【逆転】
僕は耳を疑ったが、さきの顔は真剣だ。
「じゃあ明日は大学に行くよ」
突然なにを言い出すんだ。元カノには別れを告げたんだ。
僕はさきが好きなんだ。そう思っていると、
「言うこと聞く約束でしょ!」
僕は逆らえなかった。
さきの言うことには逆らえないし、僕が変わる事を辞めたらさきとの関係も終わる気がしたからだ。
この時僕がさきに好きだと伝えるべきだったのだろう。
伝えていたら何かが変わったのだろうか。
しかし言う勇気はなかった。
僕は無力だ。
その日は不安で眠れなかった。
次の日、朝起きて僕達は大学に向かった。
さきは一言「頑張ってね」と言い残しどこかに消えていった。
したくないけど、するしかない。
彼女がいつも空きコマにいる場所はよく知っている。
行くと、実際彼女はいた。
近づくと驚いた表情で彼女の方から声をかけてきた。
「え、もしかしてひろ?なんで?」
本当に久しぶりだが、元気そうで良かった。
「あの時、連絡返せなくてごめんね」
そこから僕達は他愛もない話をした。
僕は彼女の顔を見ると楽しかった思い出が蘇り、聞いてしまった。
「彼氏は出来たの?」
すると彼女は少し黙ってから、口を開いた。
「出来たよ」
僕はショックだった。まだどこかで期待していたのかもしれない。
しかしそこから話は続いた、
「でも実は彼氏がちょっと…」
僕は彼氏の愚痴を聞き続けた。
今からこの子を口説く。さきに逆らえないから仕方なくだ。そう思うようにしていたが、本当はまだ未練があったのかもしれない。その日はそれで別れたが、連絡が頻繁に来るようになった。
家に帰るとさきは帰っていたみたいで、
「おつかれさま、どうだった?」
僕は返事をしなかった。
それが原因かは分からないが、次の日からしばらくはそういった話はなくなった。二人で色んな所に遊びに行った。
周りからはカップルと思われてるのかな。なんて思いながら、本当に楽しい時間を過ごした。
さきと二人でいる時間は幸せだった。
さきの事が本当に大好きになっていった。
僕は仕事を始めていた。
さきのおかげだろう、人の扱いが上手くなっていた。
仕事でもどんどん成績を上げていった。
一人でももう不自由なく暮らせるだろう。
でも僕はさきと一緒に居たかったが、僕とさきの関係は一体何なんだろうと思い始めるようになった。
しばらくしてさきから、
「会って欲しい、女の子がいる」
と言い可愛らしい女の子の写真を見せてきた。
「明日この子と喫茶店で待ち合わせしているから行ってね」
「会ってどうするの?」
「口説きなよ」
その言葉で僕はとうとう言ってしまった。
「僕はさきが好きだ。さきと居れたらそれで十分なんだ。」
するとさきは泣きだし、しばらくして一言。
「ごめんなさい」
それ以上は何も言わなかった。
もう何もかも終わったと思った。
俺は正直どうでもよくなっていた。
たださきと幸せに過ごせればそれで十分だったのに、他の女を口説かせたり、元カノと会わせたり、さきは僕の事が好きじゃないんだろう。もうどうでもいい。
俺は家を出た。
次の日、喫茶店に行くと写真の女が待っていた。
正直こんな女はどうでもいい。
しかし俺は、【らい】と名乗り女を口説いた。
俺に口説けない女はいない、女は利用するものだと自分自身に言い聞かせた。
女が落ちるのは早かった。
俺は女と付き合った。
どうやらお金持ちだったらしく、貢いでくれた。
欲しい物はなんでも買ってくれたし、お金もいくらでもくれた。
仕事は辞め、しばらく経って女の金で会社を設立した。
企業した後はすぐに上手くいった。
最近では女優としてテレビに出始めた元カノからアプローチをかけられている。
女とは別れてそっちと付き合おうと思っている。
時は経ち~現在~
夜の街はあの時の様にカップル達で賑わっている。
しばらく歩いていると後ろから、
「おにーさん」
と声をかけてきた。
振り返るとそこにはさきがいた。
さきは驚いた表情で言った。
「久しぶりだね、大分変わったね」
そう言うさきの方が見た目が大分変わっていた。
顔はこけて、体は痩せ細っていたが間違えるはずもない。
「誰かさんのお陰でな」
俺はそう皮肉っぽく返すと、さきは悲しそうな顔をしていた。
しかしそんな事は気にしない。
「私が紹介した子とは上手くいかなかった?」
久しぶりに会ったと思ったらまた違う女の話か。
俺は深く頷いた。
続けてさきはこう言った。
「今は女優と付き合ってるんだってね」
ニュースでも見て知ったのだろう。
俺はもう一度頷いた後に、
「会社の宣伝にもなるからな」
そう言った。これは事実だし本心だ。
するとさきは悲しそうな目をしながら言った。
「あの子だけはだめだよ」
今さら何なんだ、お前はより戻せって言ってただろ。
心の中でそう思いながら、
「もう金なら振り込んだんだから、お前の言うこと聞く必要ないだろ」
と言うと、さきは今にも泣き出しそうだった。
「そうだよね…」
さきがいたから救われたし、今の俺がいる。
これは紛れもない事実だ。
あの時の俺はさきと一緒にいれればそれで良かった。
でも今はそうは思わない、これで会うのも最後だろう。
「さき、今までありがとう」
そう言って俺は立ち去った。
さきの泣き声が聞こえたがもう後ろは振り返らない。
咲いていたマーガレットを踏み潰し俺は前へ進んだ。
おれ変われたんだ。
以前の俺はもういない。
世の中、金が全てなんだ。
これからは周りの人間を利用して生きていく。