第49話
シリアス。
前に進もうとするラット
置いて行かれる事が理解できないエリス
「・・・・・音が止んだな・・」
「止んだわねぇ?リンリンリン煩いったらないわ。雑音ね」
そうか?俺はそんな事も無かったぞ?
エリス、お前にはアレが雑音に聞こえてんだな?
「何よ。弱ってるって聞いたから、わざわざ来てやったけど、元気そうじゃない?弱ってたらいじめてやろうと思ってたのにね?」
相変わらず歪んでんな?
でも、なんでだか、前みたいにイライラしねぇ。
「・・・・俺、カスバールには帰らねぇ」
「は?帰れると思ってたの?私達はここに囚われているのよ?使い捨てられるまでね」
「・・・・違う。・・・自分の意思で・・・帰らない」
「・・・・・・ラット?あんた、どしたの?」
悪いエリス。
もう、俺は気付き始めてんだ。
俺達は、ちゃんと受け入れなきゃいけないって。
「俺は、ここで生きていくって決めた。死ぬまで、ここで。もう、誰にも支配されないし支配しない。奴隷にもならない。ただ、一人の人間として、生きてく。誰も俺を迎えに来ない現実を、受け入れる事にした」
「・・・・・まったく意味がわからないんだけど?何が言いたいの?」
俺達は、ずっと誰かに支配されながら生きてきた。
歩く方向さえ一から十まで決められて自分では何もする事を許されない。そんな人生を過ごして来た。
誰にも顧みられる事なく道具として利用されて、いらなくなったら捨てられる。俺達はそういうモノだと受け入れた。
そうしないと、生きていられなかったからだ。
でも、ここは違う。
「俺、デズロの側にいたい。アイツの役に立ちたい。お前だって、本当はわかってんだろ?デズロは別にオモチャなんて必要ない。俺達はアイツに助けられたんだよ」
「何言ってんのよ?あんだけこき使われて遊ばれた癖に懲りないのね?何?ちょっと優しくされてほだされちゃったの?チョロ!!」
違う。
アレはわざとだ。
急激に変わる環境を俺達が受け入れられないってデズロはわかってた。
ここに来て、一度だって俺達にアイツが手をあげた事あったか?アイツが俺達に触れるのは、いつだってふざけて抱きつくか、褒める時に頭を撫でるくらいだった。
「この国は多分新しい時代を迎える。さっきまで鳴り響いてた音色はその予兆だと思うぜ。俺は、この国を支える手助けをするって決めた」
「はっ!本格的にこの国の犬になるって?好きにしたらぁ?私には関係ない。私は、こんな国の為に命を捧げるなんてゴメンだわ」
「違う。俺は、ここに住んでる奴等が嫌いじゃない。だから、ここで生きたいんだよ」
エリス。
お前もなんて事は言わねぇ。
お前はまだ、無理なんだろ?
別にそれはいいんだよ。
無理矢理整理が出来てないお前を付き合わせようなんて、思ってねぇ。
でも・・・・お前とはなんだかんだで付き合いが長い。
俺は、お前に、悪いと思う。
「ゴメンな、エリス・・・もう、お前とは一緒にいてやれない。俺は、先に行って待ってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
お前がまだ、自分の置かれた環境を理解できない事も、今までされてきたことを受け入れられない事も全部分かってる。
わざと自分を追い込まないと不安で立っていられないんだろ?自分がまともじゃないと思い込んで、それを、楽しむ振りをしてるんだよな?
そういう風に、お前はアイツらに思い込まされたから。
「なんだそれ?勝手にどこでも好きな所に行きなさいよ?私はあんたの事なんかこれっぽちも気にかけたことなんてない!ただ一緒にここに囚われていいようにコキ使われて哀れだったから構ってあげてただけよ?何勘違いしてんの?自惚れんなクソガキが!!えっらそうに!!」
俺も、そう思ってたぜ?
お前の事なんかこれっぽっちも気にしてないって、どうでもいいって。
・・・・でもじゃあ、なんでそんな怒るんだよ。
「デズロの側に居たいって?気持ち悪!!あんなおっさんの何処がいいのよ?まだササラの方がマシだわ!そんなにデズロと居たいなら好きにすればいい。アイツに枯れるまで尽くして、ボロボロにされて捨てられるがいいわ!!その時はそんなアンタをそれ見たことかと笑ってやるから!!裏切り者め!!」
・・・・・エリス。
お前とは一緒に居てやれないけど、俺はお前がいつか、そこから出てこれる事を願ってるんだ。
本当に、それだけは嘘じゃねぇから。
「今まで、ありがとなエリス。俺お前の事、口で言う程嫌いでも無かったぜ?」
だから、いつかお前にも・・ちゃんと人を愛せる時が、来るといいな?それを、俺は願ってる。




