エピソード2ギャドの憂鬱
駄目な大人達。
「オイース!久しぶりだな?」
「お!やっと来たな?大樹の枝が失くなって暫く経つのに全然こちらに来なかったから、父様、とうとうギャドに愛想を尽かされたのだなと思っていた」
だから、なんなんだその愛想を尽かしたとか・・・俺とエルハド様はどんな関係なんだよ。
「あのな?エルシャナ様。俺やエルハド様を揶揄って遊ぶのはいい加減やめてくれ。あれだってそもそも、大樹の影響だったんだろ?おかしいとは思ったんだ。エルハド様らしくなかったしな?」
「いや?父様はあんな感じだぞ?家族にはいつもあれぐらいの近さで接してくる。皆一々逃げたりしないからな。ギャドぐらいだぞ?あんな必死で父様から逃げ回るのは」
マジかよ・・・。
俺、親父にもあんなベタベタされた事ないぞ?
っつーか今まであんな感じで俺に接してきた事なんてなかったじゃねぇか。なんでだよ!!
「・・・・許してやってくれ。あの人ああ見えてかなり不器用なんだ。友人もデズロ様ぐらいしかいない。アレを友人と呼ぶのなら、だが」
「?どういう事だ?」
なんだ?なんかスッキリしない物言いだな?あの二人親友なんだろ?エルハド様が一方的にこき使われてたけどよ?
「・・・・・・まぁ。ギャドにもいずれ分かる時が来るかもな?とにかく前みたいな事はないさ。基本的に人が嫌がる事はしない人だ」
そうでないと困る。
別に、エルハド様が嫌いだとか腹違いの兄弟なのが嫌だとかそんな事はないが、俺は長男だったからな。
・・・・まぁ小さい頃、確かにジェラルドにまとわりつかれた事はあったが、アイツは弟だったからなぁ?
「なんだ?ギャド、来ていたのか?」
「あ、父様。今日はこちらに?」
噂をすれば。
で、どうなんだ?アンタ大丈夫なのか?
「ああ。デズロが迷惑そうだから、最近はアイツと行動するのを控えてる。私ももう少し外に目を向けようと思ってな。今度オスカールで開かれる夜会に私が行こうかと思っているんだが、問題ないか?」
それは、大騒ぎになりそうだなぁ。
オスカールは武力の強化に力を入れているから、エルハド様を知る奴等はきっとエルハド様にご教授賜りたいだろう。あの騎士隊長を筆頭に。
「そりゃ心配だなぁ?俺もついて行くか?騎士団の奴等忙しいだろ?」
「サンチェストはいいのか?」
「あそこは今実質上セラとシエルミンテが管理してる。俺は横で見てるだけだ。俺に仕事をくれ!!」
役立たず再び!!俺は、俺は情けない!でも俺の嫁とっても優秀!!流石!
「・・・いいのかお前。私と行動して」
「は?何がだ?別にかまわねぇぞ?」
もしかしてエルハド様、気にしてるのか?それも、かなり?いやいや、操られたならしょうがねぇだろ?
「あんなに逃げ回ってたではないか。私が嫌いなのでは?」
「・・・・エルハド様。アンタ何を言ってんだ?子供じゃねぇんだから。大の男にベタベタされれば、そりゃ誰だって逃げるだろ?」
「・・・・・・そうなのか?」
「・・・・・・・・おい。エルシャナ?どうなってるんだ?」
今まで全然、気がつかなかったが・・・もしかしてエルハド様根本的におかしいのか?ハッ!まさか!!
「デズロ様ともベタベタしてるんじゃないだろうな?その、抱きついたりとか・・・・」
「・・・・?それが、問題なのか?」
サーーーーーーッ。
俺今、一気に血の気が無くなったわ。
エルハド様とデズロ様って確か子供の頃からの幼馴染だよな?え?じゃあ・・・・・。
「そ、その・・・ほ、頬に・・チューとかしてたり?」
一度されそうになって全力で阻止したが、あの時はマジで手が出そうになったぞ!!流石に我慢したけどな!!
「流石に今はないぞ?私が、というかアイツの癖なんだ。誰が好き好んでいい歳したおっさんにそんな事するんだ、子供にだけだ!」
キリッ!じゃねぇぞ!!そして俺は子供じゃねぇえええ!
ざっけんな!!こりゃ話にならねぇ!
「エルシャナ!!お前らなんで、こんなんなるまでほっといたんだよ!!お前はいいのか!こんな親父でいいのか!?」
「・・・・・何か問題が?」
お前もかーーーーー!?だ、駄目だ!まともな奴がいねぇ!ど、どうしたらいいんだ!アレか?これデズロ様の所為なのか?あの人ふざけてそういう事しそうだもんな?
「大丈夫だ。もう無理矢理嫌がる事などしたりはしない。ただちょっと、私も浮かれていたのだな。ずっと兄弟に憧れを持っていたらしい」
うっ!そうかよ。
全然・・・似てねぇけどな。
エルハド様は完全に母親似だって言ってたもんな。
うまくいかねぇもんだよな。婚外子が親父に似るとか。
「別に、人がいない所で兄貴って呼ぶくらいなら構わねえけど。様付でなんて呼べねぇぞ?気持ち悪い」
「・・・・・もう一度」
ん?なんだよ、呼ばなきゃいけない雰囲気だな。
「あ、兄貴?」
「なんだギャド!!弟よ!!」
ギャーーーー!!やっぱやめりゃ良かった!!
ちょっと可哀想かとか思った俺、馬鹿だった!
ギィッ
「浮気なの?」
「・・・え?デズロ様?」
な、なんだいきなり現れてなんでドアの隙間から覗いてんだよ。入って来いよ、怖いんだよ。
「エルハド酷い。最近、僕の所に来ないと思ったら、帰って来たギャドに夢中だったんだね?本当にお前は節操がないよね・・・・」
待て。何の話をしている?
そしてさり気なく俺を巻き込むのやめとけ。
「何を言っているんだ。お前が付きまとうなと言うから離れていただけで、別にギャドは関係な・・・」
「そうやって、いつも言い訳ばかりして! 僕を弄んで楽しんでいるんだなよね? 本当最低! そっちがそのつもりなら僕も浮気してやる!!」
あ。これは完全に遊んでるな。
よく見ると口許が微かに震えている。
デズロ様。アンタ笑うの堪えてるだろ?
真剣に話を聞いた俺が馬鹿だった。
「・・・・・行くぞエルシャナ。付き合いきれない」
「そうだな? あの二人相思相愛らしいから、邪魔したら悪いからな?」
「ちょ、ちょっと待て!!なんだそれは!! 相思相愛とは何の事だ!」
「ちょっとエルハド?逃げるの? この前は、僕にあんな強烈な愛の告白をして来た癖に・・・」
「お前は少し黙れ!!エルシャナ!その噂一体何処まで・・・・」
とりあえずエルハド様が元気そうで何よりだ。
デズロ様とも喧嘩ではなさそうだしな?
全く・・・皆心配していたから様子を見に来たけどよ?
無駄足だった。
今日も概ね平和だった。
「待て!二人共私を置いて行くんじゃない!」
「ちょっとエルハド?僕の話はまだ終わってないんだけど?」
何があったかは知らねぇけど、さっさと解決してくれよ。
あんたらもう、いい大人なんだから。
こんな事で一々俺を困らせるの、やめて欲しいもんだぜ。




