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第48話

「よいしょっと!」


今日の作業はこれで終わりかしら?

まさか、ここに来て重労働をする事になろうとは・・・本当に貴族の妻とは思えないですわ。


「カーシャ様!そんな重いもの持たなくてもいいんですよ?私達が運びますので!」


「あはは!人出は多い方がいいでしょう?それに、ここでは、これくらいしか役に立てませんもの、私も夫も」


頭脳が役に立たないのなら体を使わなければね?

そうは思いませんこと?シェスタ!!


「カーシャ・・・私はもう、足腰が立たないよぅ・・」


「そうですの?では手で歩いたらいかがです?」


「ま、まぁまぁカーシャ様・・・そ、そのような・・・」


甘やかさないで下さいませ!!

この男、本当に腹立たしい!!


こんな所に来てまでメソメソメソメソ・・・役立たずめ!


「力仕事が出来ないのならここに来ないで下さいませ。邪魔ですわ」


「で、でも、カーシャ一人にこんな事させられないよ。私はあくまで領主様の補佐役だから、時間はあるし・・・」


そこで時間が出来る事自体おかしいのですわ!!

もっと真剣に補佐役に徹して下さいませ!!


「お、怒らないでカーシャ。・・・もう、ずっと怒りっぱなしだよね?」


「当たり前ですわ!! 今生きているだけでもありがたいと思って下さいませ!! 貴方はヨシュアの命を危険に晒したのですわよ!!」


「う、うん・・・ごめん」


いーーーーー!!!ごめんじゃないですわ!!貴方の、貴方の所為でどれ程私が・・・ロザリア様が!


「ごめん、本当に・・・・」


「・・・・・・・」


リーーーーーーーーン


・・・・・違いますわね。


ロザリア様仰ってましたわ。


シェスタ様が悪いのではないって。


シェスタ様は何も知らなかった。


何も知らないままロザリア様と結婚し、ヨシュア様が生まれた。


それは驚きますわよね?


だって、普通の人間だと思っていた妻から獣が産まれたのです。


・・・・・何も知らなかったシェスタ様に、それを受け入れろなんて、自分勝手ですわ。


「ごめん」


「・・・もう、謝らないで下さいませ」


わかってます。

本当に、本当に最低なのは私達だって。


生き残るために何も知らないシェスタ様を利用した。


ロザリア様はそれをよくわかっていたから、決してシェスタ様を責めることはしませんでした。


「手、血が出ていますわ。手当をしないと」


シェスタ様は、本当に気も弱くて貧弱で頭も余りよろしくなくて、貴族の後継としては失格の人間ですわね。


でも、きっと普通の平民として生まれていたのなら、気の優しい朗らかな善良な男性として誰からも愛された筈ですわ。皆、この人に期待を押し付け過ぎただけ。


「カ、カーシャ?どうしたの?なんで泣くの?」


ずっと。この人が憎かった。


ロザリア様を守ってくれなかった。

守る事が出来なかったこの人を。


でも、じゃあ私は?

私は、一体何が出来たと?


ヨシュアを守ってと言われたのに私はヨシュアを守るどころか益々孤立させた。


騎士になりたいと必死で頑張るあの子の邪魔をして、でも、結局あの子を隠し切ることはかなわなかった。


そしてあの子は一人で戦ってロザリアの仇をとった。


私は、何の為にシェスタと結婚したのかしら。

シェスタを騙してまで。ヨシュアを傷つけてまで。


「カーシャ・・・泣かないで。ほ、ほら!疲れてるんだね?少し休もう?さっき差し入れでブドウジュースを頂いたんだよ?採れたてだって言ってたから美味しいよ?」


シェスタが優しくしてくれるたび、胸の奥の方でギシギシと音を立てる。私はこの人が憎いのに、申し訳ない気持ちで一杯で、優しくしたいと思うのに、それさえままならない。シェスタが私を気遣う度優しくしてくれる度、消えてしまいたくなる。


もう、こんな事は終わりにしなければいけないのに。


「シェスタ・・・私ここを出て行きますわ」


「え!?な、何で?わ、わ、私が余りにも頼りないからとうとう愛想を尽かして?」


「・・・・私、貴方を騙していたのですわ。最初から」


ヨシュアはもう、私など居なくても大丈夫ですわ。

それに、シェスタ様もお一人なら十分暮らしていける筈。


元々贅沢などはされない方ですし、頭は悪いですが人に使われるお仕事なら問題ありませんわ、きっと。

私はシェスタのお荷物になるだけです。


「お金目当てで貴方と一緒になりました。生活が苦しくて、でも、もうこんな事続けて行くのは無理ですわ」


「知ってるよ?それが何か問題なのかな?」


「・・・・・・は?」


知っていた?じゃあ何故?


「君がロザリアと仲が良い事も知っていた。ロザリアが亡くなる前、君と何か話していた事も。ロザリア、自分が亡くなった後、 私が直ぐに再婚できるよう準備してたんだ」


「・・・・気付いていたのに・・何故?」


「えー?だって、君はとても素敵だし、なによりヨシュアの事とても可愛がってくれたでしょ?ヨシュアは全然懐いてくれなかったけど、君はそれでヨシュアを諦めたりしなかった。最後まで、あの子の事気にかけてくれたでしょ?」


・・・・・ロザリア様。


「君が子供は望まないって言った時は少し悲しくなったけど、子供はヨシュアだけでいいって言ってくれた事はとても嬉しかった。それほど私の子供の事を愛してくれる。そんな相手君以外いるのかな?」


ごめんなさい、ロザリア様。


「ちゃんと、貴方のことも愛しておりますわ」


「・・・・うん。知ってる」


ごめんなさい。ごめんなさい・・・私。

本当はもうずっと。駄目だって思ってたのに。


[いい歳して真昼間からイチャついてんじゃねーよ。思春期かコラ]


「「え!?」」


え?ヨシュア?その姿は・・・青い狼・・・?


「わ!わわわわ!!」


[情けねぇなぁ相変わらず。そんなに怖いのか?この姿]


「ご、ご、ご、ごめん!ヨシュア君・・・わ、私は」


そういえば、シェスタはヨシュアのこの姿が受け入れられないのでしたわね?とても、美しいのに。


「そんな姿でこんな所まで・・何か用でも?」


[そうだな。もう二度と会わないと思ってたけどよ。その前に一度くらいは親孝行してみるのも悪くないかと思ってよ?]


「必要ありませんわ。貴方はもう、充分私達に親孝行しておりますもの」


もう会えないと思っていたけれど、最後に貴方に会えて良かった。・・・・・・無事で、良かったわ。


「ヨシュア。貴方が元気で生きている。それだけで私達は満足なのです。長生きなさい。そして、アイラ様と幸せになりなさい」


ロザリア様もきっと満足してくれる。

そうですわよね?ロザリア様?


・・・・・ヨシュア?

何?何故私達の側に・・・・。


「・・・・うん。ありがとう。・・・・・・お母様」


リーーーーーーーーン


ありがとう。ロザリア様。


「泣くな。笑えよ。・・・たまには、笑ってる顔を見たい」


「・・・・・ひぐっ・・・ヨシュア」


私に、素敵な家族を持たせてくれて。

本当に・・・。私、幸せですわ。

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