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エピソード4 ラットの朝

シリアス。

「お早うございますラット様。よく眠れましたか?」


「よーう。昨日はお疲れさん。ゆっくり休めたのか?顔疲れてんぞ?」


サンチェストの調査に来て一週間。

俺はギャド達の新しい屋敷で寝泊まりしている。


別にわざわざギャド達の家じゃなくてもいいのによ?

お前ら新婚なんだろ?俺どう考えても邪魔じゃね?


「俺はそんなヤワじゃねぇよ。一々そんな事で声かけんな気持ち悪い」


ここに来てから毎日三食食べられる。


カスバールでは何か失敗したり、目的を達成出来ないと食事を与えられなかった。毎朝ちゃんとご飯が出てくる、その事に俺は未だ慣れてねぇ。


「今日もかなり遠くまで行くから、ちゃんと食っとけ。・・・悪いな、俺も本当は一緒について行きてぇんだけど・・・まだ、許可がおりねぇんだよ。鬱陶しい事に」


「まぁまぁそんな風に仰らないで下さい。今日も花の種を配りに行くだけですから。ラット様がいらっしゃれば大丈夫です」


お前ら・・・俺は元々お前らの敵だったんだけどな?

そんな俺を信用すんなよ。頭ん中綿で出来てんじゃね?


「お!これセラが作っただろ?いいんだぞ?無理して作らなくても・・・」


「せっかくティファ様に教えてもらったのです。何か一つくらい食べて頂きたいのです。お嫌です?」


「いや、俺は嬉しいけどよ。本当に無理はするなよ?」


そうだな。

今はセラの方が働き詰だからな?さぞかし歯がゆい思いしてんだろうよ?お前もデズロ並のニート加減だからな?今。


「さっ!ラット様、食べましょう?お飲み物何にします?」


本当に慣れねぇ。この生活・・・。宿舎に居た時はこんな事考えなかったのによ?何でだろうな?あそこでも毎食ちゃんと食べれてたのに。




"役立たずめ。言ったこともまともに出来ない、出来損ないが、餌を貰えると思うなよ?"


"何?あんたまた、また失敗したの?馬鹿ねぇ?もっと上手くやりなさいよ。あはは"


"なんだ? その反抗的な目は? 生意気なガキが・・少し魔力が強いからとナシェス様に取り入って・・・来い! 教育し直してやる"


「・・・・・ううっ・・!」


"ラット様は凄いですよ。私も魔力はありますが、貴方ほど高度な技術を扱いません。素晴らしいですのね?"


"そうですねぇ? カスバールの人間は馬鹿ですねぇ。こんな才能ある人間をドブに捨てているのですよ? 愚かですね"


"ラット様! こ、これどうしたら? ちょっと止まらない!"


"無理無理! こんなのササラ様かラット様じゃなきゃ! 俺死んじゃう! 助けてラット様!"


なんなんだよ。別に俺は何もしてねぇし。

ただ言われた事、そのままやってるだけだろが。


そんな褒められるような事してねぇだろ?


"ラット本当優秀。僕嬉しいなぁ。僕のペットは本当によく出来る子達だよねぇ?"


"デズロ様!! いい加減その弄りやめて下さい! 誤解を招くでしょうが!!"


誤解ってなんだよ。俺達はデズロの奴隷なんだろ?だから、こき使われてアイツの好きな様に振り回されてんだ。それで、飽きたら、捨てられるんだろ?

ちゃんと分かってる。


"えーーー?しょうがないなぁ。じゃあラット僕の弟子になる?君才能あるし、その気なら弟子にしてあげるよ?"


"は!?ササラ様でも貴方の弟子ではないのに、ラット様をお弟子に?本気ですか?"


なんだよ、それ。


"ササラは僕の息子だもの。ラットはそれだけの才能持ってるよ? まだ若いしね? でも、他にやりたい事があるならそれをやればいいよ? その気になったら僕の所に言いにおいで?"


なんで、俺に選択肢なんて与えるんだよ。


もっとちゃんと支配しろよ。じゃないと、俺はどうしたらいいのか、わからなくなる。


「・・・・・ううっ・・・う?」


なんだ?誰か・・・俺のおでこに触ってる。


「・・・・・・・・デズロ?」


いや、デズロが居るはずない。

それに、俺なんでアイツの名前なんて・・・・。


「大丈夫だ・・・・誰もお前を傷つけたりしない。怖がる事ねぇよ」


・・・・・そんなの嘘だね。でも、確かにここは皆、馬鹿みたいに平和ボケしてっから。そうなのかも・・・・。


「怖いものは何もない。ゆっくり休め」


明日目が覚めたら、きっと現実に引き戻される。それまで少しくらい、休んでもいいよな?それぐらい、きっと許される。





「ラット様。大丈夫でしたか?」


「・・・・・どうだろな?うなされてた。よく気づいたな?」


「・・・・ここに来てから様子がおかしかったので。多分カスバールでかなり酷い扱いを受けていたのだと思います。私達が声をかけるたび戸惑った顔をするのです。前からおかしいとは思っていましたが・・・・デズロ様はやはり、わかっていて?」


「・・・・だろうな。あの人もカスバール人だからな。・・・ちゃんと受け入れられればいいけどな」



明日、朝起きて。無機質な何もない部屋で目覚めても、俺は決して驚かない。ああ、アレはやっぱり夢だったんだと俺は受け入れられる。俺は、弱くない。ちゃんと現実を受け入れられる。


早く、朝になればいい。



「おはようございます! ラット様。今日はお休みなんですから、もう少しお休みされてても良かったんですのよ?」


「・・・・・・休み?」


・・・・なんだ休みって。そんなもの俺には必要ない。


「花の種も配り終えたからな?あとは、その花が咲くの待ちだ。俺とセラはこっちに残って経過観察するけど、ラットはこの後宮廷に帰るだろ?その前にちょっと休んでいけ。お前働き過ぎなんだよ。俺も人の事言えねぇけどな!」


「・・・・いや、俺はそんなの・・・」


「とりあえず飯食えや。お前普段、休みの時、何してんだ?忙しいつっても騎士団より休みはあんだろ?」


休みは、仕事をしない時はエリスと時間を潰していた。

下らない悪態をつきながら、いつか、ここから逃げ出してやると・・・・逃げる?一体何から?俺達はここから逃げて一体何処に帰ろうとしてるんだ?


「特に何も・・・大体俺達は奴隷なんだから・・・休みなんて、必要ねぇだろ・・・」


「? 奴隷? サウジスカルにはそんなものは存在しねぇぞ?人を売り買いするのは大罪だ。見つかったらそいつは重い罪を受ける。それに、お前らはこの国の中なら何処にだって行けるだろ?国外に出たいのか?それならちゃんとデズロ様に申請しろ。多分許可出してくれんじゃないか?」


やめろ。認めろよ。俺の言うことを。


「デズロは俺をペットだって言った。俺達の主人だって。それは俺達を奴隷だと言ったんだろ?」


「・・・・お前、あの人の言う事一々間に受けるなよ。からかわれたんだよ。それに、一時的に拘束されて当たり前だろ?お前らがした事考えてみろ。処罰されなかった方がおかしいだろが」


よせよ。そんな事言うな。頭の隅にあった疑問を解いたりしないでくれ。俺達は、俺は・・・・・。


「お前ら明らかにデズロ様に保護されたんだよ。お前達を見て、お前等が置かれていた状況を把握して、デズロ様はお前等二人を自分で引き取る事に決めた。お前達はあの人に守られている」


「違う!!そんな事してデズロになんの得がある!?何もない!!ただ、面倒なだけだ!そんな事、他人のアイツがする筈ない!俺の肉親でさえ、俺を金で簡単に売り払ったんだぞ!!絶対に、そんな事認めない!!」


「・・・・・・・ラット様・・・・」


「ーーーッ!」


な、なんで俺、俺はこんな事でムキになってんだ?

別に真実なんてどうだっていい。ただ、早く答えが欲しい。


「・・・ラット。ここは、カスバールじゃねぇ。この国だって色々な問題は起こる。でもな、それでも今、お前の周りではカスバールみたいな事は起こらない」


触んな!馴れ馴れしい。お前・・・昨日も俺の頭に触っただろ。なんなんだよ!なんでこんな事するんだよ!


「余計な事考えんな。飯を食え。それで、嫌な事は忘れちまえ。そんなに仕事が好きなら好きなだけこき使ってやるぞ?ササラは年中忙しくて最近機嫌が悪いからな?手伝ってやってくれ」


情けない。こんな事で心を取り乱すなんて。

それに、口に入れるスープの味が俺の胸の辺りを締め付ける。


「・・・・これ、ティファのスープだろ」


「よく、分かりましたね?上手く出来てます?」


あの女の料理が、カスバールで嫌悪された理由が、今ならハッキリわかる。


これは毒だ。甘い毒。人の心に染み込んで幸せな気持ちを沸きあがらせる、残酷な味がする。


「ラット様?」


「・・・・・・・・うっ・・・」


思い出すのは耐えられず死んでいった奴等の事ばかりだ。

あそこにいた時は、隣でどんな目にあって死なれようが何も感じなかった。感じないと、思っていたのに。


「・・・・ううう」


アイツ等にも、食わせてやりたかった。

一度でいいから。こんな、嘘みたいに暖かい朝ごはんを。

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