣り合わねーよなー」
「武蔵野国際高校1年生の『メインヒロイン』だものね」
ああ、そんな肩書きだったね……。本当に誰が考えてんだろうそういうの。各学年あるらしいぜ?
「あたしも今度、菜摘とちゃんと腹割って話してみてーな。蓮のこと狙ってるかもしんねーのは事実だし」
「そうね。そういうことなら、小佐田さんが蓮君にふさわしい女性か、私たちの目で確かめてあげないと」
ニカッと笑う活発系幼馴染と、不敵に笑うおしとやか系幼馴染。
「いや、さっき釣り合わないって……っていうか、おれのことは恋愛対象として見れないんじゃなかった?」
そうツッコミを入れると。
「「それとこれとは話が別」」
うわー、やっぱり息ぴったりだな……!