おばあちゃん、お元気ですか?私は今、白馬で公道を走る変人に絡まれています。
寒いですね…
おばあちゃん、お元気ですか?
私は今、白馬で公道を走る変人に絡まれています。
私は今朝も朝7時にじりじりと叫ぶ元気な目覚まし時計に起こされ、まだ開ききらない目をこすりながら朝ごはんを食べ、制服に着替えて朝8時20分家を出ます。徒歩20分で学校に着くので家を出るのは遅めです。
公園前で散歩中のおばちゃんに「おはようございます」といつも通りに挨拶をし、東団地入口の横断歩道でぼんやりと信号待ちをする。淡々とした私のいつも通りの日常がはじまる…はずでした。
視線の左上の信号が黄色に変わり、エンジン音が小さくなってきたその時、
なにやら聞きなれない音が私の右耳に届きました。
その音はまるで木箱を地面に叩くように、軽やかに一定のテンポでリズムを刻んでいて。なんというか…「パからっパからっ」といった感じですかね…?
私は突然の聴きなれない音に首を傾げながらも、まぁ、工事でも始めたのかと気に留めず、視線を右斜め上の赤に光る、自動車信号に向けたまにしていました。
しかし、道行く人のざわめきが大きくなるにつれ、その聞きなれぬ音も大きくなってくるのです。
こちらに向かっている?
私も何事かと思い、音の鳴る右方向に首を動かすとそこには、
「白馬に乗った王子様」がいました。
おや、本の読みすぎかい?と思ったかもしれませんが、この状況。この言葉以外でなんと表したらいいのか、わからないほどにその言葉そのもので。
純白の馬の上に、なんだか煌びやかなブレザー…のような何かを着ている少年が乗っているのです。
この状況。まさに物語のあの場面のようで。
…意味がわからない。
何故?
見間違いかと思い視線を前の青にかわった信号機に向けたあと、もう一度右に向ける。
しかし現実は変わらない。というかむしろはっきりと見えるようになってきた。軽やかなリズムも大きく聞こえるようになり、乗る少年の表情もよく見えるようになっています。
ああ、コレは夢なのか!
そう結論づけようとしたその時、
リズムのテンポが少し、遅くなってきました。
あ、赤信号はちゃんと止まるのね。と思い視線を前に戻す。もうすぐ青時間も終わるしアレは見てないことにして、とりあえず信号を渡ろうかと右足を前に出したその時、
「やぁ、馬神高校のレディかな?」
上から声が降ってきました。
思わず「What do you mean ? 」と言ってしまうところでした。確かに私の通う学校は馬神高校ですが、「馬神高校のレディ」とは初めて聞きました…普通に生徒かって聞けよ。何故そこだけ英語?私はかつてないスピードで首を右斜め上に向けると、よくわからない言語を話す少年に目を向けました。
すると画面から飛び出してきたかのような美少年が私の目に写ってきました。色々な意味で驚いた私はどんな表情をしていたのかはわかりませんが、きっと馬鹿みたいに放心したアホ顔だったでしょう。
そんなにおかしな私の表情を見てもなお、馬に乗る少年はキラキラとした笑みでこちらを見ています。眩しい。
信号が赤にかわり、青に変わり、大きなエンジン音が聞こえ、ようやく目を覚ました私が見たものは紛れもない現実でした。
私の表情が変化したのを見た少年は
「もう始業30分前だよ☆後ろ乗っていく?」
と、一言。
ん?どこをつっこんだらいいのでしょう。
情報量が多すぎて、頭がおかしくなりそうです。
まず、始業まで大分時間があります。ここからなら15分程度でごく普通に歩いても着きます。それに遅刻しそうな時間だとしても、見知らぬ人が運転する乗り物に乗るとはあまり喜ばしいことではないですよね。しかも馬に。というか、馬自体は軽車両だった気がするけど、二人乗りはどうなの?捕まらないの…?
この意味のわからない状況に追い討ちをかける言葉を浴びせられ、2度目の放心状態になりそうなのをなんとか耐えた私は、とりあえず断りの言葉でも言おうと口を開きかけたそとき、私の言葉を止めるかのように、
「さぁ!僕の後ろへおいで!とばすよ!」
と、さらに眩しく輝く笑顔で。
その笑顔は目に良いのか悪いのか。
わかりません。
ですが…
どうしましょう…何故だか、申し訳ない気分になりそうです。一応善意で言ってくれているようですし、制服は多少いじってある気がするけれど、正真正銘、馬神高の制服でしたので…むむ…
小さい時に一度は憧れた白馬の王子様。それが今目の前にいて、私に(あまり意味のない)救いの手を差し伸べてくれている。
コレもある意味青春の1ページだと思って素直に受け止めてみるべきなのでしょうか。と半ば諦めのようにぼんやりと考え始めると、
「ねぇ、みてみて!やばいおにーちゃんがいるぅ!!」
「白馬の王子様だぁぁ!」
「え?この人やばぁっ!ちょ、写真!拡散!これ絶対バズるっしょ」
「ままぁ〜あの人馬に乗ってるぅ」
「え?ぁっ、こらっ、見てはいけません!」
「うわぁこいつやべぇ」
「何かの撮影?え?カメラなくね?」
目の前の衝撃を受け止めたからか、周りの声が耳に入ってくるようになりました。少し視線を左右に動かすと大量の好奇や、哀れみの視線がささっています。いつの間にか私達の周りにはギャラリーが十数人。周りのきゃあぎゃあとはしゃぐ声に今頃某SNSに私達の姿が投稿されているのだろうか。と考えていくとこのなんとも言えない状況に嫌気が差してきました。
少年は気がついているのでしょうか。そう思い視線を戻すと、
ただ真っ直ぐに私しか写さない瞳を輝かせ、再度口を開き、
「さぁ!始業のベルがなるよ!僕と共に行こうではないか!」
と、能天気に一言。
私はこの言葉に思わず、
「すみません。私は歩いていくので、貴方は先に行ってください。今すぐ。」
と言ってしまった。
…世間知らずなのだろうか、世間知らずにも程があります。常識の知らない王子様ですね。箱入りなのかなんなのか、少し興味がそそる人間ですが、ちょうど歩行者信号が青に変わったことだしと、変に前へ出していた右足をようやく今度は大きく踏み出しました。
これ以上関わって私の評判をおかしくさせたくない。その一心で歩みを進めていきます。
するとなんだか、後ろからボソボソと風の囁きのような美声が聞こえるような気がしたが気にしてはいけません。無になれ私。いつも通りの学校へ行きましょう。
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「なんだ、あの女…この私の誘いを断っただと?!」
「おもしれー女…♡」
こんな意味のわからない文章をお読みいただきありがとうございました…