第42話
「ロザリアの居場所を突き止めた。あの女、あろう事かサンチコアの貴族に嫁いでおったわ」
叔父はサンチェストではとてもいい領主として有名な人だった。
私は、いつもこの方と比べられた。
この人には子供がいない。
この人がいなくなった後、私はこの地を管理しなければならなかった。
でも、私はこの地が大嫌いだ。
この方はこんな善人の顔をして、裏では沢山の人間を殺していた。その手口は巧妙で、決して、誰にも気付かれなかった。
私も、本人に知らされるまで全く知らなかった。
「アレはデェラドリンデの最期の生き残りだ。早く、消してしまわねば・・・私の息子を殺した、あの、一族を」
何故、私は叔父の言葉を信じたりしたのだろう。
何故、あの人に逆らうことが出来なかった?
あの山は昔から立ち入りを禁じられていた山だった。
そして、青い花に触れる事も禁忌だった。
それを犯したのは、この人の子供の方だった。
そして、デェラドリンデは助けなかったのではなく、助けられなかっただけだった。
あれは、ただの逆恨みだ。そして、ただの虐殺だった。
そうして、巻き込まれた人間も同様に消されていった。
謎の流行病の被害者として。
そして、私も加害者になった。
「なんだ?その荷物サンチコアまで運ぶのか?俺、今から向かうから運んでやろうか?」
彼は、私の幼馴染だった。
立場は違ったけれど、幼い頃から私を気遣い
立場など関係なく寄り添い続けてくれた、私の、ただ一人の親友。
「い、いや。大丈夫だ。・・・叔父から頼まれた大事な荷物だから。俺が自分で運ぶ」
「そうか?じゃあ一緒に行こうぜ?そんなに荷物多くないし」
どうして、私はあの時、お前を振り払ってでも一人で行かなかったんだろう。お前は気づいてたんだろう?私が、危険なものをサンチコアに運ばなければならないと・・・。
そして、お前は知ってしまった。
私は・・・・どうしたら良かった?
「・・・・・もう、こんな事は最期にしてくれ。やく、そく・・・してくれ」
そうだな。そのつもりだった。
それなのに、お前の息子は騎士になった。
そして・・・・ヨシュアと出会った。
ヨシュアは俺の叔父の悪事を突き止めた。
そして、叔父は囚われ処罰された。秘密裏に。
次は?
そう、次は私だ。
ヨシュアの母親を殺す手助けをした。
あいつの息子とヨシュアが私達を殺しにくる。
私を罰する為に、私を追い詰める為に。
ヨシュアはいずれヴァンディル家の令嬢と結婚し、今よりも力を手に入れる。
そうなった時、私はともかく私の妻や娘はどうなる?
叔父は容赦なくヨシュアの家族に手をかけた。
きっと、ヨシュアもそうするに違いない。
あの、花さえなければこんな事にはならなかったのに。
あの、呪われた青い花さえ、無ければ。
「・・・・・・・・・・・」
ここはどこだ?
そうだ。
アイツの息子に斬られた。
まだ、私は生きていたのか。
キルトはどうなった?死んだのか?
あの花を直接肌に刺したんだ・・・助かりはしないな。
これで、私は本当の人殺しだ。
「・・・・・デェラドリンデを、殺さなければ」
どうして?
そんな事もう、忘れてしまった。
だが、もう後戻りは出来ない。
私は、叔父と変わらない。
自分の為に、人を殺した。
自分の、大事な親友と、その子供を。
自分を、守る為に。
「陛下!大変です!!」
「えー?今度は何?」
「罪人が医療院から逃げ出しました!サンチェストの領主です!」
「は?見張りは何してたの?」
「何かの毒を使われたようです!一体・・・何処に隠していたのか・・・」
「・・・・・・ヨシュアを呼んで。ササラとデズロ様も後ハイトも呼び出して。もし、途中で罪人を見つけたら・・・・・殺せ」
デェラドリンデを、この世から。一人残らず。
二度とあの花を作り出さぬように。




