第19話
[あらぁ?珍しいお客様ねぇ?]
「お初にお目にかかる。君はこの国の精霊だとデズロから聞いている」
エルハドが私に会いに来るなんて初めてじゃないかしら?
ちょっと私、驚いているわよ?あ、私?私はこの国の精霊よ?名前はないわ。マチ湖が私の本体よ。
[貴女もこの姿の私が見えるのね?ティファの料理の影響かしら?それともレインハートと私の繋がりがそうさせているのかしらね?]
「すまない。私は君の事を全く知らなかったのだ。それに、デズロも軽々しく精霊に近づいてはいけないと言ったのでな。挨拶が大分遅れた」
アハ!相変わらず面白い人ね?
そして全く申し訳なさそうじゃないわ!
[元々私達は人間とは積極的に接触しないわ。気にしないで?それで?今日は一人でどうしたのかしら?]
「大樹の枝がまだ残っているんだ。それを処理したいのだが、どうしたら安全に処理できるのか分からない。同じ精霊の貴女なら、その方法が分かるかと思ってな。これは、聞いたらマズイ事だろうか?」
[あ!そうだったわね?すっかり忘れてたわ。それ多分私の所為だわ]
「それは、どういう事だろうか?」
[あの枝をセルシスに渡したのは、私なのよ。その時枝が壊れないおまじないをかけたのを忘れていたわ。今すぐ解除しておくわ]
あら?ビックリした顔してるわね?
そんな事、考えもしなかったという顔ね?
[時間が過ぎれば解けるものではあるけれど、貴方達にとっては厄災意外の何物でもないものね?エルハド、手を]
「?」
貴方と一緒に力を使うのは初めてね?
ずっと私を放置してたんだから、少しは働きなさい?
[さぁ!!風に乗るわよ!!]
「ーーーッこれは!」
高く高く空へ飛ぶわよ!!
そして降り注ぎなさい!!
一気に行くわよ!
「え?何?雨?」
「アレ?でも、雲一つ無いけど?」
「・・・・・これは・・・」
「デズロ様!大樹の枝が!」
「・・・・この雨、普通の雨と違うね・・・で?枝がどうしたの?」
「急に枯れ始めて・・何故・・」
「・・・・そう」
あら?デズロ。そんな寂しそうな顔しては駄目よ?
新しい精霊の誕生を祝福してあげて?
貴方と大樹も・・・長いこと一緒に居たものね?
[エルハド。もうこれで大丈夫よ?安心して城に帰りなさい]
「・・・デズロをカスバールに返した方がいいだろうか?」
そう。貴方はそれで、心に隙が出来たのね?
[貴方は私に気付いたから、いい事を教えてあげる。カスバールに新たに育つ精霊と繋がっているのは確かにデズロの一族よ?でもね、それは義務ではなく運命なの]
「・・?だから、側にいた方が良いのだろう?」
[いいえ?別にいなくても私達は存在できる。消えたとしても新しく精霊は産み出される。問題ないわよ?]
ん?何よその顔?間抜け顔ね?
「・・・では、我々は何のために貴女達と繋がっているんだ?」
[さぁ?世界の理を全て説明する事は出来ないし、分からない。私達はそういうものだと知っているだけ。そしてきっとそれは今回みたいな事例の時、役に立つのではないの?]
「人間の都合で精霊が脅かされた時に?」
[私達はこの世界に生きる共同の生命体だわ。その世界が危機的状況に陥れば、それを正さなければならない。私達は精霊だけど万能ではない。あくまで人間とは違う生き物なのよ]
少しは納得してくれた?
後は、自分でなんとかしなさいね?
[私を恨んでる? デズロの下へ導いた事を]
「・・・・・・・私の人生はデズロに振り回されっぱなしだったからな。だが、恨んではいないぞ?」
確かにメチャクチャだったわね? でも、それはデズロもよ?分かっていると思うけど。
「・・・そういえばハイトは帰って来た後、魔力保持者になっていた。それは、何を意味する?」
あら?ちゃんと気付いていたの?ふふふ。
[ヨシュアと同じよ。ハイトも聖樹の力を持つ人間になった。知らなかったかもしれないけど、精霊が人間に生まれ変わると、その子孫はその能力の一部を継いでいく。元々魔力を持つ人間達の元祖はそうやって産み出されてきたの。時が経てばその力も薄まるわよ]
まぁそれには、また長い年月が必要になるけどね。
「その事を後世に記録として残してもいいか?」
[構わないわよ?そうしないとまた勘違いした同族に滅ぼされちゃうものね?人間って本当に臆病なのね?]
「・・・・それに関しては言い訳のしようもないな。まさか、最後の一人になるまで気付かないとは・・・」
ちょっと喋り過ぎちゃったわね。
なかなか楽しかったわよエルハド。
[ヨシュアの先祖は私の前の精霊よ?この国を慈しみ守っていた青い森の精霊。貴方達に守りきれるかしらね?]
「・・・・ヨシュアが考えを変えたからな。希望は見えてきたぞ?」
そうね。このまま消えてしまうのは、可哀想だわ。
せっかく人間になれたのだから。
[この国の精霊はもう私だけ。精霊は厄災を運んでは来ない。もしその兆しが現れるのなら、それは人がもたらすものしかない]
「充分だ。長く引き止めて悪かった。後一つ、貴女は我々に何を望んでいる?」
あら?そう、私の願いを叶えてくれるのね?
[エルハド]
朝目覚め陽の光を浴びて
息を目一杯吸い込んでみなさい
この世界には貴方達以外にも沢山の生命が生きている
何気なく貴方達が口にする物は無機質な物ではない
ちゃんと貴方達の体に息づいている
目に見えなくても貴方達は沢山の愛に包まれている
そう、私のような存在が貴方達を慈しんでいる
[この世界を愛して・・・エルハド]
貴方に、それが出来るかしら?