エピソード5 エラルドの葛藤
ヨシュアからアイラへ正式に婚約の話が届いたのはゼクトリアム家からアイラとハイトの婚約はしないと話を受けた後だった。
そもそも、アイラがエルカディア家の息子の事を気に掛けていた事は、何となく気付いていた。
あの家ならこちらの都合が悪くなった時、どうとでも操作出来る、その時はそう考えていた。
「成る程?ヨシュアとアイラねぇ?いいんじゃない?俺としても二人が結婚してくれるのはとても有り難いよ?ヨシュアがその気になってくれて、本当助かった!」
「・・・・は?」
後に自分の考えはとても甘かったと思い知らされた。
ヨシュアは確かに国から保護される魔力保持者だったが、騎士であり、一度エルカディアから離れている。
ヨシュアの存在がこの国にとって、そこまで重要な存在だと私は認識していなかった。秘匿事項だったから当たり前だが。
「ヨシュアがね?アイラ以外とは子供を作る気がないと言ってるんだ。だから、必ずアイラと夫婦になり、子を残してもらいたい。ヨシュアの血筋をこの国から消さない為にも」
やられた・・・・・完全にヨシュアに嵌められた。
ヨシュアめ、素知らぬ顔をしてこれが狙いだったな。
私さえなんとかしてしまえば、あとはアイラを納得させるだけだ。私の可愛い可愛いアイラが、嫁いで行ってしまう!!
「あなた・・・何を仰っているのですか?もう、アイラもいい歳ですし、どの道、誰かに嫁いでいくのですから、諦めて下さいませ」
「だが!!あんな没落寸前の下流貴族の家にアイラをやるのだと思うと・・・・腹立たしい!!」
「・・・・そうしなければ、陛下の意向にも添えないのでしょう?それに、相手の方の事をアイラは好いております。良かったじゃありませんか」
それも気に入らない!!私の可愛い天使が私やフィクス以外に微笑むなど許しがたい!!
「全く、アイラ本人にはこんな態度一片たりともお見せにならない癖に・・・いざ自分の手から離れるとなるとこの慌てよう・・・全くどうしようもないですわねぇ?」
妻よ。お前は相変わらずドライだな。
もう少し私に優しく接してくれても、いいんだぞ?
そうしたら私も少しは態度を改めないでもない。
「そんなにヨシュアがお気に召さないのですか?貴方に無礼な態度を?」
いや、そんな事はない。
「お久しぶりでございます。エラルド様。相変わらずご公務がお忙しい中お時間を頂き感謝致します」
寧ろ私の前では、かなり礼儀正しい。
フィクスやアイラから普段のヨシュアの様子を聞いて驚いたくらい完璧な対応力。頭の回転も中々早い。
そして、何より・・・・こんな事言うと無礼だと思うが、とても可愛い。
「エラルド様?如何致しました?」
「いや。掛けてくれ。それで?話とはなんだ?」
アイラと並ぶと美しい対の人形のようだと何度も思ったが決して表には出さない。流石に成人を超えた男にそれは失礼すぎるからな。そして私は、とても葛藤している。
ヨシュアの事は気に入っている。
だが、アイラをくれてやるのは気に入らない!!
「実は先日アイラから提案がありまして、エラルド様に確認しておきたい事があるのですが」
「ほう?アイラから提案が?それはなんだ?」
「私を、ヴァンディル家に迎える気持ちがエラルド様にはおありでしょうか?」
・・・・・・・・ヨシュアをヴァンディル家に迎える?
何!?婿養子に来ると言う事か!!
「実は、フィクスとベロニカの事で相談を受けました。この家の後継はフィクスですが、伯爵家に貴族としての素養がないベロニカを迎へ入れるのはかなり難しいのではと。しかし、フィクスは絶対にベロニカを諦めはしないでしょう。ベロニカも覚悟はしていると思いますが、こればかりは本人が頑張ってどうなるものではないのでは?今の段階で何も出来ないベロニカがヴァンディル家に入るより、私が婿養子としてヴァンディル家に入った方が上手く行くのではと考えております」
そうだな、どちらにせよ我が家を軽く見る者はいると思うがその方が揉め事は少ないだろう。
ヨシュアなら、嫌がらせを受けても上手く対応できる。
それに、アイラもヨシュアも子供の頃からこの貴族社会で生きている。問題はないだろう。
「長男のフィクスを蔑ろにする事になりますが、フィクスに話を通したところ、それで構わないと・・・エラルド様のご意見をお伺いしても、よろしいでしょうか?」
本当に。この男には最初から騙された。
無害な顔をして、この私を手の平の上で動かすとは・・・とんでもない奴め。
「そんな事を簡単に決める事は出来ないな?君に私達の面倒を見る気があると?」
「はい。全て。私にお任せ下さい」
お前言い切ったな?しかも自信満々だな?何処から来るんだ?その自信。ヴァンディルは伯爵家だぞ?お前の家とは全く違うんだ。
「私の側には駄目な貴族の見本が常におりましたので。その辺りはしっかり考えて蓄えております。私は元々妻も子供も強く望んでいませんでしたが、自分の資産はしっかりと管理しておりました。この先の事を考えても私の家族やあなた方の面倒を見るくらい問題はないかと?それに、何か問題が起きても、私はこの国の重要保護対象者ですので、この家が没落する・・・などは考えられません」
ニッコリ。
「アイラと結婚後はこの屋敷の側に家を建てようかと。エラルド様はアイラの事を寵愛しておりますので。さぞ、ご心配でしょうから」
うむ!
「それで?いつ婚儀を執り行う?色々手続きをしなければならないからな?」
「ご心配には及びません。全ての書類をここに用意しております。後はエラルド様のサインだけで処理は済みますので」
なんて優秀なんだこの男!!
フィクスよ!この男、実はお前よりやり手かも知れないぞ!お前騙されてるな!!この可愛い顔にだまされてるな!?とても悔しいが・・・これは、この男の粘り勝ちといわざるえない。
老後はアイラとヨシュアと可愛い孫を愛でる事を生きがいに、この悔しさを乗り切る事にするぞ!私は、残りの人生を楽しむ事に決めた!!
アイラ、流石私の娘。大きな獲物釣り上げたものだな!




