全てのいじめられっ子に捧ぐ ~実話をもとに書いた応援作~
この小説は短編である。この小説は一話で終わる。読んで欲しい。
実話を元に書いた。いじめられっ子の話だ。
男の子がいた。その子の名前は賢一。母子家庭の一人っ子だった。母親は、まさしく自分の命を削り育てた。
朝から晩まで働く、保育所に向かいに行く。朝から晩まで働く、保育所に向かいに行く。その繰返しだった。
たまの休日は、家の中、二人で静かに暮らした。旅行や遊園地に連れて行ってあげたかったが・・・。母親は、賢一の将来を考え、お金を貯めておきたかった。
ただ1度だけ、母親は賢一を、その時に流行っていたアニメの映画に連れて行った。賢一は、映画の内容は、もう覚えていない。ただ、映画を見に行った後、母親と二人で食べた海老フライを鮮明に覚えている。母親と手を繋いで入った、高そうなレストラン。
『こんな高そうなレストランに入っていいの?』
そう思ったことを鮮明に覚えている。そして、その日が、とても幸せだったことを覚えている。
賢一の生活が、一変したのは小学一年生からだ。彼は身体が小さく細かった。運動も苦手で奥手な彼は、いじめっ子のターゲットになった。
何故、賢一が選ばれたのか!?考えて欲しい。
読者は蝶と蜂、どちらを選択し、追いかけ捕まえるだろう?
いじめられた方も悪いという意見もある。そうだろうか?筆者は、その意見に疑問を感じる。嫌いなら相手にしなければいいだけではないだろうか。必要以上に相手を、傷つける必要はない。
人の本質は、
『強い者に弱く、弱い者に強い。』
まず、それを認めるべきである。これは悪いことではない。人が生き残る為に育まれた本質である。ただ、
それを無視して、いじめは語れない。
身体能力で劣る賢一は小学1年生~6年生までいじめられた。
1年生になり、ランドセルごと、後ろから蹴られ転がった。小学生の最初の思い出である。
殴られ、蹴られ、心の無い言葉を浴びせられ、バケツの水をかけられた。画ビョウを椅子や上靴に置かれ、そして一人ぼっちにされた。
賢一が悪かった点をあげるとしたら手段かもしれない。賢一は無抵抗を決めた。母親や先生に訴えることもしなかった。
賢一は思った。いつか、誰かが助けてくれる。いつか、いじめっ子が悪いことをしていることに気づいてくれる。自分の力ではない他人の良心に頼った。
その結果、6年間、一度たりとも、誰も助けてくれなかった。そして、いじめが無くなる、その《いつかは》来なかった。賢一を助けようと行動に移すほど、良心が動いた者は一人もいなかったのだ。
賢一は、それでも学校に行き続けた。理由は一つ、大好きな母親の負担を増やしたくなかったからだ。賢一は重い足を、何千回と学校に運んだ。
しかし、いつかは終わりが来る。賢一に対してのいじめが終わる日が、ついに来た。その時、賢一は既に6年生になっていた。
掃除の時間、賢一は塵取りを持ち、クラスメイトの集めたゴミや塵を貰おうと腰を落とした。
その瞬間、いじめっ子の一人が、箒を思いっきり振り、賢一にゴミを掛けたのである。
いじめっ子は笑いながら言った。
「お前の、母ちゃんもお前と一緒で汚くてキモいんだろ!!」
周囲から笑いが漏れた。賢一は自分の母親の悪口を言われ、笑われたのは初めてであった。いじめっ子も周囲のクラスメイトも、いつも通りに賢一が無抵抗を決め込むものだと思っていた。
しかし、今回は違った。賢一は初めて自分の感情を抑えられなかった。自分にとって一番、大切な者を侮辱しやがった。この1点が賢一の沸点を振り切らせた。怒りで我を失った。
筆者はあえて書こう。
『賢一の生命が、燃えたのである!輝いたのである!!』
賢一は持っていた塵取りで、思いっきり苛めっ子の顔を殴りつけた。両手に衝撃を感じたが、溢れ出す想いは止まらなかった。周囲は騒然とした。両手で頭を守っている苛めっ子を、塵取りで何度も殴りつけた。
クラスメイトが二人がかりで止めた。賢一は何か大声で叫んでいる。聞き取れなかった。賢一の表情は怒りで満ちていた。いじめっ子の目は驚きと恐怖が混じっていた。
そして、その日から・・・、賢一に対してのいじめは無くなった。
大人になった賢一は言う。
「他人に頼り切ることは止めました。他人の良心は待っていても動かなかった。結局のところ自分を守れるのは自分しかないんですね。自分から助けを求める勇気が必要だったのではないかと思います。自分から大人に助けを求めた方が良かったのか!?今だに考えますけどね。」
筆者は、生きるということは、自分を全うする戦いだと思っている。
その戦いの最中、悲しみや理不尽なことが降り掛かると思う。その時は、親や先祖から受け継いだ自分の頭、手、足を頼って欲しい。
自分の足で逃げる。頼る相手を自分の頭で考える。自分の口から助けを求める。できることからでいい。自ら行動して欲しい。
アスファルトの隙間からでも、生きようとする雑草の逞しさを持って欲しい。
最後に、人生という孤独な戦いに挑んでいる全ての人達へ。僭越ながら、皆様が最後の最後まで命を燃やし、人生を楽しみ、自分を出しきれるよう健闘を祈らせて頂く。
娘が、いじめられていたことがありました。衝動で書いた作品です。読んでくださった方の何かの助けになれば幸いです。