第50話
「おーい!フィクス!お前妹さんが来てるぞ?」
「え!?アイラが?なんでこんな所に・・・」
初めてアイラを見た時は、フィクスと同じ髪の色にまんまるの瞳。可愛らしい顔の癖に眉を思い切り吊り上げて、精一杯俺達の前で強気な態度を崩さない。生意気な女。そんな印象だったな。
「こんなむさ苦しい場所によくいられますわね?お兄様?正気ですの?」
フィクスが屋敷から出てここで暮らし始めるとアイツは頻繁に通って来た。
そしてフィクスの後を追いかけては早く家に帰ってこいだの自分の買い物に付き合えだの・・・俺には兄妹がいねぇから、こんな妹ならいらねぇと思ったね。
でも、ある日俺は聞いたんだ。
「お兄様。リンディ様からの伝言ですわ。アルドラン様が陛下と謁見されたとか」
「・・・・そう。今度は何を企んでいるのかな?」
「さぁ?ロクなことではない事は確かですわ。お父様はまだ動くなと仰ってますが、お兄様もお気をつけ下さい」
それまでずっとアイラは、ただフィクスに我儘を言いに、ここに来ているのだと思い込んでた。
馬鹿だよな?あんな小さい、いいとこの御令嬢が、ただ我儘言う為だけに、こんな所乗り込んで来るわけねぇわ。
アイツはどんな時だって自分のやるべき事をやって来た。
俺はその日からアイラを目で追うようになった。
俺、あれだけアイラを見てたのに、全然気がつかなかった。お前すげぇな?一体いつから?
お前、どのタイミングで俺の事好きだった?
「え?いつから・・・ですか?」
「・・・全然気がつかなかったからな。そもそも俺とはそんなに関わらなかっただろ?」
「・・・・・・ご挨拶を、した時・・・」
いや、本当に驚いた。
「ヨシュア様。純粋に私の瞳が綺麗だって褒めてくれたんですの・・・よく見ると、お兄様とはちょっと違うって・・・私は、お母様の瞳の色と同じなのでお兄様とは少し違います。その事に気付いたのはヨシュア様だけでした」
その時はアイラは確か・・・13歳くらいだったよな?
・・・・・・え?そんなに前からお前隠してたのか?
いや、それは流石にないよな?
「ヨシュア様、その時、自分の背が低い事をとても気にしてらして、自分より背の高い女とは付き合わないと仰られて・・騎士同士の会話ですから、今考えると深い意味は無かったのだと理解出来ます。でも、凄くショックでしたわ。だから、待つ事にしたのです。ヨシュア様が私に振り向いてくれるような、チャンスが訪れるまで」
これを聞いて俺がどう思ったか?
深く反省したわ!
アイラが何年もしまい込んでいた気持ちを、きっと俺と二人っきりになったあの時、アイラはやっと外に出せたんだ。
それを俺は何も知らずに拒否した。
そんなやり方は駄目だとアイラの話を聞かなかった。
それで振られたと思ってたのに、今度は一方的に婚約を申し込まれてたら、気持ちの整理も出来るわけねぇよな?
そりゃさ?・・・・キレるわ。
「・・・それに、ハイト様が家と口約束をお断りにならなければ、私にはどうすることも出来ませんでしたので。あのタイミングが最大のチャンスでした」
イギギギ!!つまり、ハイトから正式に結婚はしないと言われたんだな?複雑だ!!
「あの、ヨ、ヨシュア様・・・それ以上は・・・」
「え?俺まだ全然撫で回してねぇけど?」
何してるかって?聞くなよ。可愛がってんだよ。
「え!?で、でも余り遅くなるとお父様が心配に・・・」
「そんな遅くならねぇし、俺はアイラが俺にした事をしてるだけだぞ?やましい事なんて何もないだろ?」
「・・・・ふ・・・い、意地悪ですわ!」
駄目駄目そんな顔しても、お前ただ可愛いだけだから。
あー早く一緒に暮らせねぇかな。
「早く嫁に来いよ。俺お前ほど、我慢強くねぇよ」
「過去最高レベルのデレをこんな所で放出するのやめて頂けます?!あれでも婚儀の日程をかなり早めて頂いたのですけれど!!」
「俺は多分お前の親父さんに完全に嫌われたな!もう少し先だと安心しきってたエラルド様のあの顔。俺は今生きてるのが不思議でならない」
「お父様、ああ見えて結構ヨシュア様を気に入ってますわよ?葛藤されてはおりますが」
母よ。
今回ばかりは俺を可愛く産んでくれた事、感謝する。
俺は、可愛いらしいぞ?はは!誰が可愛いだコラ!!
「ヨシュア様」
「あん?」
「ヨシュア様は私のワンちゃんですわよね?」
そうだな?そう、約束したな?
「ヨシュア様にお願いしたい事がございますの」
嫌な予感しかしないし、本当は絶対頷きたくない。
だけど、そうだな・・・・・。
「アイラ、犬に言う事を聞かせたいなら、ちゃんとご褒美が必要なんだぜ?先にご褒美をくれるなら、考える」
「じゃ、じゃあ、先にお願いを言わせて下さいませ。今言わないと後で、ヨシュア様に恨まれそうですので」
それを聞いて、俺がどうしたかって?
うん?もう、滅茶滅茶ご褒美もらったよな?
じゃなきゃ、割にあわねぇぞ!ゴラ!!!




